お見合い！？
XX Years later 〜 ちょっと、だいぶ未来のお話 ３〜
シンは、子わんこです。
ちょっと大人になった子わんこです。（ホント？）
旦那様のお仕事にくっついて、お他所のコロニーに来た子わんこです。
子わんこ、ここでちょっと迷子になっちゃいました。（なってないもん！）
でも、ここでお仕事してるコーディネイタードッグのアスワンさんに、旦那様を待ってたお部屋まで、連れてきてもらいました。
アスワンさんは、シンのご主人様にそっくりです。
そっくりで、やさしくって、お菓子くれて、いい匂いで・・・だから、シンはアスワンさんが大好きになりました。
だからね、お仕事終わった旦那様にね、ちゃんとご報告したんです。
「アスランさんにそっくりな人に会ったんだよ！アスワンさんって言ってね、耳、ぴんってしててね、しっぽ、くるんてしててね、秋田犬かもしんない！」
シン、さすがにもう自分が秋田犬のなれないことは知っています。
でもやっぱり、秋田犬は憧れなのです。
「ああ、迷子になっていたらしいな、小僧」
しかし旦那様、シンの言うことまったく聞いてません。
「迷子じゃないもん！」
シンがわんわん主張していると、アスワンさんとシンを待合室に入れてくれたレイが、旦那様にそっとメモ書きを渡しました。
「シンを保護してくれた者の身元です」
「情報部所属、コーディネイタードッグのアスワン・Z・フェブラリウスか。どんな奴だった」
シンは、アスワンさんのアドレスなんかはメモ帳に書いてもらったけど、どこでお仕事してるのかとか、全然聞いてませんでした。その辺、レイのフォローは完璧です。
「とてもきちんとした印象でした。だいぶ小型でしたが、柴犬のようです。それからその・・・とても、綺麗なコーディネイタードッグでした」
珍しく言いよどんだ様子のレイに、旦那様はちょっとだけ首を傾げました。でも、様子より内容の方が重要です。
だって、旦那様は今、シンのお嫁さんを探しているんです。
シンもお年頃なのに、ご主人様はなんか嫌そうだし、子わんこもご主人様大好きで、全然その気がありません。
今までも、何度かお見合いさせようとしたのに、みーんな断っちゃうんです。
このままじゃいかん！と、旦那様、いろんな意味で思うんです。
うん。いろんな意味で。
豆柴じゃなくても、小型の柴犬。きちんとした綺麗な子。
しかも、ご主人様に似ていて、シンも懐いている様子です。
よし、と旦那様は思いました。
タナボタだけど行けるかも知れん！
「タナボタ」っていうか、既に「藁にも縋る」状態なのですが、旦那様そんな自分は認めません。
「仕事の邪魔をさせたんだ。礼をしないとな」
口実ならばっちりです。
「お礼？俺も行くー！」
アスワンさんにまた会いたい子わんこは、はいはいはーいって、手を上げました。
「この後、基地司令官殿との打ち合わせが１７時まで。夕食の約束は、市長のキャンセルがあったので入っておりませんが」
「丁度いいな。レイ、後で情報部の・・・分室か？ここは。連絡を入れておいてくれ。それからコーディネイタードッグが喜びそうな店をどこか」
「はい」
えっと、ってことは、アスワンさんとお夕食？
子わんこ、大喜び！！
でも、すぐに旦那様はニヤリと意地悪く笑いました。
「それから・・・コイツがまた迷子にならんよう、その辺にくくっておけ」
「はい」
「えーっ！、わーっ！、なにすんだようっ！」
その後、午後いっぱい、シンは控え室に閉じ込められてしまいました。
アスワンたちのお仕事は、たいてい定刻に終わります。
定刻じゃないと、動物愛護団体から抗議が来るんです。
人間も動物なのに、残業いっぱいでもいいのかなぁと不思議に思いますが、早く帰れるのは良いことです。
帰る準備をしていると、電話が入りました。
アスワンがミケルたちにまた昼間の可愛い子のことでぎゅうぎゅうにされているので、ニャコルがそれを取りました。
「はい、情報部分室です」
それから、ニャコルはいきなり尻尾をびんっ！って立てて、ぐいっとアスワンに受話器を突き出しました。
「アスワン、国防総監の秘書官だってヒトから電話入ってるんですけど・・・」
「ああ、シンのことかな」
アスワンはけろりとして電話を取りました。
大物っていうより、鈍いんです。
「いえ、俺はただ通りがかっただけですから。・・・はい。はい。ええと・・・はい。じゃあ、お言葉に甘えて。・・・・・ああ、少し待ってください」
なにやらお話していたアスワンは、受話器を片手で押さえてみんなに言いました。
「さっきの子、やっぱり国防総監殿の家の子だったらしい。お礼に夕食に招待したいって。仕事場のみんなも一緒にどうかって言われたんだけど」
それに、みんなぎょっとします。
「俺ら仕事違うじゃん。さぼってんのばれるからいい」
「そうだな」
諜報員のにゃんこたちが、揃って首を振りました。
「僕も遠慮します。ピアノの稽古が入っていますから」
ちょっと冷や汗付きのニャコルも、そう言ってにっこり笑います。
「・・・そうか」
ちょっと残念そうなアスワンは、みんなが『あの最前線の白鬼とメシが食えるかよ！怖ぇ！！』とか思ってるなんて、夢にも思いません。
「すみません。皆予定があるみたいです。・・・・はい。・・・・お勧めですか？ええと、地下の体臭食堂３号店が美味しいですけど。・・・・はあ、そうですよね。すみません、お任せします。・・・・・あの、青魚にアレルギーがあるんですが、他のものがあればどこでも。はい。じゃあよろしくお願いします」
「・・・・さすがアスワンだよな・・・・・・・」
かちゃんと電話を切るアスワンを、みんな英雄を見る目で眺めていました。
偉い人に会うので、アスワンは待ち合わせのロビーで、ぱたぱたと制服の裾を叩きました。
換毛期じゃないので、毛の一本も落ちてこないのですけれど、代わりに機械油の染みを見つけてしまいました。
でも、見なかったことにしました。
そうして時計を見ようとしましたら、何かがててーーっとやってくるのがわかって、アスワンは、今度は余裕でそれを抱きとめました。
「アスワンさん！」
「こんばんは、シン。・・・お招きありがとうございます。ジュール国防総監」
それから、上司の上司の上司の・・・ええと、もひとつくらい上司の人に、きちんと敬礼をしました。
お耳も尻尾もぴん！と立って、男前！ってシンは思いました。
でも、国防総監殿は、目を真ん丸くして立ち尽くしてしまっています。
いい男が台無しです。
お隣で、シンのお友達のレイが、国防総監を見上げて言いました。
「・・・お疑いはもっともですが、隊長、恐らくギルではありません。元隊長に会った後では、年齢が合いませんから」
それを聞きながら、旦那様は、ぎゅーっと拳を握り締めました。
だって、今目の前で敬礼をしているちいさい黒柴は、黒い耳と尻尾、それからだいぶちいさいのを除けば、どー見ても旦那様の奥さんです。
生きてる人間の遺伝子を、丸のまんまコーディネイタードッグやコーディネイターキャットにすることは、法律で禁止されています。
でも、禁止されていても、やっちゃう奴はやっちゃうって、隊長は知ってます。
特に、偉い奴はできちゃうって。
「いや、他にやりそうなのに心当たりがある」
やりそうな奴でできちゃう奴。デュランダル元議長でなければ。
「パトリック・ザラだ」
あんの変態オヤジ！アスランに死ぬほどトラウマ植付けといて挙句にコレか！！
そりゃあ、拳もぶるぶるするってもんです。
でも、そんな隊長を見上げて、アスワンはぽかんとしています。
ああもうほんとに、こんなトコもそっくりだ。
旦那様、ため息。
まあ、ソレはアノ親父のせいで、コレのせいではないんだし。
「うちのチビが世話になったそうだな、礼を言う」
隊長は、アスワンのちいちゃな手に手を差し出して、握手しました。
「いいえ、本当に・・・たいしたことじゃありませんから」
ちいちゃいアスワンはちいちゃくて可愛くて、隊長の口元も思わず緩んでしまいました。
「アスワンさんは何食べる？」
「えっと、君は何にするの？」
「俺ハンバーグ！」
「じゃあ、俺はロールキャベツでいいですか？」
「遠慮するな。好きなものを食え」
「じゃあ俺、目玉焼き乗っけるー！」
「貴様に言ったんじゃない！」
「見て見て！アイスおっきいのあるよ！」
「シン、それはパフェだ」
「食いきれるだけにしろ！」
レイが選んでくれたのは、個室があるちょっといいレストラン。
これなら、シンが騒いでも隊長が怒鳴っても大丈夫です。
ちゃんと、シンみたいにお手手が肉球のわんこでも食べられる、食器も先割れスプーンもありますよ。
シンは、目玉焼きを半分床に落っことして泣きそうになったところで、アスワンさんにロールキャベツを一口もらってご機嫌になりました。
代わりにハンバーグを一口あげたら、「ありがとう。美味しいね」って言ってくれましたｖ
時々、隊長がアスワンさんに、「どこのファクトリーの出身だ？」とか、「仕事はどうだ？」とか効いて、アスワンさんが答えるたんびに、頷いたり、唸ったりしてました。
楽しいお食事会は、アスワンさんと半分このチョコレートパフェで締めました。
とってもとっても美味しかったですｖ
食べ終わって、「ごちそうさま」ってして。
シンは、名残惜しくアスワンさんの足にしがみ付いています。
「アスワンさん、明日あそぼ？」
そうやって聞いたらね。
「馬鹿者。キサマは明日仕事だ」
そう、旦那様が言って。
「ごめん。俺も仕事なんだよ」
アスワンさんまで、そんなこと言って。
「お仕事終わったらー！」
でもね、そうやって主張したのに。
「ブリュンヒルデは明日１７００出港予定だ！俺だけ出てくれば良かったものを、ディアッカの奴が入港を決めちまっただけだからな！」
隊長、イジワルー！
「クルーへの心遣いだと思いますが」
「わかっとるわ！」
「うーーっ」
シン、ほんとはわぁわぁ泣いちゃいそうだったんだけど、アスワンさんの前だから、うぐうぐしながら我慢しました。
泣いちゃうのは、かっちょ悪いんです。
男前は、こんなことじゃ泣かないんです。
でもでも。
「うーーーー」
うぐうぐしてるシンの頭を、アスワンさんはやさしく撫でてくれました。
「連絡するよ。次のお休みはいつ？」
「えっとね、えっとね、この後、Ｌ４に行ってね・・・」
「作戦行動を洩らすな馬鹿者！」
なのに、また隊長に怒られちゃって。
でも、隊長も、アスワンさんの頭を撫でて言ってくれました。
「まあ、２〜３週間後というところだな。君も、マティウスに来ることがあったらうちに寄ってくれ」
「はい」
ぴっ、と敬礼したアスワンさんは、とってもかっちょ良くって。
シンも、真似っこして敬礼しました。
旦那様とレイも、なんだかちょっとびみょーな顔をして、それでもちゃんとアスワンさんをお見送りしてあげました。
「・・・レイ」
「はい。とりあえず、私からは元隊長には話しません。ですが」
「小僧のことなら心配はないだろう。事実が正確に伝わるとは思えん」
「しかし、シンは家のアドレスを教えていました。画像付きで通信されたら、ひと目でわかります」
「・・・・早めに帰ってなんとかできるよう、努力する」
なんとかって、どうする気ですか。
思ったレイは、アスワンさんの後姿にいつまでも手を振っていたシンが、ちょこちょこと戻ってきたので、すぐにそちらに注意を戻しました。
今回の件も、レイがうっかりシンを一人にしちゃったのが原因でしたからね。
「隊長、早くお仕事終わして帰ろうね！！」
「・・・・ああ」
それでも、そのうっかりに、後々感謝する日が来るかも知れないなぁ、と。
ちょこちょこと先を行くシンを見ながら、レイはちょっと思いました。
「シン、そっちじゃない」
「小僧！また迷子になる気か！」
まあたぶん、来たとしても、だいぶ先のことでしょうけどね。