おまえは、僕
ぐちゅ、ずちゅ、と、下肢から耳を覆いたくなるような音が、絶え間なく響いている。
コイツはいつも、もういらんというくらいローションを使い倒して自分のそこを濡らしてくるから、いつもは気にならない、こんなことばかりが気にかかる。
他の男とするときは、２、３回出されればこのくらい濡れているだろうけれど、その頃には自分だって訳わからなくなっているから、音なんてどうでもいいのに。
「う・・・っ、ん、ん、んふ・・・・・っ」
しかし、音が気になって集中できない割には、体の中を擦られる快楽は、兵部の全身を浸し切っていた。
体の奥から少しづつ。
緩やかに、追い上げられていく快感。
「ふぁ、や・・・っ」
「う・・・・っ」
射精する瞬間のそれが、びくびくと体内で跳ねるのを、思い切り食い締めるのは大好きだ。
だいたいそれで、兵部も一緒にイってしまう。
中を満たしていく熱い精液を味わえば、もうそれだけで、なんにもいらないくらいに満足できる、安い体だというのに。
なのに。
「は・・・っ」
射精を果たしたそれを抜き出されても、ぐちゅりと音を立てたのは、最初に流し込まれたローションだけだった。
自分のそこが、熱を求めてひくひくとうごめいているのがよくわかる。
物足りなさに甘苦しい息を吐き、兵部はコンドームの処理をする男を、投げ出された脚でもってげしげしと蹴った。
「中で出せよー、皆本クン」
「出せるか！」
律儀に答えてくる男は、全裸の兵部とは対照的に、背広の上着は脱いでいても、後はネクタイとズボンの前を緩めただけだ。
その、チャックの間から顔を出しているモノに、兵部はついと手を伸ばした。
「じゃあもっかい」
「あのな」
そう言いながらも、皆本はその手を避けようとしない。
もとより、兵部として１回で済んだ覚えがないのだから仕方がない。
「足りねぇんだよ。誰のせいだ」
「あのな・・・」
ため息をつく皆本のそれをぐいと握り、兵部はそれを、ぱくりとくわえ込んだ。
口に入りきらない根本や袋を指先で愛撫しながら、先端から中程まで、ねっとりと舌を這わせる手管は自慢のもの。
口の中で、それがどんどん大きくなっていく感覚は、味覚ではないどこかで、しかし確かに『旨い』と感じる。
裏筋の凹凸に擦り付けた舌が、とろけそうに心地いい。
つるりとした先端が喉に当たり。えづいた拍子に涙が出て、飲み込めなかった唾液が、だらりと顎を伝ってこぼれ落ちた。
「ん・・・・っ」
もじもじと腰を揺らめかせ、もうそろそろかと欲に濡れ切った瞳を上げて、相手の様子を確かめたその視線がトドメとなって。
皆本は、兵部の後ろ髪を掴んで自分の股間から引き剥がすと、シーツの上へ組み伏せた。
「なんだよ、やる気じゃん」
「誰のせいだよ」
「って」
ぱし、と皆本の手からコンドームの小袋を叩き落とした兵部は、しかしもう一度それを拾い直したのを見て取って、今度それをテレポートさせた。
もちろん、側にあった箱ごとだ。
しかし皆本も慣れたもの。
側に投げ出された背広の内ポケットに手を突っ込むので、背広ごとテレポートさせると、今度はズボンのポケットから同じものを取り出した。
「常備かよ。エロいなぁ皆本クン」
呆れたように言った兵部は、しかしそれもどこかへ飛ばしてしまう。
「偉いと言ってくれ・・・」
がっくりとうなだれたところを見ると、もうストックはないらしい。
うむ、と満足げに頷いた兵部は、これ見よがしに脚を開いて見せた。
「はーやーく」
「いいけど、中じゃ出さないぞ」
「ぜってえ絞り取ってやる」
「言ってろ」
嫌そうに兵部を睨んだ皆本は、しかしそのまま目の前まで上げられた足首を掴み、そのまま濡れたそこへ押し込んできた。
「ふ、ぁ・・・・」
やっぱり、生は気持ちいい。
後は、イく直前に抜くとか、そういう意味のないことをしないように見張らねば。
「ん、ん、ん、ふ・・・・」
皆本の動きは相変わらず緩やかで、しかし、２回目はそれくらいが丁度いい。
熟れた襞を丁寧にかき混ぜられて、ゆったりとした快楽の波をたゆたうと、このままずっとこうしていたいとさえ思ってしまう。
「いぁっ、うン・・・」
少し角度を変えられて、うっとりと閉じかけていた目を思わず開けると、してやったりという皆本の顔。
の、向こうに。
『えっと、うん。ちょっとは知ってたけど』
うわー、とでも言いたげに自分を見下ろす、実体のない少年の姿を見つけ、兵部は眉間に皺を刻んだ。
『失せろ』
テレパシーでそう返すも、何せ相手は【自分】なのだ。それくらいで堪えたりはしない。
『ホントにミナモトとしてるんだ・・・』
跳ねた前髪をひょこりと揺らし、そう続けた【京介】に、兵部の機嫌は急降下する。
「失せろっつってるだろ」
思わず声に出してしまい、なんにも知らない皆本が、へこりと不思議そうに小首を傾げた。
「兵部？」
「てめぇも黙れ」
シーツを掴んでいた両手でがっきとその頭をとっ捕まえて、がふ、とキスをすると、単純な皆本は大人しくそれに応え、後ろの子供は嫌そうな表情の奥に、羨ましさを見え隠れさせだした。
ざまあみろだ。
「いいから」
どちらのものかわからない唾液を、たっぷりと乗せた唇を離し、兵部は自分の額を相手のそれへと打ち付ける。
ごつりと当たった傷の感触に、皆本は痛そうな顔をしたけれど、眼鏡が当たって兵部も痛かったからお相子だ。
「おまえは、僕を気持ちよくさせてればいいんだよ」
そう囁くと、皆本は表情を歪めて、先ほどよりも、激しく腰を動かしだした。
「んぁ・・・っ」
なんだ、やっぱり我慢してたのか、馬鹿め。
そう嗤いながらその動きに腰を合わせ、淫らに体をくねらせながら、兵部はちらりと自らを穿つ男の背後を見やった。
少年は、ただ、羨ましそうに兵部を見ている。
でも。
おまえは、僕だ。
なら、これで十分だろう。
「・・・くっ」
きゅう、と中を締め上げれば、皆本は身を固くして息を詰めた。
「・・・ふっ」
それを吐息だけで嗤うと、兵部は掴まれていた足を無理矢理下ろし、皆本の腰に絡み付け、締め付けた。
「言ったろ、絞り取ってやるって」
「て、め・・・」
剥き出しになるオスの貌。
腰に剛い指が食い込んで、その痛みにさえ感じてしまう。
大きさ固さを増した雄に、中を惨く穿たれて、思わず腰を跳ね上げる。
ああ、なんて気持ちがいい。
その快楽に夢中になった兵部には、子供の視線も、自分のそこが立てるいやらしい音も、もう、どうでもよくなっていて。
ただ。
そろそろイく、と思った頃に、ふわりと浮かんだ言葉だけが、頭の奥に妙に残った。
『そう、おまえは僕だよ』、と。