お灸
「・・・で？」
自分にのし掛かった男を見上げ、兵部はあーなんかやばいなー、と、うすらぼんやりと思った。
いつもの皆本のベッド。
いつもの体勢で、きっといつものようにただ気持ちの良いセックスを愉しもうと思っていた兵部に危機感はない。
だってこんなノーマル眼鏡野郎、すぐ吹っ飛ばせるし。
「何か、僕に言うことないか」
なのに、威圧感を感じるのはなんでだろう、と不思議に思いながら、兵部はニイ、といつものように笑んだ。
「何をだよ。・・・ああ、可愛く『抱いてｖ』とか行って欲しいのか？」
うえー、とすぐに嫌な顔を作った兵部に、皆本はいつものように怒鳴り返す。
「バレてないとでも思ってんのかお前は！」
なんだこのやろう、と、兵部ももちろん怒鳴り返し。
「だから何がだよ！」
「昼間のことに決まってんだろ！」
「昼間の何だ！」
「ティムやバレットの異変のことに決まってんだろうがー！」
薫の、と、皆本は言わなかった。
そこまでバレてんのかよこーいーつはー
ノーマルのくせに生意気な。
言わないけどな。
もうこうなったら絶っ対言わないけどな！
兵部京介は、どうしようもなく意地っ張りなのだ。
そうしてその意地は今現在、皆本に対して最も強固に発動するのだ。
はーっ、と、皆本が大きく息をついた。
フン、諦めたか。
そう思った兵部が、ふ、と息を緩めると。
皆本は、眼鏡の奥の瞳を半眼にして。
「おまえ自身は、何やったかわかってんだろうし」
いやまあ、危険物うっかり落としたの僕だけど。
絶対言わないけど。
そう、明後日を見た兵部に。
「灸を据えてやる」
皆本はそう、低い声で言った。
「ミナモトクン何言って・・・うわ」
いつもより乱暴に、学ランのズボンを引き剥がされた。
するつもりで来たのだから、下着はもちろんつけていない。
そうすれば、この一見真面目に見えて子供の体に手を出す変態眼鏡が、やたらと興奮するのをわかっているのだ。
「へんたい」
そう言って嗤えば。
「うるさい」
そう返されて、するりと敏感な膝裏から腿の内側を撫で上げられた。
「んっ・・・」
脚の間の際どいところを指の腹でくすぐられれば、期待に震える前が力を持ちはじめ、入れられる擦られる快感を知っている後ろも、きゅうと口をつぐむ。
しかし皆本は、その手を着たままのシャツの中に突っ込んでしまい。
脇腹を撫で上げられて、急所を支配される感覚に内蔵が震えた。
「んっ、脱ぐ・・・」
学ランの中の肌が熱い。
解放されたくて金ボタンに手をやるが、その前に皆本の指が胸の先を摘み上げてしまい、突き抜けた快感に、それどころではなくなってしまった。
「ひゃン！」
「なんだかんだでお前、ＥＣＭよりこっちの方が弱いんだよな」
胸で感じて、膝を擦り合わせ、涎を垂らして感じ入る。
正直、こんな顔を余所で晒されても困るので、こんな時にしか使えないが。
この暴れん坊ジジイを大人しくさせるには、気持ちよくさせてしまうのが、一番いいのだ。
そのまま、片手は胸を。
もう片方の手は腹から脚を、兵部の触れて欲しいところだけを外して愛撫する。
それだけで、世界最悪のエスパー犯罪者は、ボタンを外そうとしていた学ランの胸を掴み締めて、ただその体をのたうたせるのだ。
「今日は着たまま、な」
その手を取って、きつくかじる。
それだけで快感を感じる体は、しかし皆本の言葉により煽られていた。
「尻だけ、寄越せって？」
返した声が、欲望にかすれていることを確認して。
「ああ」
そう返せば、ははっ、と彼らしい嗤い声が立った。
「いーい趣味してやがるぜ」
「誰のせいだよ」
本当に、誰のせいだ。
ぐしゃぐしゃに乱れた学ランを着たまま、下肢を晒して喘ぐ少年の姿をしたジジイに欲情するなんて。
そうして、こんなことを思いついてしまうなんて。
兵部のせい以外にはありえない。
皆本は、ベッド脇の机の引き出しから、いつものようにローションを引っ張りだした。
それを眺める兵部の瞳は、黒々と濡れて今にも溶け出しそうだ。
しかし、続けて取り出されたものを見て、その瞳は大きく見開かれた。
「え、何バカお前何持ってんだ」
それは、いわゆるバイブレーターというやつだった。
太さはないが、グロテスクなピンク色をした、趣味の悪い大人のおもちゃだ。
「お前が前に持って来たやつだよ」
「え、いつだよ！？」
「お前が来るようになってすぐ・・・かな」
そういえば、うぶな皆本をからかおうと、なんかそんなの持って来たことがあるような、ないような。
しかし、そんなこと兵部はとうに忘れていたし、当然まだ持っているなんて予想の範囲外だった。
「物持ちいいな年寄りか！」
「年寄りはお前だろ」
「そうじゃねえ！・・っぁ」
そう言いながら、相手を吹っ飛ばそうとするのだが、すかさず前を握られて、集中を途切れさせてしまう。
皆本の手は、気持ちいい。
程良く邪険で乱暴で、しかし、快感が飛んでしまうほどの痛みは与えてこない。
絶妙の力加減で兵部を惑乱させた皆本は、そのまま掴んだそこを軸にして、その体をうつ伏せに返してしまった。
そうして腰を引き上げれば、高く腰を突き出した、入れて欲しい雌の姿勢の出来上がりだ。
「お前、痛いのとか気持ちいいだけだもんな。こういうのの方が堪えるだろ？」
目の端には、グロテスクな色のオモチャに、更にグロテスクな色のコンドームが被せられていくのがちらりと見えた。
いつもはゴムなんかつけないのに、こういうのには被せて来るなんて趣味が悪すぎる。
「これ細いし、慣らさなくっていいだろ」
「よくな、ぅあ・・・・つ」
ローションを尻に垂らされて、ジェル付きのコンドームを被せられた固いものが入り口に当たる。
やだやだ、それ、やだ。
そう、言葉にする前に。
「い、ぅ・・・・」
皆本の言うとおり、男のものより細いそれは、口をつぐんだままの入り口を割り開いて。
そのまま、ぐうっと侵入ってきてしまう。
男遊びに慣れた兵部だが、逆に相手に困ったことがなく、こういった器具を使う機会はそうなかった。
固い無機物の感触に、体の中は酷く戸惑い。
そうして。
酷いことをされている、と、認識してしまった。
「っ、・・・く」
「ああ、やっぱり気持ちいいんだ」
気持ちいい。
すごく、気持ちいい。
直接的な刺激としては物足りない部類に入るのだろうが、慣らしもせずに固い無機物を押し込まれるシチュエーションが、兵部の快感を底上げした。
あふ、とこぼされた吐息に、皆本が満足げに笑ったのは、兵部の見えないところだったが。
「あ、あ、あ、あ、・・・・」
ゆっくりと、それが引き抜かれて。
奇妙な凹凸をもったそれが、ずるずると腸壁を引き掻いて。
「兵部、わかるか」
その場所の近くで声がすれば、その吐息に、ひや、と濡れた襞が冷やされる感覚。
「中の襞、出て来ちまってる」
「ーーーーっ！」
思わずそこを固く締め、入れられているものを味わってしまう。
それを更に引かれ。
見られているそこを強く意識したとたんに、また、深々と突き刺された。
「い、あぅぅっ」
細い。足りない。
でも固い。気持ちいい。
「ふぁ、ああ・・・・っ」
そのまま激しく抜き差しされて、陶然とした声が漏れてしまう。
もどかしい快感に揺らした腰の動きの意味を、皆本はよくよくわかっていた。
「でもこれじゃ、足りないかな」
ずり、と、それが引き抜かれた。
やっともらえる、と、安堵したのもつかの間。
皆本の指が、ぐうっと中へ入ってきて。
「ひ、んっ！」
入り口の引っかかり、性器の裏側、襞の柔らかいところ。
奥深くの指では届かないところ以外、皆本の知っている兵部の弱いところを、その指は順に押して回り。
「・・・ん、ここだな」
すぐに引き抜かれ、また、アレが押し込まれた。
「ぅあ・・・っ」
何をする気だ、なんてわかり切っている。
兵部の感じるところを、アレで虐める気だ。
「あっ、あっ、あっ・・・くぁ」
腰を掲げ、伏せた枕に涎を垂らし。
ただの棒に尻を掘られて悦ぶ様は、もう卑猥としか言いようがない。
一方、掘られている兵部もたまらない。
感覚のないぶん容赦のない無機物に、感じるところを抉り回されて、たちまちのうちの上り詰めかけて。
「っと、危ない」
「ぅあ！？」
兵部の根本をきつく押さえ、その遂情を妨げた皆本は、ええっと、と呟きながら、また、引き出しを漁りだした。
自分が何を持って来ていたか、すっかり忘れていた兵部は、何が出てくるのかと戦々恐々・・・嬌々としながらそれを待ち。
皮製の小さなベルトが取り出されたのを見て、思わずシーツを蹴って腰を悶えさせた。
「そ、れ」
「お前が持って来たんだから、自分で付けてみろよ」
「だめ、だ・・・」
この状態でそんなものを付けられてしまったら、自分がどうなってしまうかわからない。
いや、うん。
どうなってしまうかわからないくらいになってしまうことを、兵部は知ってしまっているのだ。
シーツに投げ出された指に、皆本はそれを握り込ませようとするが、力の入らないそれは、無駄に小さな金具を引っかけるだけだ。
「しょうがないな・・・」
「なくな、い・・・・・っ！」
皆本が、兵部の指からそれを奪い取ると同時に、後ろに感じた奇妙な震えに、着たままのシャツに擦られ、感じ入っていた背筋が粟立った。
皆本が、バイブレーターのスイッチを入れたのだ。
さすがに、初めてではないけれど。
「これ、嫌・・・っ」
慣れないそれは、酷く兵部の性感を刺激して。
「イイの間違いだろ」
そう言いながら皆本は、兵部の指から取り上げたそれを、素早く兵部自身に巻き付けてしまった。
金具できつさを調節できるそれで、根本を特にきつく絞ると、兵部の声が悲鳴になる。
「待って、皆本くん、それ、駄目、ひあ！」
「駄目じゃないだろ」
こんなにしてるくせに。
そう貶めて、イけなくなった前を放置して。
皆本は、後ろを虐める作業に戻った。
イきたくてもイけず、ぶるぶる震えてうねうね動くモノに、ナカの襞を徹底的に虐められ。
ただ一方的に嬲られる快感に、兵部は脚をばたつかせ、シーツを叩いて感じ入る。
「やだ、やだ、やだっ、い、イかせてっ！」
思わず漏れた懇願に、返った声は冷酷だった。
「灸を据えてやるって言っただろ。我慢しろ」
我慢、って。
こんなの。
で、きな・・・・
「や、やぁーーーーっ！」
そう思ったときに、頭・・・というか、背筋の奥で、何かが激しくスパークした。
じんじん痺れる感覚が、下半身から脳髄までを支配して。
「あー、お前・・・・」
皆本の声が、妙に遠く感じられる。
が。
「後ろだけイった？」
とたんに、真っ赤な頬を更にぶわっと赤くした兵部は、じったじったと手足をばたつかせて。
しかし、全く力の入っていないそれを、皆本は易々と押さえ込む。
まったく。
性格はドＳのくせに性癖はドＭとか、ライバル兼セフレとしては、楽しすぎてどうにかして欲しい。
今も、白いからだを赤く染めて、ひくひくと震えながら、薄い唇ではくはくと息をついて・・・
ほんとどうにかしろ。
皆本は、ひとつ、ため息をついて。
学ランの黒い生地にまで跳ねた白い体液を、指にすくった。
赤い唇にすり付ければ、イヤイヤと首を振るくせに。
そのまま、口の中にその指を突っ込めば、ちゅぷちゅぷと音を立てて嘗めしゃぶりだす。
ほんと。
その指を引き抜けば、まるで惜しむように。
強請るように見上げてくる、濁った漆黒がいやらしい。
「で、ごめんなさいは？」
「っ・・・」
言ってはみたが、こいつがそれだけは言わないと知っている。
「まあ、いいけどな」
今日の目的は、謝らせることではなく灸を据えてやることだ。
それだけならまあ、ある程度果たしたといっていい。
どうせ、謝らせようが灸を据えようが、このジジイは好き放題暴れて間抜けやって他人に迷惑かけまくるのだ。
それはもう、きっと、どうしようもないことで。
だから。
「謝ってもやめてやらないから」
そう言って、また深々と蠢くそれを突き刺してやれば、空イキに呆然としていた体が、びびくん！とおののいた。
「待っ・・・み・・・・」
「今日はそれ、外さないぞ」
言いながら、それでも中に埋めたオモチャを引きずり出してやれば、彼はほっと息をついて。
しかし。
「ひ、あーーーーっ！」
皆本のモノをこじ込まれて、また、悲鳴を上げる羽目になった。
その夜、散々お灸を据えられてしまった兵部は。
その後。・・・ほんの３日ほどは、大人しかったということだった。
