おいてっちゃやだーーー！
シンは、子わんこです。
子わんこですが、モビルスーツパイロットです。
しかも、エースパイロットです。
スゴイのです！
今日は、議長に新しくモビルスーツをもらいました。
ディスティニーっていうんだよ！
インパルスもかっちょよかったけど、ディスティニーはもっとスゴイんだ！！
シンのご主人様は、アスランさんっていいます。
ご主人様も、モビルスーツパイロットで、シンたちの隊長です。
ご主人様は、こないだモビルスーツ壊しちゃって、だからシンと一緒に新しいモビルスーツもらいました。
レジェンドっていうんだよ。
これもかっちょいい！
でも、ご主人様はあんまり嬉しくなさそう。
なんでかな。
シンは、こんなに嬉しいのにな。
元気がないご主人様は気になるけど、でもシンはモビルスーツもらったのが嬉しかったので、ご主人様ほっぽって、ディスティニーに「ちょうせい」に来ました。
ヨウワンに「ちょっと待ってろ」って言われて待ってる間に、ディスティニーにお絵描きしました。
クレヨンも色鉛筆もなかったから、黒いマジックで。
ご主人様の絵を、描きました。
ご主人様、早く元気になぁれ、って思って、描きました。
メイニャンは、子にゃんこです。
子にゃんこですが、ミネルバのオペレーターです。
ちょっとまだにゃんこ言葉が出ちゃうんだけど、腕は一流！なのです。
でも今日は、お仕事はお休み。
雨降ってるから、だるいしね。
だからお部屋でごろごろしてたんだけど、ばったーんって、ノックもなしにドアが開きました。
やっばい。お姉ちゃんに、「不用心！」って怒られちゃう！
でも、入ってきたのはアスランさんでした。
アスランさんは、メイニャンのお姉ちゃんたちの隊長です。
かっこいいんだけど、時々お間抜けで。
子わんこや子にゃんこたちには甘くって、時々艦長に怒られながら、隠れておやつをくれる、いい人です。
「アスランさん・・・・？」
アスランさんはびっしょりです。
びっしょりで、銃なんか持ってます。
メイニャン、びっくりです。
「ごめん。外に出たいだけなんだ。頼む、静かにしてくれ」
アスランさんは、議長にハメられて、基地を逃げ出す最中でした。
でも、自分はシンのご主人様だから、シンも連れていかなくちゃって探してるうちに、保安部に追い詰められてしまったのでした。
仕方がないので、シンのことは後で迎えに来ることにして、とにかく逃げようとしているところでした。
でも、メイニャンは「あーあ」って思いました。
隊長、また艦長に怒られたニャ。
隊長は、強くてかっこよくて、やさしい人です。
けど、最近よく艦長に怒られて、しゅーんとしてます。
今も、やっぱりしゅーんとしてて、丁度、メイニャンがお姉ちゃんに怒られて、耳がしゅーんってなってるときみたいです。
しょーがないニャ。
メイニャンは思いました。
「外に出るなら、こっちですニャ」
メイニャンは、部屋の窓を指差しました。
「ありがとう。恩に着るよ」
にっこり笑った隊長は、嬉しそうにメイニャンの頭を撫でてくれました。
「どうってことないニャ。・・・ないです。ニャ」
メイニャンは、ちょっと赤くなりました。
どんどんどん！
そうしているうちに、ドアがすごい勢いで叩かれました。
「保安部だ。メイニャン・ホーク、ここを開けろ！スパイがここに潜伏していると通報が入った！」
アスランは、メイニャンを見下ろしました。
おやつをくれる時のやさしい顔をしていた隊長は、ＭＳに乗ってる時の、怖い顔になっていました。
「俺が出たら声を上げろ。君は銃で脅されたと・・・・」
言え、と言いたかったんでしょうけれど、言い終わる前にばばばばばってすっごい音がして、ドアのノブのところに大きな穴が開きました。
穴から飛んできた銃の弾が、メイニャンの後足のあったところまで飛んできましたが、アスランさんが、ひょい、と猫掴みにして助けてくれました。
「ニャッ」
メイニャンは、びっくりして固まってしまいます。
「抵抗するなら撃つぞ、アスラン・ザラ。射殺許可は出ている！」
「メイニャンは関係な・・・ってくそ！はじめから撃つ気じゃないか！」
そのとおりです。
ばんばんばん！と大きな音がして、メイニャンはぎゅっと目をつぶりました。
でも、どこも痛くありません。
その代わりに、ふわって体が宙に浮いたみたいな気がしました。
それから、とんっと一回揺れて、ぱたぱたと、鼻先に雨がかかります。
「ごめん。でもこれじゃ、君まで・・・」
部屋から飛び降りた隊長は、そう言うとメイニャンを軍服の胸のところに押し込んで、雨と銃弾の中を、凄い勢いで走り出しました。
シンは、絵を描き終わりました。
会心の出来です！
ご主人様がちょっとぶちゃいくになっちゃったけど、ぶちゃかっちょいいからいいのです！
ヴィーニャも手伝ってくれたよ！
「さて、描き終わったんなら調整入ってくれよ。これ終わんなきゃ俺ら帰れないぜ」
「わかってるようっ」
とっくに準備が終わっていたヨウワンに言われて、シンが、わくわくしながらコックピットに上がろうとした時でした。
びーっ、びーっ、と警報が鳴りました。
シンがびっくりしていると、通信機から、レイの声が聞こえました。
『逃走犯にＭＳを奪取された。追撃に出る！』
「えー！」
だってまだ、調整してないのにー！
「えー、じゃない！追うのはアスラン・ザラだ。ぼやぼやしていると置いて行かれるぞ！」
「えーー！なんでーーー！」
なんで俺、アスランさんに置いてかれるの？
『訳など知らない。だが、アスラン・ザラが保安部を打ち倒し、メイニャン・ホークと共に逃走したのは事実だ！』
「えーーーっ！メイニャンとーーーーー！？」
シンはびっくりしてしまいました。
だって、アスランさんはシンのご主人様なのに。
なのに、なんでメイニャン連れてくの？
シンのことは、置いてっちゃうの？
『シン、俺もレジェンドで出るが、コックピットの入れ換えにもう少し時間がかかる。お前は先に、ディスティニーでアスランを追え！』
言われなくっても追っかけます。
追っかけないと、アスランさんに置いてかれちゃうよう！
シンは、ディスティニーに乗りました。
まだ調整してないけど、シンはどんなＭＳだって動かせるんです。
ちゃんと、コーディネイタードッグ専用のコックピットになってればね！
これ、速いんだって議長は言ってました。
速い速いディスティニー、これで、ご主人様に追いつくんです！
「シン・アスカ、ディスティニー、行って来まーす！」
シンは、勢い良くディスティニーで飛び出しました。
「え、と。ごめん・・・」
「仕方ないニャ」
「本当にごめん。きっと、安全なところに下ろすから」
「おねがいしますなのニャ」
アスランは、何度もメイニャンを下ろそうとしたのですが、そのたんびに撃たれそうになったりなんだりで、結局下ろせないまんま、一緒にＭＳに乗って逃げることになってしまいました。
「ごめん・・・」
アスランが、もう一度謝った時でした。
ぴぴぴぴっ、と、警告音が鳴り響きました。
後ろから、何かが追っかけてきます。
アスランは、ペダルを踏み込んで速度を上げました。
でもでも、それはすんごい速さで追いついてきます。
「・・・・新型。ディスティニーか！」
『アスランさーーーん！』
そのとおりです。通信機から、シンの声がします。
『置いてっちゃやだーーー！』
「シン！お前を置いていくつもりじゃなかったんだ！」
『メイニャン連れてっちゃやだーーーーー！』
シン、ディスティニーフルスピード！
ぐんぐん追いつきます！
ぐんぐんぐんぐん追いついて・・・・
「そうだ、メイニャンを降ろさせ・・・こら、待てシンっ！」
ご主人様は、今乗ってるグフじゃあ逃げ切れないと判断して、機体を反転させました。
なんとか、シンを説得しようと思ったのです。
でも、シンはご主人様の言うこと聞きません。
だって、聞いたら置いてかれちゃう！
「やだーーー！」
ご主人様は、とっさに機体を右に寄せました。
だって、昔良く聞いたやさしい声で、「アスラン、右！」って言われた気がしたんです。
でもでも、ディスティニー早いです。
早くって、すっごいパワーです！
だから。
がっしゃーーーーん！
ディスティニー、アスランさんが乗ったグフに、衝突―――！！
「こ、の。バカーーーーっ！」
通常装甲のグフよりも、ＶＰＳ装甲のディスティニーの方がずっと固いんです。
とっさに避けて、コックピットごと吹っ飛ばされるのは避けられましたが、スラスターを壊されちゃったグフは、ざばんざばんと波立つ海へ、ひゅーっ、ばっしゃん！と落っこちて、どっかーんと爆発してしまいました。
「アスランさーーーーん！」
シンは慌てて、落っこちちゃったご主人様を追っかけます。
えーと、レーダーこれだっけ？
違うー！これじゃないよう。海の中も見えるやつだよう。
ディスティニーは、なんだか潜水が苦手です。
泳げるけど、潜るのが苦手なシンみたいです。
センサーもどれだかわかりません。
アスランさん、見つかんないよう。
シンはうぐうぐ泣き出しました。
アスランさんに、置いてかれちゃったよう！
『・・・シン』
不意に、通信機から声がしました。レイの声です。
『良くやった』
何が？
『俺たちの任務は終わった』
任務ってなんだよう。
『俺たちはやるべきことをやったんだ。さ、戻るぞ』
どこにーーー！
そうしてシンは、わんわん泣きながら、レイのレジェンドに引っ張られて基地に戻りました。
「わーーん！レイ、俺捨てられちゃったよーぅ！」
「誤解を招く言い方をするな、シン。それにもともと、お前はザフトの軍犬だろう。アスランのマスター登録は、ごく最近・・・」
「捨てわんこになっちゃったよーー！」
「だから、違うと」
「わーーーん！」
シンがあんまりわんわん泣くので、レイは長い耳をふさいで考えました。
そうして。
「そうだ、シン。お前はアスランに捨てられたんだ」
「わーーーーーーん！！」
「なら、強くなれ、シン。そうすれば、アスランはまたお前を迎えに来てくれるかもしれないぞ」
「ほんと？」
シンの涙が、ぴたりと止まりました。
まだまだ真っ赤な目が、キョトリとレイを見上げます。
「本当だ」
レイは、ずきずき痛む良心をなだめながら、こっくりと頷きました。
あれだけの爆発があったんです。アスランもメイニャンも、もう生きてはいないだろうとレイは思っていました。
それでも。
「だから、強くなれ」
そんなの顔には出さないで、レイはシンに言いました。
強く、強く、誰より強く。
誰より上手にＭＳに乗る。
それが、レイのご主人様が認めた、シンの価値だから。
レイのご主人様のためにも、・・・・シンのためにも。それが一番いいはずだから。
「うん。わかったよ！」
シンは、短い前足でごしごしと涙を拭きました。
そうだよね。強くて大きな秋田犬は、泣いちゃったりしないんだよね！
強い強い秋田犬になったら、アスランさん、きっと迎えに来てくれるよね！
「俺、頑張って秋田犬になるよ！」
シン、それは違う。
レイは思いましたが、黙っていました。
黙って、こっくり頷きました。
シンは子わんこ。
ザフトの子わんこ。
でもね、頑張って秋田犬になって。
また、ご主人様の子わんこになるんだよ！
秋田犬にならなくっても、その夢はかなうけど、ね。