何度でも
シアワセな気分でぼんやりとしていたら、隣のぬくもりがするりと離れていくのががわかった。
そちらに目をやれば、落とされた照明の下、白く浮かび上がる背中の、その皮膚の下。
滑らかな筋肉と尖った肩胛骨が、ゆるり、と、動くのが、見えて。
英治は思わず腕を伸ばし、その背中を捕まえて。
手のひらに、しっくりとなじむその肌に、にこりと笑うと、その上からのし掛かった。
「・・・英治」
起きあがる動きを阻まれて、玲二はちらりと英治を睨む。
汗を含んだ前髪の隙間、英治を飲んだ熱をはらんだままのその視線は、どうしようもなく艶めいて、誘っているようにしか、見えない。
「もう一回しよう、玲二」
誘う背中に胸を押しつけ、熱を失いかけていた耳朶に、舌を這わせて自分のそれを分けてやる。
そうすれば、玲二はため息をつきながら、シーツに突いていた腕の力を抜いてくれた。
「サカる年でもないだろう」
そう言いさす唇を指でなぞり、従順に開いたそこに飲み込ませてやる。
ぬるりと絡みつく舌は、もうそれだけで、気持ちよくなることを知っている。
「玲二が誘うからイケナイんじゃないか」
言いながら、たっぷりと唾液にまみれた指を引き抜いて。
顔が見たくなって肩を掴み、体を返せば、玲二は自ら脚を開き、そこをさらして見せた。
「誘っているつもりは、ないが」
「・・・まあったく」
くすくすと笑いながら、まだ、少し腫れているそこに、指を差し込む。
ずっと咥えていた英治を引き抜かれ、そう経っていないそこは、英治の指を二本一度に、簡単に飲み込んで、締め付けた。
「んっ・・・・」
そこは、英治の放ったものにねっとりと濡れたまま。
それを洗い流したくて起きようとしたのだと、ふと気づいて、おかしくなって。
ぐいぐいと。
挿れた指で奥をかきまわせば、突然の酷い行いに、玲二の体がびくりと震えた。
「えい、じ」
赦しを求める玲二の眼差し。
ああ、何で酷くされたのか解ったな、と思い、その聡さに免じて、許してやることにする。
ホラ、僕って優しいから、サ。
にんまりと笑いながら、英治は打って変わった丁寧さで、絡みつく襞をなぞり上げてやった。
「は・・・・ふ・・・・・」
とたん、玲二の声が甘くなる。
耳に心地よい、気持ちよさそうな、声。
「玲二はサァ」
「ん・・・？」
とろりと見上げる漆黒は、すっかり快楽に潤み切り。
睫に絡んだ涙の滴が、ちらりと光って、とってもキレイだ。
「ココ、好きだよね」
英治の言う「ココ」が、中の感じるポイントなどではなく、今、彼の指を飲み込んで、すっかり感じ入ってしまっている孔そのものだと気づき、玲二はとっさに首を振った。
その弾みでベッドが軋み。
腰が揺れて。
侵入った指が思わぬ場所をえぐり、息を詰めれば英治が嘲笑う。
「ウソばっかり」
ずる、と、異物が襞を擦る。
「・・・っ」
感じた声を殺すことはできたが、感じた襞が、絡み付くことは止められない。
感じた肉が。
締め付けることは、止められない。
ほろりとこぼれたのは、快楽の涙か、それとも。
判別の付かないそれを、熱い舌で舐めとって。
その甘さに満足した英治は、ゆっくりと、指を引き抜いた。
玲二の熱に同化したそれが、外気に触れて、ひやりと冷えるのがもったいないけれど。
その指で玲二の膝裏を掴み上げれば、すぐにまた、同じ温度になるから、いいや。
「は・・・・っ」
侵入っていく時に、息を逃がして喘ぐのは、玲二の癖らしかった。
今夜ももう、幾度も蹂躙されたそこは、何の抵抗もなく英治を飲む。
感極まって可愛くなく玲二もイイけれど、こうやって気持ちいいのを我慢してるトコも、ソソるんだよね。
そう思いながらぺったりと手のひらで頬を包めば、長い睫を震わせて、玲二の瞳が英治を映す。
「え、いじ」
喘いで泣いて、かすれた声が、色っぽい。
そこにキスして、深くして。
たっぷりと玲二に包まれる快感を味わいながら、英治は目の前で震えている耳朶に、囁いた。
「気持ちいい？玲二」
ふるふると、玲二の首が振られる。
乱れきった髪の先が、弾みで英治の鼻先をかすめる。
それを口に含み、そのまま、耳朶も含み。
ねっとりと舐めねぶってから、また、そこに熱い声を流し込む。
「玲二はホントにウソつきだナァ」
きゅう、と玲二の中が締まる。
感じた吐息が、甘く洩れる。
英治の首に回されていた腕に、力が入って腰が揺れた。
ホント、カラダはこんなに正直なのに。
「嘘・・・じゃな・・・・」
この口だけが。
「ホント、ウソツキ」
「っ、ああっ」
深く深く玲二を穿ち、締め付けられる快感に目を細めて。
英治はその口を、、ぺろりぺろりと舐めてやる。
喘ぎと一緒に、あふれてこぼれた、唾液の方が、よっぽど、正直。
「わからないわけないだろう？玲二のカラダ仕込んだの、僕なんだから、サ」
ここを使ってセックスするのも。
中をイジれば、感じるようにしたのも。
触れれば、感じるその肌も。
こんな、可愛いなき方も。
みんなみんな、英治が仕込んだ。
「仕込んだとか、言う、な・・・」
この、口先だけの抵抗も。
全部、英治好み。
「だって、そうだろ？」
ききとして、英治は玲二の中をかき回す。
ぐちゃぐちゃと、卑猥な音が、彼らの快楽を深くした。
「こんな、イヤラシく感じちゃうカラダにしたの、僕なんだよ？」
喘ぎを飲んだ唇が、噛みしめられて赤みを増した。
それを楽しく見下ろして、英治はいっそう深く、玲二を犯す。
いくら抱いても、抱き足りない。
いくらでもいくらでも、玲二が欲しい。
「・・・ぁ・・・っ、え、いじ」
殺し損ねた喘ぎの中に、自分の名を織り交ぜる玲二もきっと。
同じように思っていると。
英治は、信じて疑わない。
黒々と濡れた瞳から、ほろりほろりと涙をこぼし。
玲二は、英治の首筋に頬を埋め、熱い熱い吐息を吐いた。