喪服美人
喪服は、何割り増しだか美人に見える。
そう言っていたのは、確か、そんな雑誌を読んでいた葉だったか。
そう言った彼は、自分たちの養い親が、いつも喪服であることに、気づいているのだろうか。
黒い詰め襟のホックを自分で外し、わざと煽のいて白い喉を曝し。
そこに食らいつかれるのを待っているこの人は、ならば、喪服美人なのだろうか。
彼の望み通りそこに口をつけ、がりりと歯を立てて。
とたんにおののく肉の震えと、大きな血管を血が通い、鼓動を刻むさまをいっぱいに感じる。
抱き寄せた体を包む黒衣は、きちんと採寸したはずなのに、わずかに余っているようだった。
その体を、服の上から確かめるように撫でさする。
布の上からの愛撫もひどく感じるこの人は、それだけでも息を乱して、真木を喜ばせた。
「真木、じれったい」
「すみません」
要求に応じて腰を掴み、ベルトを外して下肢を露わにする。
そうすれば、彼はくすくすと笑ってベッドに倒れ込んだ。
そのまま足先からズボンを抜き、靴と靴下も脱がしてしまえば、自分から脚を開いて見せるから。
白い脚の狭間、これから蹂躙する場所がよくよく見えて、喉が鳴る。
「どうした？」
真木が何を思っているのか見透かしたように、笑いを含んだ声がかかった。
だから真木は、真っ正直に。
「いえ。・・・いやらしいな、と」
そう答えると、兵部はひくん、と膝頭を跳ねさせて、ふい、と赤くなった頬を隠すように、そっぽを向いた。
自分で誘っておきながら、こんな反応を返す迂闊さが、愛おしくて仕方がない。
その愛しさのまま、片足に手を掛けてのし掛かれば、ふ、と色っぽい吐息を吐いて、首に抱きついてくるのが可愛らしい。
「いやらしくて、可愛いですよ」
そう囁きながら、シャツの下へ手を突っ込んで、滑らかな腹を胸へと撫で上げる。
「あ、ったりまえだ」
胸の中心を穿つ、傷跡の上を指が通ると、兵部は息を詰めさせた。
自分を亡霊だと言うこの人を、亡霊たらしめている傷跡。
そこをしつこく撫でていると、闇色の瞳を濡らして睨んで来るから、仕方なしにそこから指を離し。
ちゅ、とキスをしながら、胸の尖りへと指先を移す。
「んふっ」
重なった唇で喘ぎを飲み込み、既に固さを持っていたそこを、摘み上げるように愛撫する。
とたん、組み敷いた腰が揺れて、剥き出しの性器を押しつけられた。
胸への愛撫だけで大きくなったそれは、それでも綺麗なピンク色だ。
胸への愛撫を中断し、愛しいそれを手に取って。
痛めないように、慎重に扱ってやると、兵部は慌てたように腰を跳ねさせ、唇を離して抗議した。
「ちょ、待・・・っ」
「・・・すみません、つい」
先にイかせてしまうと、あまり持たないのはわかっている。
それでも、触ってやりたいと思ってしまうのは仕方がない。
名残惜しくその先端をくるりと撫でると、欲に濡れた瞳に睨まれた。
それをおかしく思いながら、サイドテーブルの上のボトルを取る。
真木が何度仕舞っても、こういったものを出しっぱなしにするのはわざとだろう。
ほんの小さな仕草一つで真木を籠絡するくせに、『本気』を出すとこの拙さだ。
その無自覚ささえ、愛しいのだけれど。
脚を引き上げ、腰を抱き上げそこを露わにする。
下肢だけをこんなにも曝して、シャツも学ランも着たままというのは兵部の趣味だった。
そのうちみんな脱がしてしまうけれど、どうやらこの方が興奮するらしい。
期待の眼差しに応えるように、高い位置からローションを垂らす。
ひた、と透明な粘液がそこに落ちたとたん、白い脚がびくんと空を蹴るのは見物だった。
それはまるで、何か、そういう生き物が、天を欲して足掻くかのよう。
しかしそれは、すぐに真木の手に折り畳まれて。
濡らされた狭間を見せつけて、いやらしく、誘う。
「んっ、やく・・・」
曖昧な催促を受けて、粘液を塗り広げるようにそこに触れる。
それだけで甘い吐息が洩れるけれど、あまり焦らしても怒り出すので。
ひくひくと、口をひくつかせているそこに、慎重に指を埋めていく。
慣れたそこはぬるりと飲み込んでいくけれど、それでも狭さを感じさせた。
指一本でこれなのだ。丁寧に愛撫を施して、受け入れる準備をしてやらないと、容易に傷がついてしまう。
それなのに。
「焦らすなって、言ってんだろ」
潤んだ瞳で睨み上げ、畳んだ脚先を跳ね上げて。
挙げ句、シーツに落ちた炭素単結晶繊維の先を、そのしなやかな指でひっ掴んで来るのだ。
「わかりましたから、引っ張らないでください」
「お前が先・・・っ、ぅん」
ずるりと抜き出した人差し指を、中指と揃えて押し込めば、減らない口が喘いで閉じた。
そのまま奥を探り、更にぐるりと回して虐めれば、逆に、掴んだそれをぐいぐいと引かれてしまう。
「少佐」
そのまま、繊維の先で、その手をシーツに縫い留める。
力の入らなくなったそれが、それでもきゅうきゅうと手の中のものを握りしめているのに、そこに感覚がないのが惜しまれた。
手の中で、彼の指が跳ねるのはとても気持ちがいいのだが、それは今度の楽しみに。
今は、ゆるゆると探る中の、襞の熱さを楽しみたい。
中を探り、時折引き出してはもっともきつい入り口をぐりりと広げ。
ローションを足しては縁をなぞり、くちゅくちゅと音を立てて兵部を追いつめていく。
「っあ、んあ、うン・・・・」
かすかに喘ぎながら腰を揺する兵部は、既にだいぶ気持ちが良さそうだった。
とろりとこぼれたローションが、淡い茂みから溢れ出し、腹を伝って着たままのシャツの中へと落ちていく。
「ぅんっ・・・」
「濡れてしまいますね」
引き抜いた指を、てらてらと濡れたローションの後を追うように這わせると、薄い皮膚を震わせて、潤んだ瞳が甘くねだる。
「じゃあ、脱がせろ、よ」
「はい」
抱いた腰をいったん下ろし、学ランのボタンを外していく。
白い肌に黒い学ランのコントラストは美しかったが、未発達な骨格の際だつYシャツ姿もひどくそそった。
そうしてそれを脱がせてしまえば。
現れるのは、引きつれた弾傷を胸に咲かせた、美しい『亡霊』。
喪服の下から現れたそれは、しかし生々しい熱をはらんだ腕を真木の首に投げ、艶めかしい指先で頬を撫でて、その指でスーツのボタンを外していく。
兵部の好きにさせながら、銀色の髪を梳き、額の傷に口付け、嫌がって振られた首筋に吸いつく。
「ん、バカ」
可愛らしい罵倒に応えて、脱がされかけの上半身はそのままに、自身の下肢を露わにすれば、隆々といきり立ったものに、兵部の目が釘付けになった。
欲情に濡れた眼差しが、自分のものに注がれているのは、とても、気分が良い。
「入れますよ」
「・・・ん」
好き放題にやんちゃをしてみせるくせに、この瞬間の彼は妙に神妙だ。
恭しく腰を抱き、熱しきったものをしとどに濡らされたそこに押しつければ、眇めた瞳でそれを映して、こく、と白い喉が鳴った。
そのままぐうっと押し入れば、今度はきゅうっとはを食いしばり。
「力を抜いてください、少佐」
真木の指にすっかり懐柔されたはずの襞で、きゅうきゅうとそこを締め付けて来るから。
真木は、放ったままだったピンク色の性器を手に取って、それをやわやわと握ってやった。
「んふぁ、やっ、ああっ！」
とたん緩んだ口に、一息にそれを飲ませれば、狭いそこはぎゅうっと真木を食い締めて。
しかし、それが自分を気持ちよくしてくれるものだとすぐに気づいて、うねり悶えて歓待する。
「・・・っ」
本当に、男泣かせの体だった。
思わず歯を食いしばり、この中に、すぐに放ってしまいたいのを我慢する。
そうして。
あとは、この人の悦いように、中を愛してやればいい。
浅いところをくちくちと攻めれば、狭い入り口を拓かれる快感から、やがて物足りなそうに腰をよじり。
深いところを占めてやれば、充足感にぶるりとわななく。
「あっ、あっ、あ、ああ・・・っ」
白い肢体を桜色に染めて、泣き悶える人は、とてもとても美しかった。
絡みつく脚、のたうつ腕。
旧い傷痕が、まるで生き物のように胸の上で踊る。
喘ぐ唇に、黒曜の瞳からこぼれた涙が辿り着いて。
それを舐めれば、きゅう、と吸い付いてくる仕草さえも。
喪服など、着ていなくても。
真木の愛する人は、こんなにも、美しい。