メリー・クリスマス！
大きな大きなモミの木には、色とりどりのオーナメント。
イルミネーションのスイッチは、子わんこが帰ってきてから入れるんです。
アスランさんは、それを。
とってもとってもとーーーっても、楽しみにしています。
今日はクリスマス。
旦那様は、お仕事です。
旦那様は、ザフトの偉い人になっちゃいましたからね。
政府のパーティーなんです。
仕方ないんです。
子わんこシンも、お仕事です。
なにせ、子わんこのお仕事の半分は、『可愛いことｖ』なもんですから。
パーティーの余興で、議長自らお歌を歌うってんで、その前座で歌って踊っちゃうんです。
もちろん、レイも一緒ですよ。
だから。
だから今日、アスランさんは、お家でひとり、なんです。
お夕飯は食べました。
オーブに行くかとか、非番の部下たちのパーティーに潜り込むかとか、旦那様言ってくれたんですけどね。
クリスマスは、お家で過ごすものなんです。
だから、奥様はお家でご飯食べました。
旦那様が用意してくれた、鳥肉のグリルとポットパイは、オーブンであっためる時間がちゃんと書いてありました。
サラダは冷蔵庫の中からだけど、茹でたかぼちゃがたっぷりで、あったかい色なんです。
アスランさんのためだけの、小さな小さなケーキには、子わんこにはあんまし食べさせたくない、バターやクリームがたーっぷり！
とってもとっても美味しかったですｖ
それに、今日のお風呂は柚子湯なんです。
とってもとってもとーーっても！あったまるんですよ！
そう。
「聖誕祭っていうけど、たぶん、もとは冬至のお祭りだったんだろうなぁ」
柚子湯とかぼちゃは冬至ですよ、旦那様。
昼のいちばん短い時に、体にいいもの食べて、あったかくして、風邪ひかないようにね！ってやつですよ。
忙しくって混同してんのかな。
それともやっぱりわざとかなー
わざと、だよね。旦那様のことですもん。
今日はクリスマス。
神様のお子さんが、生まれた日ってことになってるそうです。
でもアスランさんは、たいていのコーディネイターがそうであるように、神様ってものを信じていません。
うんと、信じてないってのはちょっと違うかな。
昔、とある科学者さんが、ビッグバン以前について言ったそうです。
「神のみぞ知る」
その神様なら、アスランさんにもなんとなく、わかります。
たとえばそれは、引力や遠心力とか。
時間の流れとか、それぞれの物質に融点や沸点があることとか。
そういうものの、全部なんだと思えば、簡単です。
でもでも、そんなのなら、こんな宇宙の端っこの星の、その側でちょろちょろしてる奴らのことなんか、認識されていたって、気にされるわけないんです。
たとえそれが、全知全能の存在であっても。
たとえばそれが全知全能の存在であればこそ、彼の描く大きくて複雑な式の、小さな記号の一部でしかない自分たちに。
神様が、何かしてくれるなんてことはありえないんです。
だから、関係ないんです。
でもでも、アスランさんの知ってる、その宗教の偉い人は言いました。
「神は、そこにいらしゃるのです」
その神様も、アスランさんには、わかります。
だから。
だから、アスランさんは、こうして、お家でクリスマスを過ごすんです。
だって、アスランさんの神様は。
さっき食べた鳥肉の、アメ色をした皮の上。
大好きな人の、薄水色の眼差しの中。
子わんこの、可愛い可愛い尻尾の先。
みんなで過ごす、このお家。
そんなところに、在るんですから。
「さて、時間かな」
『食器は、洗わずに流しの中に入れて置くように！余計なところを弄るな！！』
旦那様に、そう厳命されてる奥様は、言われたとおりに、食べ終わった食器を流しに入れて。
それから、いそいそとテレビをつけました。
録画の準備もちゃんとしますよ。だって、撮っておかなくちゃｖ
クリスマスに、わざわざ報道特番で政府主催のパーティーを流す物好き放送局は、それでもエンターテイナーです。
ピンクの髪した議長のお言葉を流しながら、カメラは招待客やスタッフをチェーック！
「あ」
旦那様発見―！
演説に被んないように、テロップで紹介が出てますよ。
うんうん、今日も良い男です。
それから、来賓のよくわかんないお言葉は、結構飛ばし気味。
レポーターさんがお話してますよ。
さあ、ここからが、アスランさん的メインイベント。
さあ！
舞台の上に、ぴんぴん尻尾の元気な子にゃんこが登場します。
それから、金色毛並みの綺麗なわんこ。
それからそれから・・・
ちいちゃいちいちゃい、可愛い子わんこ！
みんな、赤と白のサンタさんカラーのお洋服です。
そんな三匹が、歌って踊っちゃうんですよ。
これはもう、必見の永久保存版なんです！
「わ・た・し・の運命の人〜」
トナカイの角被ってるルニャが、なんかシンのこと指差してますよ。
レイは全っ然無表情なんだけど、それがキュートだってご近所の奥様方に大人気なの、アスランさんは知ってます。
それから、その足元を、ちょこちょこちょこ、元気に跳ねて、歌って踊っちゃう子わんこに。
もうもう、アスランさん釘付けーー！！
振り付け、二人と逆になっちゃって。
でもでも、全然気にしないで、跳ねるシンのしっぽの先に、アスランさんの目が行きます。
思わずにっこりしたところで。
最後のキメポーズ！
はい、よくできました！！
アスランさん、大満足―ｖ
続いて出てきた、元婚約者なピンクの議長。
人の前でお歌を歌うのは、本っ当に久しぶりですね。
流れてきたのはクリスマス・キャロル。
アスランさんでも、聞いたことがある賛美歌です。
良いお歌は、アスランさんを、ねむねむにしちゃうんですけども。
でもでも。
キレイに組まれた、元婚約者さんのお指を見て。
アスランさん、なんとなく、真似っこなんかしてみたりして。
だって、だってね。
議長が歌ったお歌は、この良い夜に生まれた可愛い子が、幸せでありますようにって、お祈りする歌なんです。
そんなこと、アスランさんは毎日毎日、いつだってお祈りしてますからね！
何にお祈りしてんだか、よくわかってないんですけどね！
その、何だかわからないものに。
アスランさんは、お祈りします。
大事な大事な子わんこが、今日も、幸せでありますように。
愛する愛する人たちが。
みんなが、幸せでありますように。
祈る、アスランさんの、指の先。
そこに宿る神様を。
子わんこシンは、知ってます。
旦那様も、知ってます。
メリー・クリスマス！