また、あした
子わんこバージョン
注：FINAL PLUSは見なかったことにしています。
ぴすぴす
シンは、子わんこです。
子わんこなので、かなしいと、勝手にお鼻が鳴ってしまいまいす。
ぴすぴすぴす
お友達のルニャが、「うっさい！」と怒りますが止まりません。
だって、シンはご主人様に捨てられてしまったのです。
「ばかやろう！」ってゆって、機体ごと落っことされてしまったのです。
捨てわんこになっちゃったのです。
ぴすぴす
でもね。
ご主人様は、ちゃんと迎えにきてくれました。
それで、いつもみたいに「シン」って呼んでくれました。
シンは、野良わんこになったんだからガマンしなきゃって思ったのですけれど、やっぱりご主人様が大好きなのです。
だから、ぴすぴす鳴きながら、ご主人様に「ただいま」しました。
でもでも。
「じゃあ、シン、ルナマリア。悪いが、ここで少し大人しくしていてくれ」
ご主人様は、そう言うと抱っこしたシンを下ろしてしまったのです。
「なんでだよ！」
せっかく、せっかくご主人様に会えたのにー！
「お前達みたいに取り残された人たちがいるんだ。助けに行かないと・・・」
「おれも、おれも行くーー！」
シンだってモビルスーツぱいろっとなのです。
お手伝いできるのです！
「あのな、ここにはお前達コーディネイタードッグが乗れるMSがないんだ。コックピットシステムがまるで違うんだから」
がーーーん！
子わんこ、ショーーーック！
「やだやだ！アスランさんと一緒じゃなきゃやだーーー！」
だってだって、シンはお父さんお母さんにも、ステニャのも置いてかれてしまったのです。
もう、置いて行かれちゃうのは嫌です。
ご主人様と一緒がいいのです！
「アスランさーん！」
ぴすぴすと鼻を鳴らしたシンを、ご主人様はひょいと抱き上げました。
「仕方ないな・・・」
そう。ご主人様は、シンには甘いのです。
「生体センサーのチェックを頼む。単座だけど、お前なら乗れるだろう」
そう言って、ご主人様は、シンをMSに乗せてくれました。
「えっと、右！壊れた戦艦にだっしゅつぽっと引っかかってるー！」
「わかった」
「あとね、あとね、上、レーダー映ってるー？」
「映りすぎて何がなんだか・・・キラ！上！」
『ちゃんと座標で言って！』
シンは、がんばってたくさんお手伝いをしました。
気にくわないフリーダムの声が聞こえても、知らん振りです。
がんばり過ぎて、「シン、モニターが見えない！」と怒られちゃったりもしました。
だって、シートベルトの代わりのハーネスに付いたリードが、ちょっと長いのです。
「危ないからちゃんとしがみ付いてろ」
「無ー理ー」
ご主人様、操縦荒いです。
それでも、シンはセンサーにしがみ付いてちゃんとお手伝いするのです！
でもね、生きてるかも！って思ってご主人様に言っても。
「シン、人の形をしてるけど、生体センサーに反応がないだろう？」
そういう時には、ご主人様は行ってくれません。
ステニャは、またあしたね、って言ってました。
でも、みんな死んじゃったのです。
死んじゃったら、明日って、どこに行くのかな。
ぴすぴす
お鼻が鳴ってしまうけれど、泣くのは、ガマンです。
だって、ご主人様のお手伝いをしなければいけないのです。
ぴすぴすぴす
でも、お鼻は鳴ってしまうのです。
ご主人様はうるさいって言わないで、一回だけ、ヘルメット越しにシンの頭を撫でてくれました。
『アスラン、メサイアの方に行ってるムラサメ隊から、協力要請来てる』
フリーダムから通信がきて、ご主人様は頷きます。
「俺が行く。こっちのセンサーの方が、透過率は高いから・・・シン、つかまってろ」
「はーい」
シンが、ぎゅうってシートにしがみ付くと、とたんにご主人様はすんごいスピードでジャスティスを飛ばしました。
そこでもシンは大活躍です。
・・・正確に言うなら、ご主人様の手作りのセンサーが大活躍です。
「壁の向こうに生きてる人がいるよ！でも壁が５メートルもあるよ！」
「岩盤か・・・迂回路は」
「えっと、真っ直ぐ行って右のが近いけど、ふさがっちゃってるから上！あのハッチ壊してー」
『我々が行きます』
「頼む」
言ったとたんに、前の方から何かが爆発する音が、大きく聞こえました。
「アスランさん、あっちドカンていってるー」
「ムラサメ隊で行っている者はいないな。仕方ない。そろそろ撤収を考えないと二次遭難の恐れが・・・」
ご主人様がそう言って回線を開いた時、シンは見てしまいました。
センサーの中に、たったいっこだけ、生体反応があるのです。
人間じゃありません。わんこです。
こんなところに、普通のわんこはいません。コーディネイタードッグです。
でも、ザフトにはコーディネイタードッグはあんまりいないのです。
シンより、ちょっと大きいわんこです。
パイロットスーツ、着てるわんこです。
「レイ！」
シンはセンサーに繋がっているモニターにしがみ付きました。
間違いありません。あれは、シンのお友達のレイなのです。
「アスランさん、アスランさん！あんなところにレイがいるよ！！」
「ええっ！？」
ご主人様も、急ごしらえで付けたモニターを覗き込みました。
「レイ・・・だろうな。しかし・・・・」
そこは、さっき爆発があった向こうなのです。
きっと、爆発で岩盤が吹っ飛んで、センサーに映るようになったのです。
いつ、またドカンていくかわからないのです。
「くそっ！」
ご主人様は呟きました。
シンは、ご主人様にしがみ付いてぴすぴす鳴きました。
レイはまだ生きているのです。
助かるかも、しれないのです。
でも。
シンだってモビルスーツぱいろっとなのです。行ったら死んじゃうかも知れないことくらい、ちゃんとわかっているのです。
シンだって、死んじゃうのは嫌です。
ご主人さまが死んじゃうのは、もっと嫌です。
でもでも。
「レイー！」
シンは、ひんひん鳴きました。
「ムラサメ隊、そろそろここも危ない。今掛かっている作業が終わったら、速やかに脱出しろ。俺は後から行く。・・・・それから」
ムラサメのおじさんたちが了解って言うのが聞こえてから、ご主人様は鳴いているシンを振り返りました。
「シンを乗せて行ってくれ。俺はもう一仕事してから戻る」
「だめだようっ！」
シンはきゃんきゃん鳴きました。
「置いてくなってばーーー！」
「シン、危険なんだ」
「邪魔しない！俺だってエースぱいろっとだもん！」
今は乗れないけど！
ご主人様は、一回黙って。
それから、ぎゅーっとシンをシートに押し付けました。
「ちゃんとつかまって・・・センサーから目を離すなよ」
「アスランさぁん！」
さっすが、シンのご主人様です！
「他に、生体反応はないんだな？」
「ない。ぜんぜんない・・・・」
それは、みんな死んじゃったっていうこと。
レイの他は、みんな。
ぴすぴす
「わかった」
そうしてご主人様は、歪んで開かないハッチを、どかんとふっ飛ばしました。
ご主人様は、ぐるぐるしてる時は役に立たないのですが、こういう時は心強いのです！
「アスランさん、ここ行けないー！」
「この機体なら行ける！・・・うわ！」
「どかんてゆった！がこんてゆったーーー！」
「まだ動く！」
心強いけど、無茶苦茶ですー！
でも、もう少しのところで、瓦礫がぎゅうぎゅうになって進めなくなってしまいました。
レイのいる場所が近いので、ふっとばすわけにもいきません。
もう少しで、レイを助けに行けるのに！
「アスランさん、あそこに隙間があるよ！」
シンは、シンはアスランの前の計器を指差しました。
小さいけれど、瓦礫に隙間があるのです。
「あんな隙間あったって・・・」
「俺行くよ！あ、酸素まだあるー！！」
シンは、わたわたとりードを外そうとし始めました。
あれ、取れないー
「やめろシン！なんとか抜けてみるから・・・・」
どかんどかんと、あっちこっちで爆発する音がします。
早くしないと、危ないのです！
「アスランさん、取って―」
わたわたわた。
リードはなかなか取れません。
「しかし・・・・」
「レイが死んじゃうよーーー！」
レイも、マユやステラみたいになっちゃう。
それは、絶対嫌なのです！
ご主人様の緑色をした目が、じっとシンを見ています。
じっと、じいっと。
向こうで、また、爆発する音がしました。
「・・・・俺も、すぐここを抜けて行く」
ご主人様はそう言って、シンのリードを外してくれました。
「うん！」
シンは、ぴょん、と跳ねて、ご主人様が開けてくれたハッチから、コックピットを飛び出しました。
「レイー！」
シンは、初めて、自分がちいちゃくて良かったと思いました。
ちいちゃいから、ちいちゃい隙間でも通れるのです。
ぎゅうぎゅうと隙間を通ったら、後ろでがらんと隙間は崩れてしまいました。
でも、大丈夫。
ご主人様が迎えに来てくれるから！
ぴょん、ぴょんと、瓦礫の山を飛び越えると、金色の何かが、ちかりと光って見えました。
光って、それからまた、どかんと大きな音がしました。
「レイ！」
慌てて瓦礫を飛び降ります。
途中でひっくりこけたけど、気にしている場合ではありません。
月の軽―い重力で、ふわりとレイの側に着地します。
「シ、ン・・・・」
瓦礫の側に座り込んでいたレイは、あっちこっちから血が出て、綺麗な金色の毛並みが焦げて、大変なことになっていました。
それでも、ちゃんとシンの名前を呼んでくれます。
生きています！
「良かった！！・・・早く逃げなきゃ！」
早く早く、と前足を引っ張りますが、レイはちょっと痛そうな顔をしてから、ふるふると首を振りました。
「嫌・・・だ」
「なんで！？」
助かるのに。今ならまだ、助かるのに。
「お・・・とうさん、と、おかあさん・・・・・」
レイの残った右手には、誰かの手がありました。
途中で千切れた、でも、繋いだまんまの手が、ありました。
女の人と、男の人。
しっかりと、繋がれた手が。
シンは、思い出してしまいました。
マユの手。
やっぱり途中でなくなっちゃった、ちいちゃいマユの、ちいちゃな手。
シンは、ひんひん鳴きました。
ふたり分の手には、見覚えがある服の破片がひっかかっています。
「これ・・・艦長と、議長？」
「うん」
ちいちゃい子みたいに頷くレイは、ぎゅうっと手の中にあったものを握りました。
「俺だけ、置いて・・・でも、まだ、きっと、間に合う。すぐ、また、いっしょに」
そうして、ちょっと、笑って。
「つれていって・・・・」
どこかでまた、どかんと音が聞こえました。
「ダメだよぅ、レイ」
ひんひんひんと鳴くシンは、レイの手をぎゅうぎゅう引っ張りました。
そうしたら、レイの手から、艦長たちの、レイのご主人様たちの、手が落ちてしまいました。
手が、離れて。
手を、離して。
「レイを置いて行ったんじゃないよ、まだ明日、レイの分の明日、まだあるから、だから！」
そうだよ、ステニャ。
俺たちには、まだ、明日があるもん。
だから、行かなくっちゃ。
「なあ、レイ！」
シンが、わうん、と鳴いた時、どーん！と、大きな音が後ろでしました。
びっくりして振り向くと、壁ががらんと崩れています。
火がついて、すっごく怖いのです。
「わーーーん！」
シンは、大声で泣きました。
でも、いつもしっかりしていたレイは、ぼんやりしたままです。
「あ・・・した。おれの・・・・」
明日、あした。明日があるから。
行かなくちゃいけないのに！
助けてよう。
「アスランさーーーん！」
「シン！」
急に、スピーカー越しの、大きな声が聞こえました。
シンは、ヘルメットの中で、お耳をぴん！と立てました。
がらがらと崩れた壁の向こうから、赤い色が見えます。
おっきい、ご主人様の機体です！
「とにかく乗れ！ここもすぐに崩れる！」
ご主人様が差し出してくれたジャスティスの手に、シンはずるずるとレイを引っ張り上げました。
レイは、シンよりもちょっと大きいのです。
タイヘンです。でも、シンは頑張りました。
だって、ご主人様も頑張ってくれたんだもん！
「早く！」
大きな手でシンとレイをすくい上げると、ご主人様は、コックピットを飛び出して、２匹の子わんこを、ひょい、と摘み上げました。
そうして、ぽい、とコックピットに放り込みます。
それから、一回だけ、落ちていた、ふたり分の手を見下ろして。
「痛いーー！」
「いいからさっさと掴まれ！・・・おい、レイを放すんじゃないぞ！」
そう言って、コックピットのハッチを、しゅんっと閉めてしまいました。
そうしてシンのベルトにリードを付けて、すぐにスロットルレバーを思いっきり引っ張ります。
がくんがくんとと揺れるので、シンは慌てて怪我だらけのレイをぎゅうっと捕まえました。
「なんとか、脱出してみせるから・・・お前は、レイを頼む」
「はぁい・・・・って、わーーー！」
ご主人様、操縦すっごい荒いですーーー！
「レイのがおっきいんだよぅ、ぶつかる、痛いー！」
がっくんがっくん繋がれたシートが揺れているので、がっくんがっくんと、シンとレイも揺れてしまいます。
ぶつかります。危ないです。レイは怪我してるのに！
「だから頼むって言っただろ！俺はこっちで手一杯なんだ、お前がなんとかしろ！」
ご主人様、無茶苦茶―――！
「抜けた！」
それでも、ご主人様がそう言ったとたん、急に静かになって。
シンはぴすぴす鳴きながらぎゅうっとご主人様にしがみ付きました。
良かったですーーー
ご主人様は、シンをぎゅっとしてくれてから、通信回線を開きました。
「アークエンジェル、応答願います。・・・あの、すみません。どこかに獣医が乗っている艦はありませんか？」
ないと言われて、シンはまた、ひんひんと鳴いてしまいました。
アークエンジェルに乗っていたお医者さんは、幸いなことに、オーブ軍にいるコーディネイタードッグを診たことがある人でした。
そのお医者さんは、「しばらく入院すれば大丈夫だよ」と言ってくれました。
「よかったよう・・・・っ」
シンは、ぴすぴす鳴きながら、レイの寝ているお布団にしがみ付きます。
レイはちょっと迷惑そうに、それでも大人しくしがみ付かれています。
そこにご主人様がお見舞いに来て、レイは、一言だけ、「ありがとうございました」と言いました。
「いや・・・うん。まあ」
アスランは、ちょっとびっくりしてから、「無事でよかったよ」と、レイの頭を撫でてくれました。
「ジュール隊が、遭難者の引き取りに来るそうだ。レイはもう動かせるんだろう？一緒に行くといい」
「アスランさんはーーー？」
シンは、今度はご主人様の足に、ぎゅうってしました。
ご主人様は、白いオーブの軍服を着ています。
なんだか、凄くヤな感じです。
「俺は・・・」
ご主人様が、言いよどんだ時でした。
ちょっと、床が揺れました。
『ヴォルテール、着艦しました。収容者の移送を開始しますので、医療班は最終チェック、および引継ぎをお願いします。繰り返します。ヴォルテール着艦しました・・・』
「ああ、ほら、来た。シン、ルニャはどこに・・・・」
ご主人様が、そう言ってシンを抱き上げると、スピーカーからの声が、急に大きくなりました。
『毎度×２手際がわるいんじゃぁ！』
「・・・イザーク！？」
ご主人様は、なんだかびっくりしています。
それから、がったん！と音がして、艦内通信がぶっつり切れて。
それからすぐに、だかだかと大きな足音がしました。
でーんでーんでーん、でーんででーん・・・
なんだか、遠くから聞き覚えのあるBGMがする・・・ような気がします。
そうして・・・
「どうして貴様はいつもいつも・・・まあいい。来い」
「イザーク、しかし俺は・・・」
「つべこべ言うな！俺と来い！」
シンは、ご主人様の足元で、めったにしない、きちんとしたお座りをしています。
だって、ダースベ・・・ジュール隊長はとっても強いのです。
シンは、お腹見せちゃったのです。
「だから、どうしてお前はいつもそう人の話を聞かないんだ」
でもご主人様は、お腹見せたりしてないみたいです。
ご主人様、やっぱり強いんだ。
シンはちょっと得意になりました。
「その言葉、そっくり返すぞ。しかもどうして貴様はいつもいつも訳のわからんことを・・・首輪でもつけておかないことには安心できん！」
「首輪って、俺は犬か？」
「こいつらの方がよっぽど賢いわ！」
そうして、ご主人様とジュール隊長は、二人一緒にシンを見下ろしました。
「こいつの方が？」
ご主人様、なんだか、声がじっとりしています。
「・・・・・」
「・・・・・」
「なんだようっ！」
シンは、お座りをやめて、ぴょん！と立ち上がりました。
ジュール隊長は、ごほんと咳払いをして、ご主人様は、シンをふわりと抱き上げました。
ご主人様の抱っこは、ちいちゃいシンでもおっきくなれた気がして、大好きです。
ご主人様の匂いを、たくさんくんくん出来るので、大好きです。
シンは、ご主人様が大好きなのです。
だから、ぎゅーっとご主人様にしがみ付きました。
置いて行っちゃやだよう。
明日も明後日も、ずっとずっと、アスランさんと一緒にいたいよう！
「いいから貴様は戻って来い！」
ジュール隊長がそう言って、シンごと、ご主人様をぎゅうってしました。
「戻るって、どこへ」
ご主人様の声は、なんだか、泣いているみたいでした。
「俺のところに決まっているだろうが！」
ご主人様は、シンをぎゅうってしました。
ちょっと苦しかったけど、シンは我慢して、やっぱりぎゅうってしました。
「・・・馬鹿だな、お前」
ご主人様は、泣いているみたいでした。
泣いているみたいですが、笑っていました。
こうして、ご主人様が旦那様のトコに戻られますので、子わんこも一緒にもらわれて行きましたｖ
明日も明後日も明々後日も、ずーっと、ご主人様と一緒なのですｖｖ