虚偽所有
まったく、こんなに簡単なことだったなんて思わなかった。
首筋に散る黒髪を、そろりとかきあげてやりながら、英治は思った。
「ぅ・・・あ・・・・・」
ただそれだけで、上がる声。
もう、ホント限界なんだろうなァ。
そう思うだけで、震えが来るほどに、気持ちがいい。
「えい、じ」
シーツに伏せていた顔がわずかに上げられて、濡れた漆黒の瞳が、片方、懇願の色をたっぷりと乗せて英治を映した。
「もう、イかせ・・・」
「まだ、ダメだよ。玲二」
「は、あんっ・・・・」
言ってやりながら奥を突けば、玲二はびくりと身を震わせて、耳に心地よい声で、啼いた。
高校生に襲わせてみたり、警察に捕まえさせてみたり、姉を殺してみたり。
子供の頃はいろいろやってみたけれど、それでも結局、玲二を手に入れることは叶わなかった。
それが、どうだ。
「えい、じ、えいじ。も、や・・・・・っ」
裸に剥いて、後ろ手に縛り、前を戒めて、あとは、後ろを犯すだけ。
たったこれだけで、こんなに従順になってしまうなんて。
こんな簡単なことに、気がつかなかったなんて。
「子供、だったんだよなァ」
「あ・・・・・っ！」
きつく中を責めてやれば、びくびくと中がひきつれた。
もう、何度も出してぐっしょりと濡れたそこに締め付けられて、とてもとても気持ちがいい。
「あ、また後ろイっちゃった？」
「っ、くぅ・・・・」
きつく戒められて白くなった指が、ほの赤く染まった背の上で、きゅ、と縮こまるのが、かわいい。
自分で慰めてしまわないようにと、後ろ手にくくってあるのは自社製のワイヤーロープだ。
ただでさえ、痛覚がないために人並み外れた力を発揮できてしまう玲二の腕。
その彼がファクターになったのだから、これくらい使わないと千切られてしまう。
「あ・・・・ぁ・・・・・」
その、青く変色し始めている指先にそっと触れて。
それから、たっぷりと汗を含んだ髪を払い、紅潮した耳元へ、ささやいた。
「そんなにイきたい？玲二」
「・・・・っ！」
そんなささやかな刺激にも、感じているのだろう。
ひくりと全身をすくませて、シーツに頬をすり付けたまま、玲二がこくこくと頷いた。
「・・・・かせ・・・・たの、む・・・・」
かすれた声と共に、中がうごめく。
言葉と同じ。
淫らに強請る、動き。
その快感に笑みをこぼしながら、英治はまた、囁いてやる。
「お願いって、言ってみてよ」
玲二のおねだり、聞いてみたいな、と続ければ。
「・・・・ねがい・・・・・・」
彼は、ひどく簡単に英治の願いを叶えてくれた。
幸せだな、と英治は思う。
ずっと欲しかった玲二が、今、自分の腕の中。
こんなに従順に喘いでいる。
「うーん、でも、まだダメ」
だって僕は、いっぱいいっぱいガマンしたんだ。
だったら玲二も、もう少しくらいガマンしなくちゃね。
「僕がもう一回イったら、イかせてあげるよ」
だから、もう少しがんばって、と明るく言うと、森次の瞳がひどく切なそうに細められた。
たまらなく、ソソられる顔。
「そんな顔してもダーメ」
ぽろりとこぼれた涙を、ちゅ、と吸い取ってやると。
英治は玲二の腰を抱え直し、繋がった場所をなぞりながら言った。
「ちゃんと締めろよ」
お前のココ、もうぐちゃぐちゃだよ？
そうからかうと、望みどおりにソコがきゅう、と締まる。
「玲二はさ、恥ずかしいコト言われるのがスキだよね」
言いながら、彼が羞恥に身を固くしているうちに極めてしまおうと、激しく腰を使いだした。
「あ、ああ、あ、あ、あ・・・・っ」
可愛い声で啼く玲二。
コレが今、ぜんぶ、僕のもの。
長い間満たされなかった所有欲を十二分に満足させて、英治は玲二の中を、また、たっぷりと濡らしてやる。
「ひっ、あ・・・・っ」
英治を飲んで、ぎゅっと絞られた、ソコ。
「・・・もうサァ、後ろだけで十分なんじゃないか？玲二」
また、後ろがイったことを指摘され、それでも玲二はふるふると首を振った。
「仕方がないなァ」
そう笑いながら、英治は満足しきった自分をずるりと玲二の中から抜き去った。
長い時間、開かれ、擦られ続け、すぐには閉じられないそこから、どろりと英治の放ったものがあふれてこぼれる。
「っ・・・・・」
その感触にも感じるのだろう。震える玲二の体をそのまま、後ろから抱きしめて。
「じゃあ、腕、外してやるから」
少し惜しく思いながら、色の変わった手首からワイヤーロープの接続部を外してやると、森次はすぐさま、おぼつかない指で前を戒めている皮の拘束具を外しにかかった。
しかし。
「・・・・っ、く」
「どうしたんだい？」
長い時間戒められ、更にそれが外されて、一気に血が流れ込んでいる指先に、細かな作業など、できるわけもなく。
「えい、じ」
ベッドに倒れ込んだまま、見上げる玲二の、濡れた瞳。
「たの、む」
媚びさえ含んだその眼差し。
「外して、くれ・・・」
すっかり英治を頼りきった声。
ああもう本当に。
なんで、こんな簡単なことに、今まで僕は気がつかなかったんだろう。
ほら、な？
僕がいなくちゃダメだろ？玲二。
「いいよ、玲二」
英治は機嫌良く、玲二のものを戒める枷を取り払ってやった。
ソレに、英治の指が触れるたび、玲二の腰ががくがくと揺れて、たのしい。
「ほら、取れた」
「ぁ・・・っ」
すぐさま、自分のものに絡められる玲二の指。
長い間せき止められたそれは、なかなか達することができないらしい。
赤黒く勃起したものに、血の気を失った長い指がたどたどしく絡むさまは、目を閉じて、イこうと必死になっている表情と相まって。
「スゴく、卑猥だね」
震える腰を撫でながら、猫撫で声で貶める。
「っ！」
とたん、白い指を、もっと白い粘液が、汚した。
「は・・・ぁ・・・・・」
どくどくと、長く続いた射精の後に、くったりと力を失ったしなやかな体。
脚の間を、英治と自分の体液で汚し、ほの赤く染まった肌の上に、しっとりと汗を纏わせて。
薄い唇をちいさく開き、はぁはぁと荒い息をつぎながら、それでも達したばかりの忘我の表情を浮かべるキレイなカオ。
それを見下ろし、英治は満足げにほほえんだ。
そう。
欲しかったのは。
「なあ、玲二。お前のせいでまた勃っちゃったよ」
ぺちぺちと、上気した頬を叩くと、長い睫の下、快楽の涙に濡れたままの漆黒の瞳が、幾度か緩慢に瞬いて。
「上と下、どっちがイイ？」
そう聞くと、形良い方がひくりと竦み、やっと正気を取り戻した瞳が、上目遣いに英治を映す。
それから、己の下肢に伸ばされたままだった長い腕が、つう、とシーツを滑っていき。
尖った肘がスプリングを沈め、ひどくゆっくりと起き上がると、玲二はその腕を、英治の腰へと伸ばして言った。
「口で、してやる」
疲れきって、起きあがることもおっくうそうなのに、自分からそうしたのは、恐らく英治を飲み込み続けた下がもう、限界なのだろう。
そう思うとますます楽しくて、英治はそろそろと自分のものに近づいてくる、玲二の唇を心地よく見下ろした。
「玲二ってサ」
ぬるり、と、今まで包まれていたものとはまた違った、しかし同じ、玲二のナカに包まれて。
英治は、ほう、とため息をつきながら。
「咥えるの、好きだよなァ」
汗をたっぷりと含んだ黒髪を、くしゃくしゃとすいた。
指にまとわりつく、湿った感触さえ、気持ちいい。
そのまま、彼の口腔をいいように愉しみだした英治は、知らない。
つい、とかきあげた前髪のその向こう。
彼の瞳から、ほろほろとこぼれた涙の意味を。
その涙も、すぐに、喉を突かれる苦しさから流れたそれに、紛れて消えてしまったのだけれど。
確かにあった、その想いを。