咥える
いつも、冷たくヒトを見下ろしている瞳が、とろりと潤んで自分を見上げているのは、とても不思議な気分だった。
はじめは、さらさらと乾いていた肌が、しっとりとした熱を帯びてきて。
早瀬の指に、吸いつくように、馴染む。
「ふ・・・・っ」
わき腹をそっとなぞると、ひくりと皮膚が震えるのがわかった。
漆黒の瞳が、ふっ、と細くなり、幾度か瞬いて、閉じられる。
その反応に気を良くした早瀬は、繰り返し繰り返し、そこに、刺激を与えた。
「っ、・・・はや、せ」
聞いたことのないような声音で、名を呼ばれる。
レンズ越しではない瞳が、見たこともないかたちに歪んで。
何故だか酷く、興奮した。
「気持ちいいんですか？森次さん」
余裕ぶって聞いた声は、みっともないくらいに上擦っていた。
それを聞いた森次の口の端が、ふ、と上がる。
「ああ。・・・素質は、あるな」
「っ！」
今まで、されるがままだった森次の腕が、つい、と伸びて。
いつの間にか、すっかり勃ち上がっていた早瀬のものをぐいと掴んだ。
「も、りつぐさん」
「礼をしてやる」
乗り上がっていた早瀬の体を、酷く簡単に押し返し。
森次は上半身を起こすと、押されて尻餅をついていた早瀬の下肢に、すぐにそれを沈めた。
「う、わ」
早瀬の見える位置で、赤い唇が開く。
その中に、自分のものが侵入っていく様は、感覚的にも視覚的にも、凄く、キた。
たっぷりと濡れた熱いものが、ぬるりと早瀬を包み込む。
いつも、冷たい言葉を吐く口の中が、こんなにも熱い現実に、背筋が震える。
ていうか。
うわ。
森次さんが俺の。
咥えて。
「ちょっ、森次さ・・・」
気位の高い上司が、ここまでしてくれているという事実に今更気づき、早瀬は感動を通り越してパニックを起こしかけた。
自分のサイズの程は知っていても、いくらなんでもここまで見えなくなってるってコトは、これどうなってんの！？
なんだかどうでもいいことにまで飛びかけた意識を、更に煽るように。
「ん・・・」
森次の喉から、小さな音が漏れた。
それで、わかってしまった。
どうって。
喉の奥までくわえてくれてるに決まってるじゃん！
そう思ったところで、ソレをきゅうと締められて。
そのまま、絞るように、その気持ちのいい場所から引き出された。
自分のモノの表面を、もの凄く気持ちよく擦ってくれているのが、彼の舌と唇だと認識したとき。
早瀬は、我慢することすら出来ずに達していた。
アタマの中が、白くなるような快楽。
こんなの知らない。
しかしすぐに、早瀬は森次の口の中に放ってしまったことに気づく。
「うわ、すいません！って森次さん！！」
ごく、と、森次の喉が鳴った。
何を飲んだのかなんて、そんなものは明らかだ。
早瀬のものが抜き出された時、先に残っていたものが、口の端を濡らしている。
こんな絵面、エロ動画で何度か見たケド。
こんなエロくなかったよマジで！
「いや」
しかも、それを指で拭い、更に口に含んだ森次のセリフも、早瀬の想像を超えていた。
「初めてでこれなら、保った方だろう」
「う・・・・」
童貞の相手をしたことはないからよくは知らんが、と、余計な一言まで付いてきた。
それでも、全くテンションが下がらない自分が不思議だ。
いや、不思議じゃないのか？
だいたい森次さんって、色っぽいとは思ってたけどもこんなエロかったっけ？
少年のアタマのナカは、もうぐちゃぐちゃだ。
そんな早瀬の、まだ少し濡れた先端に顔を寄せ、わずかに残ったものまで欲しがるように、ちゅ、と吸って。
それから森次は、くつりと笑う。
「元気だな」
「・・・・っ！」
そう。
一度イったというのに、早瀬のモノは、まだしっかりと勃ったままだった。
ソレに掛かったままの、長い指。
早瀬を見上げる、濡れた視線。
笑みを残した、赤い唇。
その向こうに伸びる、白い肢体。
ごく、と、早瀬の喉が鳴った。
そうして、必死になって口を開いた。
「しょーがないんですよ、アンタのコト好きなんだから！」
好きな人にこんなコトされたら、そんなの勃つに決まってます。
そう開き直った早瀬の顔を、じっと見ていた森次は、ほんの一瞬笑みを消して。
「・・・・そうか」
一度わずかに目を伏せて、それから目を上げ、にっ、と、濡れた唇を歪め。
長いまつげに縁取られた、漆黒の瞳を細めて見せた。
「なら、本物のセックスを教えてやろう」
う、わああああああああ！
飛び出しそうになった意味不明の叫びは、乗り上がってきた森次の唇に、響く間もなく飲まれて消えた。
唇の感触を楽しむ間もなく、早瀬の舌に、森次のそれが絡みつく。
うわ、これ、さっきの。
自分のモノにしていたことを再現されているのだと気づき、早瀬は慌てて舌を押し返して自分から絡め合わせた。
一方的に持って行かれるのはイヤだ。
俺だって、この人を気持ちよくさせてあげたい。
そりゃ、俺は初めてだけどでも！
さっき覚えた、感じるらしい場所に手を伸ばし、早瀬は負けじとその肌を愛撫した。
ふるふると震えるその肌が、いつもの白さを失って。
ほの赤く染まっていることに、少年が気づく余裕は、まだ、なかった。