黒いスーツ
この人がエロく見えるのは、いっつも黒スーツでストイック風だからだと思っていた。
そのスーツを脱がせる立場を手に入れて、そんな考えはすぐに吹っ飛んでしまったけれど。
「アンタ、このスーツエロ過ぎんですケド」
ベッドに押し倒してしまう前に、それだけ先に引き剥がした早瀬は、その襟を掴んでぷらんと下げながら言った。
正確には、このスーツを着た彼が、だが、それを酌もうと酌むまいと、森次の答えは変わらない。
「お前だって同じ制服だろう」
「俺が着たってエロくないです」
そう言いさすと、とりあえず皺にならないように、先に外した眼鏡を置いた、側の椅子にそのスーツを引っかける。
森次は特にそれには答えず、ただ、己の普段着の行方を目で追った。
「・・・・まあ、着てなくってもアンタエロいケド」
シャツのボタンを外しながら、つっこまれる前に早瀬は認めた。
森次の腕が伸びて、同じように、早瀬の制服を脱がし始める。
「それは、お前が私に欲情しているからだろう」
その、身も蓋もない言い方にカチンとくる。
「させてんのは誰だってんですか」
まったくもう、とばかりにベルトを外す。
引っこ抜いてやろうかと思ったが、めんどくさいのでそのままシャツとアンダーを引っ張り出す。
早瀬の方も上着とシャツを脱がされて、しかし森次は少年のベルトに手をかける前に、自分の半端に脱がされていたシャツとアンダーを、ざっくりと自ら脱いでしまった。
「脱がさせてくれたっていいのに・・・」
ぼやく早瀬ちらりと見下ろし、脱いだシャツと、早瀬の上着をまとめて椅子の上に放ってしまう。
そりゃないよなー、とこの人と付き合っているといっつも漏れるグチを漏らし、それでも早瀬は半裸の体をシーツの上に押し倒した。
いつもスーツに押し包まれている肢体は、ことのほか白くてやたらとキレイだ。
胸や肩にキスを落とし、わき腹から腰に唇を滑らせながら早瀬は思う。
乱されたままのスラックスに手を掛けると、特に何も言わなくても腰を浮かせ、脱がせやすいようにとする仕草がイヤラしい。
それと同時に、どんだけ慣れてんだよ、と思うと、それはそれで腹立たしくて。
早瀬は、乱暴な仕草でスラックスと下着を一緒くたに引きずり下ろした。
「・・・・・・ふ」
絶対に、冷たい言葉で叱られると思っていた早瀬は、不意に笑われてどっきりした。
いや。
わかってんだよ。
今すんごくバカにされたってわかってんだよでもー！
ぶっちゃけ、このカオで嘲笑されたらどっきりじゃ済まなくて、びくぅ！となること請け合いだが、嘲笑よりも苦笑いに近いそれは、やっぱり早瀬をどっきりさせた。
ああくそ。
くそー！
このカオは卑怯だよなぁと、恋人の綺麗なカオをのぞき込み、まだ笑みの残る唇に、それが消えないうちにとキスをする。
たっぷりと舌を絡めるキスは、この人から教わった。
キスだって、セックスの一種だって。
そう思うしかないような、イヤらしい、キス。
離した唇がじんじんする。
口元にこぼれた唾液を、ぺろりと舐め取る舌の赤さと、じいっと自分を見上げる瞳の黒さ。
そうして、それを引き立てる肌の白さにドキドキする。
「アンタ、ホントに、エロい」
興奮に上擦った声でそう言うと、問答無用で長い脚が
絡みついてきた。
「言うことはそれだけか」
それしか言えない、なんて、悔しくって言えないから。
だから早瀬は、その脚を捕まえて、感じることを知っている、内腿のあたりに噛みついた。
いきなりそこか、とでも言いたげな視線が、やっぱり凄く笑っている。
ええいきなりココですよ、とばかりに、しっかりと歯形をつけたそこから、つうっと脚の間へと舐め下ろす。
ひく、と抱えた脚が震えるのがわかった。
ホラ、アンタだっていきなり好きなんじゃん。
脚の間、際どいところに、もう一度噛みついて。
その、張りつめた皮膚の感触と、甘い肌の匂いにつられてあふれてきた唾液を、とろりと人差し指へと絡めた。
くす、と、今度こそ本気で笑われる。
大きく開いた脚越しに、そんなカオ見せられたらたまらない。
早瀬は、唾液を纏わせた指を、森次のそこへ、ぐいとばかりに押し込んだ。
「ん・・・」
慣れているはずのそこは、それでも一瞬早瀬を拒む。
きゅう、ときつく締め付けて、しかしすぐに、ぬるりと早瀬を受け入れる。
無意識だってわかってる、それでも、その一瞬の抵抗が、男をどうしようもなく煽るのだ。
指を全部を使うように、ずるずるとナカを愛撫すれば、はじめ拒んだはずの入り口は、すぐに綻んで、むしろもっととでも言うかのように絡みついてくる。
それは、ここに突っ込んだ時の気持ちよさを連想させて。
たまらなく、なる。
それでも、十分に慣らしてからでないと、また笑われるわ自分も痛い思いをするわで良いことがない。
痛みを感じないこの人の体は、更に腹立たしいほどに慣れていて、多少無茶をしたところで傷つくこともあまりない。
だから、自分のため自分のためと、暗示をかけるようにして、早瀬は指を増やし唾液を足して、あたたかくて気持ちの良い襞を、かき回すように愛撫していく。
そうすれば、森次の腰が浮いて、気持ちよさそうに揺らめいた。
「ふ・・・・っ、それだけ、か？」
「そんなワケないでしょーが」
ちゃんとしないと俺がイタイんです、とムキになって言えれば、そうかと笑いを含んだ声が返ってきた。
ああくそ、めちゃくちゃにしてやる、と、いつも思って、しかし成功しているのか失敗しているのか判然としない目標を掲げ、早瀬はずるりとそこから指を引き抜いた。
赤く染まったそこが、閉じきらずにひくひくといやらしく震えている。
それにこくんと息を飲み、それから早瀬は、恥ずかしげもなく開かれた脚をばたんと閉じさせ、まとめてシーツへ押し倒した。
早瀬の意図を察した森次が、何も言わないうちから体を返し、腰を突き出すようにして四つん這いになった。
イヤラしい場所が、さっきとは違う角度で早瀬の眼前に晒される。
ちらりと後ろを振り返り、その黒々とした瞳で早瀬の欲を一瞬で煽ってから、森次は枕を抱えるようにして、立てていた肘を崩した。
ああもう！
早瀬はもう煽られるまま、慌てた仕草で自分のものを掴み出し、その腰を掴んで、イヤらしく蠢き続けるそこへと押し当てる。
ぬ、と。
初めに押し包まれる快感は、他に比べられるものがない。
うっかり暴発しないように頑張りながら、早瀬はそのまま、まだ少しきつい、森次の中に侵入っていく。
「は、ぁ・・・・・っ」
濡れた声が枕でくぐもって、なんだかといってもイヤラしい。
まだきついその場所は、それでも押し広げられることには慣れていて、早瀬をきゅうきゅうと締め付けながらも、それでもすんなりと受け入れる。
濡れた熱い肉襞に、一番敏感な場所を締め上げられれば、経験の浅い少年など、すぐにイきたくてたまらなくなってしまう。
「森次さん、きっつ・・・」
なんとか気を散らして持たそうと、口を開いてみたものの、セリフは半端に途切れて消えた。
やばい、きつい、気持ちいい。
まだ全然動いていないのに、すぐイきたくて、たまらない。
早瀬が必死に射精感と戦っていると、森次の伏せられていた瞳が肩越しに振り向き、潤んだそれを瞬かせた。
あ、ヤバ。
本能が、何か囁く間もあればこそ。
「面倒だ、一度、イけ」
つうっと枕から唾液の糸を引き、薄い唇そう囁く。
とたんに早瀬を飲み込んだ腰が、ゆるり、と意図を持って揺らめいた。
ただでさえきついそこが、まるで絞り上げるかのように蠢いて。
「って、わぁっ！」
抗議する間も与えない。あんまりにも気持ちの良いそこは、あっと言う間に早瀬のモノを絞り上げ。
白い腰がふるふると震えて、とっぷりと濡れた感触に、早瀬のものを、すべて受け止めたのがわかった。
「っ、は〜〜〜」
思わず漏れたため息に、くつくつと、喉の奥を鳴らすような笑い声が被る。
「これで、動けるだろう」
きゅむ、と、体の奥で早瀬を食んで。
黒々と濡れた眦をわずかに下げて。
赤く色づいた唇の端を、つい、と綺麗な形につり上げて。
イヤラしい格好で、早瀬を見上げる年上の恋人。
「うぅ・・・・」
その人の中で、ずくずくとうずく自分を持て余しながら、早瀬はもはや呻くしかない。
この人がエロく見えるのは、いっつも黒スーツでストイック風だからだと思っていた。
そのスーツを脱がせる立場を手に入れて、そんな考えはすぐに吹っ飛んでしまった。
「アンタ、エロ過ぎんですよ！」
だから早瀬は、そうヤケクソに叫んで、森次の望み通り、気持ちの良いその中を、めちゃくちゃに動き始めた。
早瀬の下で喘ぐ森次は、年下の恋人の可愛い反応に、満足げに、笑った。