子わんこシンの宝物
シンは、子わんこです。
子わんこなので、イタズラが大好きです。
今日も、ご主人様たちの寝室のごみ箱を漁っています。
くんくん。
「こら、シン」
でも、たちまちのうちにご主人様に見つかってしまいました。
「この前も、ごみ箱倒したのお前だろう。・・・まったく」
倒れたごみ箱の中から、ずるずるとシンを引きずり出し、ご主人様は、シンのくわえていた、書き損じの紙くずを取り上げてしまいます。
「捨てちゃうんならくださいよー」
「やめろ、シン」
「だってアスランさんの匂いするのにー」
「だから、駄目だってば」
取り上げられた紙くずが、ごみ袋に入れられて、ぎゅっと口を閉められるのを見て、シンはくんくん鳴きました。
せっかく見つけた宝物だったのに。
「もういいよっ！」
ぴょん、と、ご主人様の腕の中から飛び下りて、シンはとっとと自分の部屋へ戻ります。
いいのです。
だって、宝物は、まだいっぱいあるのです。
シンは、自分のベッドの下に、頭を突っ込みました。
シンの宝物は、みんな、ここに隠してあるのです。
ご主人様の靴下、ハンカチ、壊れてしまったシャンプーハット、もらったけれど、とうとうつけなかった首輪、なんだかわかんないけど、ご主人様の部屋にあった部品、etc.etc.・・・
このあいだ、ごみ箱の中から見つけた物も、もちろん入っています。
シアワセです。
宝物を溜めるのは、一緒の部屋のレイも、文句は言いません。
レイだって、ベッドの下に宝物を仕舞っているからです。
宝物は、前のご主人様の写真です。
ナイショ、ナイショなのです。
「シン、レイ、掃除するぞー」
でも大事件がありました。
ご主人様が、シンたちの部屋を、大掃除すると言うのです。
ご主人様は、昨日の夜、旦那様とケンカをしたのです。
そうして、「家のことが何も出来ない」と言われたご主人様は、イチネンホッキして、お掃除をすることにしたのです。
シンたちはいい迷惑です。
でも、ごはんを作られるよりはマシなのです。
「極端な奴だな・・・」
「うるさい！」
ケンカは続行中です。
レイは、こっそり宝物の写真を隠そうとしました。
でも見つかって、ご主人様が持ってきた、写真立てに入れてもらっています。
いいなぁ。
他に、どーしても本能に負けてベッドに引きずりこんでしまったお風呂タオルは、ご主人様もわかっていて、ちゃんとたたんでベッドに戻してくれます。
そうして、シンのベッドの番になりました。
「やめろよー！」
シンの言うことなんか、ご主人様は聞いちゃいません。
「お前な、靴下はともかく、部品は持って行くなよ・・・」
「ちゃんと仕舞っておけ」
「だからうるさい！手伝わないんなら出て行け！」
ケンカ、絶賛続行中。
「捨てんなよ。取んなよーっ！」
「部品はダメだ。おもちゃは、ちゃんとおもちゃ箱に、な？シャンプーハットは・・・おもちゃ箱でいいか。靴下もやるから。引っ張るなよ」
どうやら、お仕事の部品以外は取り上げられずに済みそうです。
そう思って、シンがほっとした時でした。
「こっちにもあるぞ。やるならやるで、徹底的にせんか」
旦那様が、シンのベッドのマットレスを、全部引きずり下ろしてしまったのです。
マットレスの下には、丸めたティッシュがたくさん仕舞い込んでありました。
「なんでお前、こんなゴミを・・・」
ご主人様は、ため息をついて、それを一掴み、ごみ袋に放り込もうと掴み上げました。
「ゴミじゃないーっ！」
シンが飛びついて、ぽろりと指の間から、ゴミが落っこちます。
それは、見覚えのある薄いゴム製の物体でした。
アスランの手が、ぴたりと止まります。
そういえば、ティッシュの方にも見覚えがあるのです。
覚えのある、夜の匂いが、するのです。
「――――――――！」
何故か、ご主人様は真っ赤になってしまいました。
「小僧、キサマ！」
旦那様は、シンをの襟首を、ぷらんと摘み上げてしまいます。
「取んなってばーっ！」
でも、二人とも、シンの言うことなんか聞いちゃいません。
「キサマ、これをどこから持ってきた！」
「あ・・・たまに、寝室のごみ箱を漁ってた・・・」
「気がついたのなら止めさせろ！」
「止めさせてる！だいたいお前が気をつけろ、その辺に捨てるな！」
「ちゃんとごみ箱に捨ててるだろうが！他のどこに捨てろと・・・」
「犬飼ってるんだから、生ごみは袋に入れて口縛れ！」
「生ごみ？・・・だいたいなぁっ！貴様が際限なく欲しがらなければこんな量にはならん！」
「量？量って・・・お前がしつこいからだろうが！！」
怒鳴りあうご主人様たちを横目に見、今まで黙って見ていたレイが、ひょこひょこと、落っこちたゴム製の物体を拾い上げました。
そうして、もうだいぶ乾いてかぴかぴになったそれを、しっかりとティッシュで包みなおして、アスランの持ってきた、プラント指定の燃えるごみ袋の中に、ぐいぐいと押し込んでしまいました。
「匂いがしないように、ちゃんと包んで袋の奥へ入れておいて欲しいのですが・・・なにぶん、俺たちは本能が強いもので」
「そ――だよ――っ！」
旦那様の手から、ばたばたしっ放しだったシンがぽとりと落ちました。
旦那様は、何故か、銀色の頭を抱え込んでしまっています。
「もういい。貴様に任せる・・・」
「いや、任されても・・・ああおい、イザーク！」
こうして、旦那様はレイと前議長への疑惑を更に深め。
「だからな、シン。寝室のごみ箱だけはやめてくれ」
「だから何で―――っ！」
アスランは、シンを説得しかねて、とてもとても困ってしまったのでした。
「なあレイ、どうやって言ったらいいんだろうな？」
「俺は知りません」
「貴様も何故、レイに聞くんだ・・・」
「何で―――っ！」