宝物のちょっと前のお話
「ん」
目の前に突き出された小さなパッケージに、イザークは機嫌悪く眉を寄せた。
「いらんだろうが、こんなもの」
「あのな、中でがばがば出されて、大変なのは俺なんだぞ！」
翠の瞳がきらきら光って、怒っているアスランは、綺麗だと思う。
綺麗で、そうして、どうしようもなく汚したくなる。
「それがイイんだろ？淫乱」
だからイザークは、ニヤリと笑うのだけれど。
「いいわけあるか。さっさと付けろ！」
ぱりぱりとパッケージを開け、その中身を片手に、アスランはイザークのものに手を伸ばすのだ。
「掴むな！馬鹿者！自分で付けるわ！」
どういう理屈かは知らないが、喧嘩中のアスランは、やたらとイザークに避妊具を付けさせたがる。
嫌がらせのつもりなのかも知れないが、正直、あまり、効果はない。
イザークは、フン、とひとつ呟いて、手早くそれを付け、アスランの体を引っくり返した。
とたん、げしげしと蹴りつけられて。
「だから、後ろからはやめろ」
「貴様の言うこと聞いてやったんだ。文句を言うな」
「言うに決まって・・・んっ、こら！」
突っ伏したままで、腰だけを引き上げられ、頬を赤くしたアスランが睨んでくるけれど。
イザークは、軽く笑ってその狭間に指を押し込んだ。
「はん・・・・」
さっきから散々弄られていたそこが、やわらかくイザークを迎え入れる。
「指だろうがモノだろうが、被せてあろうがなかろうが、一緒だろうが、貴様なら」
「ばかや・・・っ、あっ、ああっ」
ずるりと指を引き抜いて、息もつかせずイザーク自身を突き立てる。
表面に薄くジェルが塗ってあったせいで、それは難なくアスランの中へと飲み込まれた。
一度目は、使った方が楽かも知れない、と、使うたびにイザークは思うのだけれど、自分から使おうというのは、なんだか負けた気がするので絶対言わない。
「ぅん、っ、あ、あぁ・・・・」
緩く腰を揺すってやれば、堪えきれず洩れる淫らな声。
昼間、どんな喧嘩をしてみても、夜になれば、こうやって自分の下で鳴くと思えば、どんな罵倒も可愛いものだ。
「へたくそ・・・っ」
可愛い？
「小さい！痛い！全然良くな・・・っ」
「貴様・・・泣かせるぞ！」
「誰が、あっ！」
ぎゅうぎゅうと、力任せに締め付けてくるアスランの中を、イザークはがしがしと突きまくった。
「無駄にっ、揺するな気持ち悪っ・・・う、クんっ、この、ばかっ！」
「うるさい！」
「やっ、あっ・・・・」
どんな言葉で罵り合っても、互いに互いが慣れた体。行為が激しければ、得られる快感も大きくて。
歯を食いしばったイザークが、ふっと力を抜いたその一瞬、狙い済ましたようにアスランは、内を犯すものを食い締めた。
「―――――っ！」
「くっ、ふっ、・・・早い！」
鳴いて嗄れはじめた声で、すかさず叫んだアスランの髪を、がっしとわし掴んでイザークも吠えた。
「貴様が締めるからだろうが！」
「人のせいにするな！」
「貴様ぁ」
ずるり、と抜き出したイザークは、付けていたものをぺっ、と取り。
「その辺に捨てるな！」
「わかっている！」
ティッシュに包んで、ゴミ箱に放って。
「ちゃんと付けろよ」
「わかっている。・・・貴様も、な」
ニヤリと笑うと、箱を倒して、アスランに渡されたパッケージを、ひと連なり引き出した。
ぺりぺりと切り取ったのは、二つ分。
「俺はいらないだろう・・・」
「いるさ」
手を伸ばしてくるアスランをかわし、とりあえずひとつ、自分で付ける。
そうして、もうひとつを持ったまま、しどけなく投げ出されたままだった脚を掴んで、引き寄せ、抱え上げ。
「前からだ、感謝しろ」
「誰が！」
それでも、素直に開かれた脚の間に、体を割り込ませて。
その奥に、自身を突き立てる。
「あっ・・・ふ、こっちのが、まだ、マシ・・・・」
「貴様はどっちでも締め過ぎだ！」
「お前は、どっちも下手、だな・・・・」
「フン、そんな口を利いていられるのも今のうちだ」
妙に機嫌の良いイザークの声に、何か不穏なものを感じたアスランは、イザークの方を掴んでひきはがそうとするけれど。
「いっ・・・ぁ・・・・・」
体の奥深くに、彼を迎え入れたままなのだ。それは、無理というもので。
息を上げながら、イザークがその唇と指先でもって、二つ目のパッケージを開けるのを、見上げることとなった。
そうしてイザークは、丸まっていたそれをつるりと伸ばし、先を咥えて、引っ張って。
「何をする！」
「使えと言ったのは貴様だろう」
それを、アスランのものの根元に巻きつけようと、器用な指を閃かせた。
「使い方が違・・・っ、このっ！あっ、やっ！」
「フン、黙れ」
アスランは、腰をよじって嫌がるが、そんな動きもイザークの手の内。軽く突かれて喘いだ隙に、それは、きゅっと括られて。
「や、取れっ、取・・・ああんっ！」
そのまま実に楽しそうなイザークに、先ほどとは打って変わった緩慢な動きで追い上げられて、アスランは悲鳴じみた声を上げてのたうった。
「やぁっ、くっ・・・あっ、あは・・・っ、ばっ、このっ、やっ、取れ・・・っ！」
そうして、シーツを掴み締めていた手を離し、自分のものに伸ばすのだけれど。
「甘いわ、馬鹿者」
イザークの指に阻まれて、しかも、イこうにもイけないそれを、ぐいぐいとしごき立てられた。
「ぅわっ、くっ、やめっ！ひぅ・・・っ」
「くっ・・・だから、締める、なっ！」
再び、イザークが達するのがわかって、アスランもイけないままに、身を引きつらせる。
「やっ、あっ、ああっ・・・！」
仰け反った喉の滑らかさ。
喘ぎに震える赤い唇。
苦痛と快楽に染まった、その表情。
イザークを虜にする、アスラン・ザラ。
「後ろだけイったか？」
「・・・はやい、へたくそ、へんたい、さどやろう・・・・・・」
「なら、貴様はなんだ？マゾか、淫乱か？」
「うるさ・・・さっさと、とれっ！」
「付けろと言ったのは貴様だ」
「この、ばかっ！」
可愛くない台詞を吐き続ける、可愛らしい唇を、噛みつくようにふさいで。
そのまま、逆に噛み付かれ、翠玉の瞳に睨まれて。
「まったく、生意気な・・・」
それでもイザークは、ニヤリと笑う。
そうして、深く折り曲げた体に体重をかけて、逃げられないように・・・うっかり報復に遭わないように固定すると、いったん抜き出したそれから、まとわり付くものを剥ぎ取った。
「欲しいか？」
「とれっ！」
ああ本当に、可愛くない。
「取っただろう」
「違、あっ！」
そのまま、深く穿ち込み、アスランはその翠の瞳からも、縛られたそれからも、はたはたと涙をこぼして。
このベッドの中での勝負では、イザークに、軍配が上がったのだった。
そうして。
防音完璧なはずの壁の向こうでは、人以上の聴覚を持つ子わんこたちが、可愛い耳を、ひくひくさせて。
「ご主人様たち、うるさい」
「そうだな」
「静かにしろって言ってくる！」
「やめておけ」
「なんでー」
「夫婦喧嘩は犬も食わない、と言うことわざを知っているか？シン」
フーフーけんかって、フーフーいい合ってる、あのにゃんこの喧嘩のこと？
「アスランさんたち、にゃんこなの！？」
子わんこ、びっくりー！
「・・・・」
レイ、ため息ひとつ。
まったく、あの人たちも、喧嘩中ならしなきゃいいのに。
でも、隣の部屋で、また、高い声が上がって、それから。
「静かになったな」
「うん。・・・ふわぁ」
「寝よう」
「んー、アスランさーん・・・」
「一人で寝ろ、一人で」
レイにベッドに放り込まれ、子わんこシンは夢の中。
隣の部屋では、ご主人様たちが。
やっぱり、やさしい夢の中。
この後、シンはご主人様たちの寝室で、いろんな宝物をゲーット！してしまうのだけれど。
それはまた、後のお話。