子わんこと笹飾り
その日、旦那様が持って帰ってきたのは、大きな大きな竹でした。
「どこから持ってきたんだよそれ」
「軍本部の屋上緑化に使っているものだ」
「ああ、管理部が増えすぎて困ってるって・・・」
「どこで聞いて来るんだそういうことを」
「ラクス」
ああそうですか。
なんだかどうでも良くなった旦那様は、とりあえず、玄関ホールにそれを放り出しました。
「おい、小僧」
「はーい」
後ろからちょこちょこと付いて来たシンとレイは、両手に色紙やら紙テープやらを抱えています。
「アスランさん手伝ってー」
「・・・何を？」
「ささざなり！」
「笹飾り、です」
「参考資料はこれだ。貴様は器用だから、見本さえあればできるだろう」
ばーんと見せられた「見本」写真は、イザークが持って帰った竹を、シンたちが持っている色紙で飾ったようなもの。
「クリスマスツリーか？」
「違うわ馬鹿者」
「違うよ、さざざぁりだよ！」
「シン、それも違う」
シンは、ちょっとお口がまわらないみたいです。
「東アジアの古い風習でな。五色の飾りは五行思想に基づき・・・」
「とりあえず、飾ればいいのか？」
「うんっ！」
「ハサミとノリを持ってきます」
「ああ。頼む」
「人の話を聞け貴様ら！」
シンは、子わんこなのでちょっとぶきっちょです。
ハサミを使っても、紙が真っ直ぐ切れません。
でも大丈夫。シンが切った紙を、ご主人様が糸を通して飾ってくれるからｖ
レイは、丁寧に紙で鎖を編んでいます。
旦那様は、墨を磨っています。
「それなにー？」
紙切りに飽きたシンは、とことこと旦那様に寄って行きました。
「寄るな、小僧。・・・ああそうだな、貴様から書け」
寄るなって言っておきなかが、旦那様はちょいちょいとシンに手招きします。
「なになに？」
旦那様は、磨った墨の中に筆を突っ込んで、ちょこちょこと先をそろえてから、シンに持たせてくれました。
それから、用意してあったのに、シンに切らせてくれなかった、細長い紙を指差しました。
「短冊に願い事を書くんだ。ひとつだけだぞ」
ねがいごと？
シンには、願い事なんかいっぱいあります。
アイスが食べたいです。
秋田犬になりたいです。
お夕飯はハンバーグがいいです。
オムライスでもいいです。
でも。
「ひとつだけ？」
「ああ、ひとつだけだ」
シンは、じっと考えました。
じっと、じーっっと考えました。
考えてたら、筆からぽたりと墨が落ちてしまいました。
シンの、白いアンヨの先に、落ちてしまいました。
「わーっ！」
「気をつけろよ。ほら」
シンはびっくりしてしまいましたが、ご主人様が、ごしごしとタオルで拭いてくれました。
「落ちないな。風呂入るか」
「後でいいだろう」
「でも、落ちなくなったら嫌だろう」
「イヤだよう！」
シンが騒いだので、ご主人様は、そのままシンを抱っこして、お風呂に入れてくれました。
ご主人様とお風呂。
あわあわのお風呂。
ご主人様に、よーく洗ってもらったら、シンのアンヨは、すぐにきれいになりました。
「良かったな」
「うん！」
ご主人様に抱っこしてもらって、きれいになったアンヨを撫でてもらって、シンはご機嫌です。
ご機嫌なので、ほっぺにちゅーしてあげると、ご主人様も、シンにちゅーしてくれました。
シアワセですｖ
お風呂から上がると、シンが切った紙を飾った笹飾りは、旦那様がホールの柱にくくりつけているところでした。
でっかくってキレイですｖ
「来たか」
そう言うと、旦那様はハシゴから降りて、黒いサインペンをシンに渡しました。
筆は、危ないからやめたみたいです。
シンは、きれいになったアンヨを見てから、レイがくれた短冊に、願い事を書きました。
『アスランさんとずといしよ』
って書きました。
旦那様はそれを持って、ハシゴを登ろうとしました。
「ちょっとまってー！」
でも、途中で気がついて、シンはハシゴの下で騒ぎました。
「何だ」
「まだ書くー」
「願い事はひとつだぞ」
「ひとつだもん！」
シンは、サインペンで、「ずといつし」の前に、「みんなと」って書きました。
それから、うーんっって考えて、「い」と「し」の間に、「つ」って足しました。
『アスランさんとみんなとずといつしよ』
これで完璧です！
でも、旦那様はフンと言って、シンからサインペンを取り上げると、何かを書き足しました。
『アスランさんとみんなとずっといつしよ』
「詰めが甘いわ、馬鹿者」
まだちょっと間違っちゃってたみたいです。
でも、シンの願い事は、竹のてっぺんにくくりつけてもらえました。
いっちばん高いから、いっちばんに叶うでしょうｖ
「さて、と。夕食にするか」
「夕ごはん何―？」
「ハンバーグだ」
「わーい！」
「ああ、デザートにアイスを買ってあるんだ」
「アイスーｖ」
「元隊長・・・」
「貴様、あれほど言っただろう！」
アスランさんとみんなと、ずっと一緒。
ずっと、ずーっと一緒なのですｖ