運命の出会いなんだよ！
XX Years later 〜 ちょっと、だいぶ未来のお話 〜
アスワンはコーディネイタードッグです。
ぴんと立った黒い耳、おんなじ色の、くるんとしたしっぽ。
柴犬の、コーディネイタードッグです。
アスワンは、軍の施設で生まれました。
もともと、軍や民間の宙港で、麻薬や危険物を嗅ぎ分ける仕事をするために生まれました。
民間のお客さんを脅かさないように、あんまり大きくないわんこ。
でも、悪い人を捕まえられるように、そんなに小さくないわんこ。
もともと猟犬だから、お利口で勇敢。そんな柴犬は、宙港のお仕事にぴったりです。
でも、アスワンは、一緒に育った他の子より、ちょっと体が小さかったのです。
受精卵を作る前のチェックミスで、ご先祖に小さい犬がいて、その遺伝子を受け継いでいることが、わからなかったのです。
宙港では、入国審査のカウンターに届かなければ、お仕事が出来ません。
アスワンは、どうしても届くようになれなかったので、他のお仕事をすることになりました。
アスワンは、一緒に育ったどの子よりも、正確に悪い物を見つけることが出来たのに。
アスワンは、一緒に育ったどの子よりも、早く走ることが出来たのに。
アスワンは、一緒に育ったどの子よりも、銃もナイフも、上手に使うことが出来たのに。
でも、アスワンは頭も良かったので、配属されるはずだった基地の情報部分室で、お仕事をすることになりました。
主に、情報処理の仕事をしています。
一緒に育った子たちと一緒のお仕事をすることが出来ないのは寂しいけれど、それでも今のお仕事はやりがいがあります。
だからアスワンは気にしません。
今日もせっせとお仕事です。
ちょっとトラブルがありましたが、説明に行ったらわかってもらえて。
帰りがけには撫でてもらって、お菓子ももらいました。
アスワンはちょっと小さいので、いつまでも子犬扱いです。
悔しいけれど、撫でてもらうのは気持ちがいいし、お菓子は仕事場のみんなと分けるから、いいのです。
端末と書類とお菓子を持って、アスワンはてこてこと、基地のロビーを歩きます。
アスワンは、小さいけれども綺麗なわんこ。
みんな振り返って「可愛いね」、「綺麗だね」って言ってます。
アスワンは、まったく気が付いていませんけどね。
今日は人が多いな。そういえば軍事総監のブリュンヒルデが入港したんだっけ。お昼、食堂混んじゃうかな。帰りがけに、サンドイッチか何か買って行こうかなぁ。
そんなことを考えながら歩いていたので、後ろからだーっと走ってきたモノに、気が付くのが遅れてしまいました。
失態です。
「アスランさーーーーん！！」
「うわっ」
それでも、アスワン実はアカデミートップです。
軍服だって赤いんです。
慌てて避けて、抱きつき損ねてひっくり返りそうになっている、ソレをぽふんと抱き止めました。
「大丈夫？」
「わーーーん！」
飛び付いて来たのは、アスワンよりも小さなコーディネイタードッグでした。
まだ子犬のようです。
パーカーの下から覗いている毛皮に、この子は犬の割合が多い、パートナー用のコーディネイタードッグだってわかります。
「どこの子？」
すとんとしゃがみ込むと、子わんこの真っ赤な目と、アスワンの翠の目が合いました。
子わんこはキョトンとしてから、涙がいっぱいに浮かんだ赤い目を瞬かせて、
「アスランさん・・・？」
と、呟きました。
「残念ながら、人違いだよ」
なんだか似た名前だけどね。
「うーっ」
子わんこ、涙ぼろぼろ。
「迷子？」
どう見ても。
「違うもん！」
迷子だよなぁ。
「お家はどこ？」
「まてぃうす！」
遠いなぁ。
「ご主人様は誰？」
「アスランさん！」
これは聞いたか。
「アスランさんはどこにいるのかな」
「お家！」
埒があかない。
「じゃあ、ここへは誰と来たの？」
「ジュール隊長―！」
・・・・ああ、国防総監殿のお家の子ですか。
よくよく見れば、ぴんと立った耳、くるんと丸まったしっぽ。
それはアスワンによく似ていて。
この子、柴犬の子なんだろうな。
そう思うと、親近感が湧いてきました。
「国防総監なら、今は上の会議室にいると思うけど。上の行き方、わかるかい？」
「うーっ」
わかんないんだね。
しょうがない。
アスワンは、目の前でうーうー言っている子わんこに、手を差し出しました。
「じゃあ、おいで。連れて行ってやるから」
うーうー言ってた子わんこは、ぱっと顔を上げて。
「うん！アスランさん！！」
「違うよ、俺はアスワンっていうんだ」
「俺はシンだよ！」
「お菓子食べるか？」
「うん！」
てこてこと、手を繋いで歩く小型の柴と、豆柴の子。
実はこれ、運命の出会いっていうんだけど。
でもそれは、ただただ微笑ましい光景でした。