迷子じゃないもん！
XX Years later 〜 ちょっと、だいぶ未来のお話 ２〜
シンは、子わんこです。
いえいえ、ちょっと大きくなりました。
・・・でもまだ、やっぱりちょっと子わんこです。
今日は、お仕事でフェブラリウススリーの基地に来ました。
お仕事だけど、お仕事は旦那様とかディアッカで、シンとレイはすることがありません。
なので、ちょっとお休みを頂きまして。
知らない基地を探検ですーｖ
レイは、行くところがあるって言って一人で行っちゃったけど、シンだって大きくなったんです。
一人で探検できますよ。
低いとこにボタンがあるから、エレベーターだって乗れます。
エスカレーターは、逆に走っちゃいけません。ころんってなっちゃうからね。もうしません。
動く歩道は、手すりでお外が見えなくなっちゃうから、あんまり好きじゃありません。
お腹空いたら、ちょっと買い食い。でもここの肉まんより、行きつけのお店の方が美味しいな。
さて、と。
肉まんを食べ終わったシンは、きょときょととあたりを見回しました。
知らない基地です。
当たり前です。だってここ初めて来るもん。
知らない場所です。
知らない人がいっぱいです。
知らないんです・・・
急に、シンの胸がきゅうっとしました。
あっちを見てもこっちを見ても、どこも初めて見る景色です。
知らない場所知らない人知らない景色。
俺、どっから来たんだっけ？
隊長、どこにいるんだっけ？
シンのお鼻が、勝手にぴすぴす鳴りはじめました。
泣いちゃう前のサインです。
でも。
でもでも。
知らない人の間に、知ってる色を見つけました。
シンの大好きな、キレイな藍色。
慌てて立ち上がると、シンはその後を追っかけました。
置いていかれちゃったら大変です。
「アスランさーーーーん！！」
「うわっ」
アスランさん、ひょいって、シンを避けちゃって。
でも、ぽふんと抱き止めてくれました。
「大丈夫？」
「わーーーん！」
よかったようって、ぎゅってして、でもあれ？って子わんこ思いました。
あれ？気持ちいいのは一緒だけど、あれれ？？
アスランさんって、こんなにちいちゃかったっけ？
なんだか、匂いもちょっと違うような・・・
「どこの子？」
すとんとしゃがみ込んで、シンをじーっと見た翠の目は、アスランさんと一緒でした。
藍色の髪の毛も、きれいなお顔も、アスランさんでした。
でもでも、アスランさんより、ずうっとちいちゃいんです。
髪の毛の上に、黒いお耳があるんです。
違う匂いは毛皮の匂い。
それから、少しづつ、いろいろ違う匂い。
シンは、びっくりしてしまいました。
「アスランさん・・・？」
「残念ながら、人違いだよ」
ご主人様にそっくりな人は、そう言って困ったみたいに笑いました。
「うーっ」
子わんこ、涙ぼろぼろ。
せっかくご主人様に会えたと思ったのにー！
「迷子？」
「違うもん！」
迷子なんて、そんなかっこ悪いのなんないもん！
「お家はどこ？」
「まてぃうす！」
ちゃんと、住所まで言えるよ！
「ご主人様は誰？」
「アスランさん！」
決まってるじゃん！
「アスランさんはどこにいるのかな」
「お家！」
お仕事の時は一緒じゃないんだもん！
「じゃあ、ここへは誰と来たの？」
「ジュール隊長―！」
うぐうぐの子わんこを、頭のてっぺんから後足の先まで、じーっくりと見ていたその人は、へこんと首を傾げました。
そんな仕草も、ご主人様そっくりです。
「国防総監なら、今は上の会議室にいると思うけど。上の行き方、わかるかい？」
「うーっ」
わかったら、自分で帰るもん！
でもそんなこと、かっこ悪くて言えないもん！！
うーうーになっちゃった子わんこに、その人はすっと手を差し出しました。
ご主人様より、ちいちゃな手。
でもでも、やさしそうな、キレイな手。
「じゃあ、おいで。連れて行ってやるから」
「うん！アスランさん！！」
シンは、ぎゅうってその手を握りました。
「違うよ、俺はアスワンっていうんだ」
アスワンさんの手は、ご主人様よりもちいちゃくて、でも、同じくらいあったかくて気持ちよかったので、シンはこの人大好きだなって思いました。
「俺はシンだよ！」
「お菓子食べるか？」
「うん！」
アスワンさんは、シンにお菓子をくれました。
バタークリームがはさまったビスケット。
ミルクチョコにナッツチョコ。おーっきい飴玉。
みーんな、シンは大好きです。
旦那様を待ってたお部屋まで連れて行ってもらって、まだ、繋いでもらった手を離したくないなぁと思ってたら、アスワンさんは、旦那様の会議が終わるのを、一緒に待っててくれました。
「ねぇねぇ。ケータイ教えて。イイミセ知ってるんだよ。行こうか」
「……は？」
「…じゃあね！イマヒマ？俺とツキアワナイ？」
「……えーっと」
「お友達作る時、大人はそう言うんだよ！」
シンは、アスワンさんとお友達になりたかったので、いろいろお誘いしましたら、携帯の番号を教えてくれました。
お家の通信アドレスもですｖ
シンもちゃんと教えましたよ。
お電話してねってお願いしたら、うんって言って、笑ってくれました。
「じゃあね」
って言って、帰って行ったアスワンさん。
次、いつ会えるのかな。
会いたいな。
ぱたぱた揺れてたあの人の、黒いしっぽを思い浮かべて、シンのしっぽもぱたぱたしました。
「えへへ」
笑った子わんこは、元気に会議の終わった旦那様を追っかけて行きました。