ひまわりのお菓子
シンは、子わんこです。
今日がお誕生日の子わんこです。
今朝は、いい匂いで目が覚めました。
小麦粉と、バターと卵。混ざって焼ける、いい匂い。
それから甘ーいクリームと、それからなんだろ、香ばしくって美味しそう。
今日はシンの誕生日。だから、旦那様がケーキ作ってくれてるんだ！
シンは、ぴょん、と飛び起きて、たたーっとダイニングキッチンに向かいました。
そうして、ドアを開けて。
シン、びっくりー！
だってだって、ご主人様が、旦那様と一緒にキッチンで何事かやってるんです！
「だから何度言えばわかる！貴様ボールを壊す気か！」
「ボールより先に泡だて器がいかれそうだな・・・」
「わかってるなら力を緩めんか！」
「だって力入れないと泡立たないだろう」
「加減を知れ、加減を・・・溢すな！」
「いいよもうお前、自分の方やってろよ」
「いいわけあるか！」
「あ」
がっちゃん
ほっぺたに生クリームを飛ばしたご主人様の手元で、なんだか針金が跳ねてます。
泡だて器、壊しちゃったみたいです。
「アスランさ〜ん、何やってるのー？」
聞いてるシンも、恐る恐るです。
「ああシン、おはよう」
ご主人様、にっこり笑って言いました。
「誕生日おめでとう。イザークがケーキ焼いてくれるってさ」
「貴様が言い出したんだろうが、諦めるな！」
その後ろ頭を、旦那様がばっこんと叩きます。
ボールと壊れた泡だて器で、両手がふさがったご主人様は、げしげしと旦那様を蹴っています。
手をちょっとでも動かすと生クリームがこぼれるのに、足を旦那様の頭まで上げても、上手にバランスとってこぼしません。
さすがです。
じゃなくて、えーと。
「何やってるのー？」
いい匂いなんだけど、旦那様のケーキ楽しみだけど、なんか怖いー
「こいつが、お前に菓子を作りたいなどと言い出してな」
旦那様、ご主人様の足をかいくぐって、壊れた泡だて器を取り上げました。片手が空いたご主人様は、その手で旦那様をばっちーん！
「貴様それが人に物を教わる態度か！？」
「それとこれとは別だ！」
またまた喧嘩のご主人様の、抱えたままのボールで生クリームが揺れます。
それを、いつの間にか現れたレイが、そっと受け取ってカウンターに乗せました。
チン、と嬉しい音がして、香ばしい匂いにお鼻がひくひく。
「・・・焦げ臭くないな。生かな」
「だから諦めるな！俺が教えたんだ、できるはずだ！」
シンは立ち入り禁止の、キッチンの奥のおっきなオーブン。
それを競うように開けて、旦那様は取り出したものを、お皿に乗っけて二つに割りました。
「できたじゃないか」
「わぁ」
出てきたものは、美味しそうなスコーン。
ほっかほかの湯気が立った、金色のお菓子。
「俺、味見する！」
シンはぱたぱたと手足と尻尾を振って立候補しましたが、旦那様がまずはくんと食べてしまいました。
だって、味見っていうか、毒見なんですもの。
「ああ、食えるな」
でも、そう言った旦那様が、にっこりしたから。
「ほんとか？」
ご主人様も、にっこり。
「俺も俺もー！」
シンも、にっこにこ。
「熱いからな、気をつけろ」
「クリームつけろよ」
「そっちも毒見させろ・・・貴様、砂糖を足しただろう！」
ご主人様の、初めてのお菓子。
砂糖でじゃりじゃりする生クリームと、それから・・・・
「美味しいー！あれ？」
スコーンには、ちいちゃいつぶつぶが入ってます。
生クリームの砂糖じゃないんです。ぷちぷちほっこり。美味しいです。
「コレ何ー？」
ちいちゃいつぶは、ちいちゃくて、シンの肉球じゃ掴めません。
それを、レイが横から摘んでくれました。
「ひまわりの種だな」
「ひまわり！」
ステニャに持っていってあげるはずだったお庭のひまわりは、みんなお日さまに届いて、みんな焦げちゃって。
みんな、種だけになっちゃってます。
「全部蒔いたら多すぎるだろ？だから半分炒ったんだ」
「自分でやったように言うな」
「でも皮剥くのは手伝ったぞ」
「本当に貴様、器用なのにな・・・・」
旦那様、ため息。
ひまわりの種は、また次の夏にひまわりになるの。
でもでも、美味しいお菓子にもなるの。
シン、びっくりー！
「これで朝食にしよう。レイ、クロテッドクリームとジャムを出してくれ」
「この生クリーム、皿に移すか？」
「そんなじゃりじゃりしたもの食うな！」
今日の朝ご飯は、ご主人様が作ってくれた初めてのスコーン。
ひまわりの種の、美味しいお菓子。
夏の終わりに生まれたシンに、夏の終わりの、美味しい美味しいプレゼント。
「貴様らもう、外に出ていろ。何の準備もできんわ」
「ケーキの準備？」
「ごちそうもだってさ」
「ごちそう！」
「・・・・隊長」
「言うな、レイ。誕生日くらいは大目に見てやれ」
「お前が作りたいだけだろ」
「うるさいわ！」
お誕生日は、朝から幸せですｖ