その頃、ご主人様たちは・・・？
嬉しそうに縁日に出て行くシンを見送りながら、イザークはアスランを部屋の奥へ引きずって行った。
「だって、俺はザフトであいつに会ったんだぞ。その後はずっとお前も一緒だったじゃないか！」
「そのザフトの時点で、何故教えておかん！」
「軍じゃ支給品で全部済んだだろ。買い物なんかしなかったじゃないか！」
「そんなのは貴様だけだ！」
どっさり。
ついさっきまで昼寝をしていたので、部屋には布団が敷きっ放しだった。
その上に転がされたアスランは、恨めしげにイザークを見上げる。
「だから、そんなこと知ってると思ってたんだよ・・・」
「まあ、それなら今回は勘弁してやる。後でちゃんと教えておけ」
「レイが今教えてくれてるんじゃないのか？」
「レイに頼るな！」
怒鳴った口で、イザークはそのまま何かを言おうとしたアスランのそれをふさいだ。
「んっ・・・ん」
ぐだぐだといいながらも、己の非を認めたのか、それともただ単にキスが気持ちよかったのか。
アスランはそれを大人しく受け入れた。
「俺は、教えるのは向いてないんだよ」
離れた唇が、小さく呟いて、それから軽く突き出され、追加のキスをねだる。
それに応えてやってから、イザークは「そんなこと知っとるわ」と囁いた。
「キラの宿題を見た時だって・・・」
「その名前を出すな」
ムカついたイザークから、また、キス。
「名前っていえば・・・シン、俺の名前、大声で言ったりしないかな」
「するかもな」
フラガ一佐、すまん。
イザークは、心の中でちょっとだけ頭を下げた。
言うだろう、あのチビは。
自分の、大好きな「ご主人様」の名前を。
その名が。「パトリック・ザラの息子」の名が、地球でどんな意味を持つかも知らずに。
「まあ、フラガ一佐と、それにレイがいるから大丈夫だろう」
「お前もレイに頼ってるじゃないか・・・」
アスランの長い腕を、浴衣から抜こうとするイザークに合わせて肘を曲げながら、尖らせた唇に、また、キス。
「ラミアス艦長もいるしな」
「無視するな」
珍しく素早く突っ込んだアスランが、不意にイザークを真っ直ぐに見上げた。
「お前だけでも行ってくれば良かったのに。【エンニチ】とか、ああいうの好きだろう」
民俗学を趣味とするイザークは、今は極東地域発祥の旧い文化に凝っている。
神社、縁日、夜店・・・心惹かれるキーワードだろうに。
「フン、俺だって顔が売れてきたんだ。危険を冒すより、お前とこうしていた方がいい」
あらわになった白い胸に、キス。そのまま右の赤い先端を含むと、アスランの背がふるりと震えた。
「それに、そんなものとうに行っている。あの神社の祭神は、ウガヤフキアエズノミコト。ウガヤフキアエズというのはな、産屋が・・・・」
「ああ、もういい。黙ってしろ」
余計なことに口を動かすイザークの頭を、アスランはばふりと自分の胸の上へ押し付けた。
「いい身分だな・・・」
呆れたようなイザークの声が、なんだか愉快だ。
「早くしないと、シンたちが帰ってくるぞ」
「ほう、早くしていいんだな？」
アスランの失言に、イザークはフン、と笑う。
彼の「奥様」はしまったという顔をして、慌てて逃げようとしたが、既にしっかりと組み敷かれているのだ、そうもいかない。
膝を使って脚を広げられ、蹴ろうと浮いた腰を逆手に取られ。
する、とソコに触れられれば、アスランは流石に悲鳴を上げた。
「っ、こら、そんな急に！」
「痛くされたくなきゃ、貴様こそ黙っていろ」
そういいながらも、イザークはきつく曲げた第二関節の背で、ぐりぐりとソコを刺激するに留めていた。
もとより、アスランを気持ちよくさせる気しかない。
「んっ・・・ば、か。そんなんじゃ・・・・・」
準備にもならない、と言おうとするのだけれど。
「気持ちいいんだろうが」
笑いを含んだイザークの声に、アスランは悔しく思いながらも頷いた。
でも。
「だ・・・から、そんなんじゃ・・・・」
「足りないか？」
「あ、ん・・・・・」
耳朶を舐められ、低い声で囁かれて。
アスランは首を振ってまとわりつく快感を振り払う。
とたん、イザークの指がソコを離れ、甘いため息をつくアスランの唇に触れた。
その意図を察して、アスランは緩く唇を開き、舌を差し出して長い指を招き入れてやる。
「ん・・・・」
その指は、細いけれども少し節が強くて。ああ、戦う者の指だとアスランは思った。
大好きな、イザークの指だ。
しゃぶりつくと、独特の硬い舌触り。アスランは特に、爪の先を舌先でなぞるのが好きだった。
何度も何度もそうしていれば、ご褒美のように感じ易い上顎の、しかも一番気持ちのいいところを、その爪先が愛撫してくれる。
「・・・こら。口だけで気持ちよくなるな」
「ん・・・るさ・・・・い」
ずるりと引き抜かれた指を、名残惜しく舌先で送りながら、アスランは小さく呻く。
せっかく、気持ちよかったのに。
しかし、その指はアスランをもっと気持ちよくしてくれることを知っているから、指先を軽く噛んだだけで、大人しくそれを離した。
「淫乱」
「誰のせいだ」
憎まれ口は、そのまま、睦言。
しどけなく濡れた唇に、いたわりのキスをして。イザークはアスランの唾液でたっぷりと濡れたそれを、先ほどまで弄っていた彼の後ろへ持っていく。
「ぁ・・・・ん・・・・・」
既に軽く刺激されていたソコは、緩く綻びかけていて。
濡れた指を、難なく飲み込んでいく。
「確か・・・急ぐんだったな」
「お前、まだ・・・・」
過ぎたと思った話を蒸し返され、含んだばかりの指を勢い良く引き出され。
「あっ・・・ぅ」
それをまた、奥深くまでくわえ込まされて。
アスランは、喉を震わせて喘いだ。
イザークに慣らされた体は、アスランがどう思っていようとイザークに従順だ。
彼が望むように花開き、彼が望むように・・・気持ちよくなる。
「ん・・・あん・・・・っ、ふ・・・・・」
アスランが腰をうねらせる。
それに逆らうように、イザークが指をうごめかす。
「暴れるな、馬鹿者」
「暴れてな・・・っ、ぅんっ・・・・」
自分でも動いてしまうから、ソコはたちまち綻んで、イザークの指も、見る間に増えて。
「んーーーっ」
「こらキサマ、指だけでイく気じゃないだろうな」
アスランの体がふるふると震えだしたことに気がついて、イザークは慌てて指を引き抜いた。
その刺激にも身を震わせて、それでもアスランは無理やりに喘ぎでない言葉を吐き出す。
「だ・・・・っ、おま・・・・」
「こらえろ。すぐにくれてやる」
こんな時、やさしくキスをくれるのは、ちょっと卑怯だとアスランは思う。
「早く・・・・」
思わずこちらも素直になって、促されるままに、イザークの望む言葉を言ってしまうから。
「あっ、ああっ・・・・」
高められた体は、入れてもらうだけで極めそうになったけれど、イザークはアスランの前を押さえ込み、ゆっくりゆっくり侵入して。
そうやって、アスランの快楽を、完全にコントロールしている。
アスランだって、こんなに早くイきたくはない。だから、イザークの背に縋り、必死に波を我慢した。
これをこらえてしまえば、お互いもう少し楽しめる。
それを知っているのは、体の馴染んだ「夫婦」ならでは。
アスランとイザークならではこそ。
「イ、ザ・・・・」
「イケルか？」
「ん・・・・」
また、やさしいキス。アスランが素直なら、イザークだって素直にやさしい。
ケンカばかりの二人でも、こんなやさしいセックスをすることだって、たまにはある。
「ん、ん、あ、あん・・・あっ」
アスランが落ち着くのを見計らい、その内側を突き上げ始めたイザークは、緩く目を細めながら、下肢から湧き上がる快感と、感じ入るアスランの肢体を楽しんだ。
イザークの奥方は、どこもかしこもキレイで、そうして見惚れるほどの艶がある。
感じ入って乱れる様も、どうしようもなく美しい。
「あ、やっ、イ、・・・ザークっ」
きゅう、と両膝で腰を締め付けられ、内側では、熱い肉襞に侵入った己を締め付けられ。
イザークは、今度こそアスランを極めさせてやるために、触れてと強請るように立ち上がったものに指を掛け、中を突く動きを激しくした。
「あ、あっ・・・・」
激しく体を身悶えさせて、快感を極める奥方の中に、旦那様も感じた証をたっぷりとそそいで。
そうしてイザークは愛を囁く。
言葉ではなく、口付けで。
それに応えたアスランは、すぐさま低く呟いた。
「時間・・・」
「まだ、大丈夫だ」
フラガ夫妻が連れて行ったのは、他の誰でもない、子わんこシンだ。
はしゃぎわまるあの子を連れて、そうそう早く帰ってこられるわけがない。
ならば、と、アスランはイザークの背を引き寄せて。
もちろん、イザークに否やはなく。
ジュール夫妻は、しっぽりと、二人きりの時間を堪能したのだった。
二度目は、もっとゆったりとしたセックスだった。
その後、体を洗うために入った風呂で、もう一回。
おかげですっかりのぼぜたアスランは、イザークの膝枕で、敷き直した布団の上に転がって。
上機嫌のイザークに扇いでもらいながら、こんな日もいいな、とぼんやり思っていると。
「ただいまー！」
子わんこ達が帰ってきて、アスランは慌ててイザークの膝から起き上がった。
あたたかい膝は少し惜しいけれど、もちろん、そんなことは口には出さない。
「まだ顔が赤いぞ」
「のぼせたって言うさ。嘘じゃないだろ。・・・・・お帰り、シン。・・・ありがとうございました、ムウさん、マリューさん」
「アスランさん、お土産！」
宿に戻るなり、子わんこが差し出して見せたのは、小さなサイズのりんご飴だった。
それを笑って受け取りながら、アスランは「なんていうんだ？」と聞いている。
そんな様子を横目に見ながら、ムウ・ラ・フラガは子わんこの飼い主の・・・そのまた飼い主に、土産の包みを掲げて見せた。
「あんたはこっち。コレが意外とね、日本酒に合うんだぜ」
「世話をかけたな」
「いやいや・・・時間は丁度良かったか？」
「ああ、助かった」
くつりくつりと笑い合う。こんな話が出来る相手は有難い。
「しっかし、坊主本当に金使ったことなかったんだな」
「レイにも世話をかける」
「いや、アイツも坊主の面倒を見てるくらいが丁度いいだろ」
「そう言ってもらえると有難い。なにせうちのがアレだからな」
「その辺に惚れたんだろう？」
「違う」
「またまた〜ｖ」
その辺もどの辺もない。
アスラン・ザラ。その存在すべてに惚れたのだ。
そうでもなければ、あんな厄介なものの「夫」なぞやっていられるか。
子わんこシンとアスランは、大騒ぎをしながら風呂に行き、やがて出てきて寝に行った。
イザークはもう堪能した後だ。一晩くらいは貸してやる。
アカツキの姿が印刷された、綿菓子の袋を囲んで、なんだかんだと言っているフラガ一家を眺めながら、イザークはグラスを傾ける。
少し甘い日本酒の味は、アスランの肌の味に似ていた。