降参しよー、わん！
たとえば。
美味しい料理が作れること。
人を使うのが上手いこと。
いつでも、まっすぐ前を向いて走って行けること。
いつだって、気持ちで、負けないこと。
「何だその手はーーー！！」
「何って、チェックメイト」
こつこつと、摘み上げた黒のクィーンで白のキングをつつくと、アスランはそれを放り出して、すぐにチェス盤を押さえ込んだ。
盤をひっくり返そうとしていたイザークと、そのまま力比べになる。
「キ・・・サマ・・・・・」
「負けたからって、いちいち、ひっくり返すなよっ！！」
「うるさいわーーー！！」
チェス盤を離したイザークは、その勢いのまま、かろうじて立っていた駒をなぎ倒して。
「ばら撒くなよ！シンが口に入れたらどうするんだ！」
「そのくらい躾けとけ！」
とたん、始まった喧嘩に、子わんこたちは困り顔。
「まったく・・・・」
ため息をついたレイは、こつこつと、チェスの駒を拾っていく。
黒は黒檀、白は象牙。
アンティークとしての価値も十分なそれを、容赦なくブチ撒くんだから、この人たちは。
「おやつの時間なのに、な！」
シンだって困っちゃうよ。
「今日はすぐ済むだろう」
「なんで？」
「元隊長の調子がいいらしい」
「アスランさん？」
へこん、と、大きな頭を傾げさせたシンの後ろで。
イザークが見事に吹っ飛んで、もの凄い音をたてて、壁に激突した。
たとえば。
絶妙な力加減を知っている、大きくて器用な手。
欲しい時に、欲しいものをくれる細やかさ。
どんな時だって。鈍いアスランにだってわかる、愛情表現。
・・・・・ベッドで、凄く、上手いこと。
そんな、ところが。
ずるり、と、身の内を穿つ楔を体いっぱいに感じて、アスランは掴んだシーツをきつく引き寄せた。
「っあ・・・・・っ！」
腰を抱く男の、大きな手。熱い腕。
それに、いっそう引き寄せられて。
奥まで、含まされて。
「ば・・・・っか、いきなり・・・・っ」
「十分、準備、してやっただろうがっ！」
イザークの息も上がっている。
声は、欲情に上ずって。
こんなにも感じてるのは、自分だけじゃない。
その思いが、アスランの快楽を深くした。
「あ・・・っ、あ、あ・・・・・っ！」
一息に抜き出され、また、奥の奥まで突き込まれ。
アスランは、たまらず握り締めていたシーツを離した。
そうしてしがみ付いた、イザークの背中。
しなやかな筋肉が、腕の中でしなって。
そうして、体の中では、熱いものがずくずくと、アスランの襞を擦りたてる。
中も外も、イザークでいっぱい。
なのに、更に。
ぐっと深くされながら、急に角度を変えられた。
「ひぅ・・・ン！」
尖った顎から汗が滴り落ちるのが目の前に見えて、アスランは反射で目を閉じた。
腰を支えていた手が片方、汗を含んで重くなった髪の間に差し込まれる。
耳元に吐息。背筋を振るわせたとたん、熱く熱く、名前を呼ばれて。
「アスラン・・・・」
項に、唇の感触を感じたのと、その声に感じて達してしまったのと、一体どちらが早かったのだろう。
「あああっ！・・・は、ぁ・・・・・」
きつく締め付け、たっぷりとその存在を味わったそれが、まだ身の内で滾っていることを知って。
アスランは幾度か痙攣した体を、また深く、イザークに纏わりつかせる。
そんな、いじらしい体を。
イザークは、更に深く、愛していく。
「凄い顔だな」
笑いを含んだアスランの声に、イザークはふいと明後日のほうを向いた。
その口元は、わかりやすく腫れ上がっている。
白い肩にも、見事な青アザ。受身を取ってこれなのだ。まともに吹っ飛ばされたら命に関わる。
アスランはくすりと笑うと、イザークの背中に手のひらを添えて、痛々しい色の皮膚に唇を寄せた。
「わかっててやりやがっただろう、貴様」
その肩には、青アザの上に、血の滲んだ爪あとも残っている。
これは相当、痛かったはずだ。
「最中にそこまで気が回るわけないだろ。だいたい、わかってたらもっと的確にやる」
ぺろぺろと、確かに一番酷い色をした場所からは、わずかに外れた爪あとを、犬のように舐めてから。
アスランは、甘えるようにその背中に懐いた。
じん、と、その熱に、傷が痛んでも。
イザークはもちろん、知らない振りをする。
たとえば。
引退してどれだけ経っても、殴り合えばこんなにも強いこと。
チェスで、１０回に１回しか勝てないこと。
何気に、国防総監である自分よりも稼いでいること。
何より、先に、惚れたこと。
認めないけれど。
絶対に、認めたくはないけれど。
俺は、こいつに。
ずっと、降参してる。
アスランが、ころりとシーツに寝転がり。
白い腹を見せながら、くすくすと笑って。
子犬の真似をして、わんと、鳴いた。
せお様が踏まれました、子わんこ板のカウンター「降参しよー、ワン！（５０３４４１）」のキリリクですー！