交歓
黄金の液体を、そっと喉に流し込み、イザークは同じようにグラスを傾けるアスランに問うた。
「小僧はどうだった？」
「ん？意外と喜んでたぞ？」
イザークの作った料理を、子わんこシンが喜ぶのは当然のことだ。
だから、それはクリスマスのディナーのことではなくて。
「苦肉の策だったが、なんとなかったか・・・・」
『ぺかぺかのナいフ』の、ことだ。
子わんこに、ナイフをプレゼントしてやることなど、当然出来ない。
そうして、プラント国防総監が、知恵を絞った挙句に、オーブのフラガ夫妻に頼んで送ってもらったシンへのプレゼントが、「プラスチックのおもちゃの刀」だった。
まあ、それで誤魔化せたのなら、本当に良かった。
「良かったよ。ほんとにどうしようかと思った」
ゆっくりとグラスを回したアスランが、ひといきに、残りの液体を飲み干して。
「・・・ＭＳに乗ってるんだ。それどころじゃないのはわかってるんだが・・・・やっぱり、な」
愛する仔犬に、武器は、持たせたくないのだと。
そんなことを言う「奥方」に、金色の酒を注いでやると、イザークは即席のカナッペを齧った。
パーティーで並んでいたものよりも、ずっと美味い。
「過保護め」
「うるさい」
そうして、むくれたアスランの赤い唇に、そっと、キスをした。
互いの口腔に、シャンぺンの香り。
そっと満ちて、溶ける。
「プレゼントは、まだ間に合うな」
「誰へのプレゼントだ？」
「俺から貴様へに決まってるだろうが」
「俺からお前へ、だろう」
言い合いながら、繰り返し、キス。
幾度目かのそれは長くなり、イザークは力の抜けたアスランの手から、シャンペングラスを抜き取って、床へと置いた。
パチパチと、薪のはぜる音。
炎に照らされたアスランの頬は、美味い酒のせいだけでなく、赤い。
「プレゼントなら・・・ベッドに連れてけよ」
「待てるのか？貴様」
言って、イザークはアスランのベルトをするりと抜き取った。
そうして開いた前ではなく、後ろから、手のひらを差し込んで、硬く引き締まった双丘を、手のひらいっぱいに撫でてやる。
「おま、え。それ、なんだかエロオヤジみたい・・・」
「エロオヤジに触られたことがあるのか貴様は。・・・まあいい」
そのままするりと下肢をあらわにし、その白さに目を細めてから、イザークはことのほか柔らかな内腿に、ちゅ、ちゅっとキスをした。
「ぁん・・・っ、こ、ら。早い・・・・」
「早いのは貴様だろう？何だ、もう濡らしてるのか？」
「濡らしてな・・・ンぁん！」
腿の薄い皮膚を楽しんでいたイザークの舌が、もうだいぶ感じ始めていた、アスランの先端に触れた。
先の先、わずかに窪んだところに硬く尖らせた舌先を押し付けて、跳ねる腰を押さえ込み、わずかに滲んだ液を吸う。
そうして、ちゅ、っとわざとらしい音を立ててから、イザークは、す、とアスランの顔を覗き込んだ。
濡れてとろけた翠の瞳。
赤く染まった目元と頬は、彼の感じた快楽を、余すところなく写し取り。
そうしてわななく唇が、ちいさく「ばか」と呟いた。
まったく、こんな時の自分の可愛らしさを、こいつは本当に理解しているのか。
はなはだ怪しいと思いながらも、今、これを堪能しているのは、自分ひとり。
子供じみた独占欲を哂いながら、イザークは、また、ひと口シャンぺンを含み。
その唇を、再びアスランのそれに重ねた。
「ん、ん・・・・」
気持ちのいいキス。
思わず、という風情で揺れた腰が、イザークの腰にすり寄せられて。
軽く笑ったイザークは、その腰を掴んで軽く引き上げ、それから、先ほど愛撫した腿を、掴んで大きく開かせる。
イザークを受け入れる期待に、そこはもう、ひくひくと反応を見せいた。
その良い眺めを楽しんで、それから、黄金の酒をもうひと口。
そうしてそれを舌に乗せ、そこへと近づけ、そっと、舐めた。
「やっ、な、に・・・・」
決して強いアルコールではないが、感じるものがあったのだろう。ひくんと身を震わせて、うろたえた声を上げる奥方が楽しくて、イザークは、舌の動きを大きくした。
「やっ、あっ、ぅんっ、イ、ザー・・・」
アスランは、もうすっかり感じ入った様子で、緩く腰をうねらせながら、腿に掛かった銀色の髪を掴み締める。
「離せ、馬鹿者」
やっとそこから唇を離し、振り払った指を捕まえて。
軽く歯を立てたそれを、今度はしっかりと床に縫い止める。
「んっ・・・お前が、離せよ・・・・」
「離していいのか？」
「ベッド・・・・」
「ここの方が暖かいさ」
パチ、と、また、薪がはぜた。
揺れる炎が、アスランの翠の瞳を揺らめかせる。
そこにひとつ、唇を落として。
観念したように閉じられたそれに、十分な満足と、少しだけの残念さを感じながら、イザークは空いた方の手で、しなやかな腰を抱き寄せた。
「ん、ぁ・・・ああっ！・・・・・」
ゆっくりと腰を押し込めば、柔らかく受け入れていく素直な場所。
いっぱいに押し広げられた脚がびくんと跳ねて、イザークの腰に、縋るように絡みつく。
床に縫い止められた指が、イザークの手の中で生きの良い魚のように暴れ、もう片方の手が、性懲りもなくまた、銀色の髪を掴んだ。
「まったく・・・」
呟いた唇は、笑っている。
その手に引き寄せられるまま、キスをして。
そうしてイザークは、熱くぬかるんだ場所から、ひといきに自分を引き出した。
「や、ぁ・・・・っ」
とたんに上がる、甘い悲鳴。
離れたことを非難するように、長い手足と、そうしてきつく喰い締める襞とがイザークを引き止め。
「あんっ！」
再び深く突き込めば、愛しい体は全身で、もう離さないとしがみ付く。
「ぁ・・・・あん・・・っ、イ、ザー・・・クぅ・・・・」
続いて緩く揺すられて、甘い喘ぎに呼ぶ吐息。
うっすら開く翠の瞳。
ほのかに汗を乗せた肌が、暖炉の明かりを映して、オレンジ色に輝いた。
キレイで綺麗でいやらしい、イザークの愛する奥方様。
こいつに、プレゼントするならば、当然、最高の快楽を。
「あっ、あんっ、あんっ、はぅンっ、ふ、ン、ん、ぁ・・・・」
そうして、自分も同じものを。
「アスラン・・っ」
互いに互いを差し出して、遠慮容赦なく貪り合う。
こんなプレゼントも良いものだ、と、思ったのはどちらが先だったか。
「やっ、ああっ！」
「くっ・・・」
どちらにしろ、それを言葉にする二人ではないけれど。
プレゼント交歓は、夜が明けるまで、続いたのだった。