「やすあきどの・・・」

久しぶりに聞く、柔らかな永泉の声。

嬉しくなって、熱を持った体を、ぎゅっと抱きしめる。

腕の中で震える、この存在に感じる想いの名前を、泰明はもう知っているのだけれど。

それを口にすると、また永泉を泣かせてしまうから、ぐっと我慢する。

その代わりに、髪や頬にたくさん、口付けをする。

 

言葉でなくても、伝える方法はある。

 

泰明は、こちらの方が好きだ、と思った。

少しくらい間違えても、永泉はあんなふうに泣かないから。

 

片腕を解いて、手のひらで頬を包む。

ちゃんとした口付けをしようとしたのだけれど、伸び上がった永泉に先を越された。

「んっ・・・・」

それは、ずいぶんと深く長いものになった。

 

心でも、体でも。

存在すべてで自分を受け入れてくれる永泉。

愛しくてたまらない。

 

「んっ・・・・ふぅ・・・・・」

離れた永泉の唇が、わずかに覗く泰明の首筋に吸い付いた。

泰明の膝に、すっかり預けられた体。

その意味を、永泉を通して覚えた泰明は、少し慌てた。

「・・・まだ、熱が高い。気も満ちておらぬ」

もちろん、態度にはかけらも表さない。

「でも、泰明殿。泰明殿が・・・欲しいです」

泰明も、永泉が欲しい。

しかし、その気持ちと同じだけ、大切にしたいと思っているのだ。

「お前が辛い。やめておけ」

自分の腕が、勝手に永泉を抱きしめようとするのをなんとか抑え、その身を褥へ戻そうとすると、薬で滑る指が、不器用に泰明の衣をつかむ。

「でも、あの・・・このままの方が辛いです・・・・」

顔から火が出そうだと、永泉は思った。

『欲しい』と言う、それだけのことが何故こんなに恥ずかしいのだろう。

顔を真っ赤にして、もじもじしている永泉は泰明の決意を打ち砕くくらいに可愛かった。

「辛くなったら、言え」

そうは言ったが、やめられるかはわからないし、何よりも永泉がそう言うとは思わない。だから言える言葉。

・・・甘えているのだな。

そんな自分を、泰明は不思議に思った。

 

 

 

「っは・・・ぁ・・・・」

永泉の喘ぎは、常よりも更に弱々しい。

手早く済ませてやった方が良いのは間違いないが、久方ぶりの永泉の肌に、我を忘れてしまいそうだと泰明は思った。

 

熱のせいか、いつもよりも薄く感じる皮膚に、何度も口付ける。

腿の内側や、柔らかな下腹などは、舐めると溶けてしまいそうだった。

「うんっ・・・・」

前を含めば、そこもとろけそうに熱い。

しかし、あまり追い上げてはかわいそうだ。

泰明は、すぐに唇を離し、そして持ち上げた腰の後ろにまわす。

内側も、やはり、熱い。

差し込んだ舌がとろけそうだ。

「あ・・・すあきっ、ど、の・・・・」

あやしくうごめく粘膜を、舌のとどく限り舐め尽くし、永泉に快楽の声を上げさせる。

「あん・・・・」

舌を抜き取って指を進め、自分の唾液でしとどに濡れたそこを探る。

「熱い、な・・・」

「やぁん・・・」

二本に増やした指で更に追い上げれば、抱え上げられた力ない脚がひくひくと震えて、泰明の肩を滑った。

その脚にも口付けて、その熱さを確かめる。

その存在を、確かめる。

「・・・・きどの・・・・」

永泉の指が伸びて、泰明の頬を捉えた。

すっかり薬の落ちてしまった、凍傷の肌の、ざらりとした感触にぞくりとする。

脚から顔を上げ、永泉の潤んだ瞳を覗き込んだ。

「もぅ・・・ほし、い・・・ください、やすあきどの・・・」

潤んだ声、潤んだ体、可愛い、私の永泉。

「・・・ああ、わかった」

愛しいその身を抱きしめると、永泉の指が頬から頸を滑り、背中へとまわってぎゅうっとしがみついた。

抱きあった体が、心が。

互いが欲しくてたまらないと、音のない言葉で伝え合う。

「あっ・・・ああっ・・・・」

ずくり、と、ひと息に入ってきた泰明に、永泉はあられもない声を上げた。

精一杯に泰明を感じようとして、一生懸命に腰を振る。

繋がった場所が熱くて熱くてたまらない。

それは、泰明も同じだった。

その快楽を分かち合うため、熱い永泉の中を、激しく自身で愛撫する。

「・・・・・！」

ぐちゃぐちゃと音を立てるそこが恥ずかしくて、きゅうっと力を込めたところを無理に押し広げられ、永泉は言葉もなく仰け反った。

 

繋がった場所は、熱くて優しくて気持ちよくて。

夢中になって、貪り合う。

尽きることのない快楽を。

尽きることのない、『愛しさ』を・・・

 

 

 

 

 

「愛している」

それは、封印された言の葉。

いつの日か。

その封印が解けるときが来るのだろうか。

穏やかに眠る永泉を見下ろし、泰明は思った。

 

・・・来なくても、かまわない。

 

永泉も、自分でさえも。

他に、たくさんの言葉と方法を持っているのだから。

そうっと、ほの赤い頬に口付け、その身を抱きしめて横たわる。

 

心も、体も寄り添わせて。

二人で見る夢は、きっと。

きっと、幸福なものに違いなかった。

 

 
終