「泰明殿、今宵、夜を共にいたしませんか？」

「・・・」

「ええと、御予定が、おありですか？」

「・・・」

「あ、あの、泰明殿は、女性でないと、だめな方なのでしょうか・・・」

「・・・」

「あの、やすあきどの・・・・？」

 

泰明は、今、非常に困っていた。

龍神の神子が降臨してから、ふた月。

地の玄武としての務めは、つつがなくこなしている。

神子も、自覚が出来てきたのだろう。封印のし方も憶え、効率よく怨霊を始末している。

しかし。

自分の対ともいうべき天の玄武、永泉は、今日も今日とて役立たずだった。

その力を存分に振るえば、永泉一人でも楽に倒せる怨霊だというのに。

 

そうして、神子を土御門の藤原邸まで送ったその帰り。

誘惑と言うにはあまりに直截な誘いに、さすがの泰明も困っていた。

 

 

 

「夜を共にする、というのは、どういう意味だ？」

永泉の言葉より推測は可能だか、一応、確認はとる。

「あの、わ、私を、抱いてくださいと、いう意味ですが・・・」

わずかに頬を染め、うつむく姿。

ふむ。

「何故、お前を抱かねばならない？」

「え、あ、あの・・・・」

おどおどと顔を上げ、それからまたうつむき、いつも小さな声が、更に小さくなった。

「あの、その・・・私は、泰明殿に御迷惑ばかりおかけしているので・・・せめて、その、それくらいはお役に立ちたいと思ったのですが・・・申し訳ありません。さしでた真似を・・・」

ふむ。

「申し訳、ありま・・・」

「おまえがいいのなら、私はかまわぬが」

ぱっ、と永泉の顔が上がる。

「性行為というものは、したことがない。おまえが、私に触れられても良いのなら、私は、かまわぬが」

「あ、ありがとうございます・・・あの、きっと、気に入っていただけると思います。私、これだけは、よく褒めていただけるので・・・」

 

固い結び目が、ほどける様を連想する。

そんな表情を、永泉はした。

 

「そうか」

 

それが、泰明の中の何かをほどく。

そんな気が、した。

 

 

 

 

白い小袖をから覗く肌は、灯台の灯りを受けて、ほんのり朱く輝いていた。

袈裟も法衣も脱ぎ捨てて、小袖の帯をかなり緩めたその姿が、全裸であるよりもずいぶんと、男の欲望をかきたてることを、永泉は知っている。

「泰明殿・・・」

彼の衣を緩め、既に硬さを持ち始めているそれを、嬉しそうに口に含む。

「ん・・・」

温かく濡れたものが、敏感になっているそこを這い、包み込む。

はじめて受ける刺激に、それはたちまち膨れ上がり、永泉の喉を塞いだ。

「ん・・・う゛んっ」

泰明は、自分のそこからこのような快楽を得られることに、とても、とても驚いていた。

腰にしがみつくように顔を伏せ、傍目にも必死とわかる様子で己の快楽に奉仕する永泉に、はじめて感じる凶暴な欲が湧き起こる。

なるほど

これが、情欲か。

自分の、どこか冷静なところがそう呟くのを聞きながら、泰明はその欲を吐き出すべく、永泉の頭を否応のない力で引き寄せた。

 

 

「あの、一度達った後のほうが、長く楽しめますので・・・」

あまりの勢いに飲み込み切れず、こぼしてしまった白いものを舐めながら、永泉は言う。

そして吐き出したばかりの、しかし大きさも硬さもあまり変わらないものの先端に、ちゅっ、と吸いついてから、

「申し訳ありません、あの、少々、お待ちください」

そう言って、小袖の帯を解いた。

 

隠されていた部分があらわになる。

見るからに柔らかそうな腹の下のほうに、淡い茂みと立ち上がりかけた小さなものが見える。そして更に下には、なめらかな脚が見え隠れした。

 

どこからか小さな合わせ貝を取り出した永泉は、中身を指ですくうと、その脚の間にもっていった。

「んふ・・・」

膝立ちになった永泉の腰が、ゆるゆると揺れる。

 

それはとても、面白そうな作業に見えた。

 

「やらせろ」

揺れ動く永泉の腰に手をかけると、思いがけない柔らかさと質感に驚かされた。強く抱き寄せれば、くぅっと強張る肉の動きがわかる。

「は・・・はい・・・」

赤く染まった顔をうつむけた永泉は、貝の容器を泰明へ渡し、小袖を脱いで四つ足に這った。

 

はじめて見る人の裸。

その、うつくしい形。

 

泰明は、貝の中身を指に取り、先ほどまで永泉の指があったと思われる、差し出された場所に触れてみた。

「くんっ・・・」

既に永泉によって濡らされたそこはひくひくとうごめき、押してみると、つぷりと指先がめり込んだ。

驚いて、手を離す。

「あんっ、・・・あの、その、慣らしてからでないと、ええと、その・・・入れたとき、辛い、ので・・・。あの・・・申し訳ありません・・・・」

行為の意味を説明され、永泉を抱く、ということの、具体的な行動がわかってきた。

「慣らせばよいのだな？」

「はい・・・あ、ぅん」

とりあえず指を入れてみると、中はひどく熱かった。そしてそのまま差し込むと、簡単に根元まで入ってしまう。

「ん・・・ん・・・」

ぬらぬらとした襞に指を擦りつけると、うごめき、絡みつく感触が心地良い。

微妙な動きでうねる腰を押さえつけると、汗ばんだ肌は手のひらに吸い付くようだった。

 

ここに、自分のそれを入れたなら、それは、どんなに心地良いことだろう・・・・

 

急かされるように指を増やし、きつい入り口を押し広げる。

「あん・・・や、すあきどの、もう、だいじょうぶ・・・んっ」

言われなくとも、限界だった。

先程よりも質量を増したそれを、永泉のそこに押し付け、押し進める。

「あぅ・・・・ん、う、うぅ・・・」

 

きつかった。

きついのに、気持ちいい。

 

指などよりも、はるかに大きなものを飲み込んでしまったそこは、きゅうきゅうと泰明のものを締め付ける。締め付けているのに、柔らかな襞は優しく泰明を包み込む。

 

強烈な快感。

 

しかし、もっと気持ちいいことを、泰明は先ほど、指の動きで覚えていた。

 

この襞に擦りつければ、もっと、もっと気持ちがいいのだ。

 

「きゃうん！きゃ、う、う、あ、ああん・・・」

唐突に、激しく突き込み始めた泰明に、永泉は悲鳴をあげた。

びくんと仰け反った体を、長い腕に捕らえられ、更に深みを抉られる。

「あ、あぅ、や、すあ・・・っ、あん・・・」

したことがない、という泰明を、少し見くびっていたことを永泉は後悔した。

しかし、そんな思考も激しい動きに押し流されて。

後にはただただ、快楽だけが、あった。

 

 

 

「は・・・は・・・は・・・あ・・・」

何度も何度も貫かれ、滴り落ちるほどの精を注がれて、すっかり力を失った体を、それでも泰明は手放さなかった。

性的な欲望が満たされれば、次に起こったのは、知識欲。

造られて二年。幾度か師匠に頭を撫でてもらったこと以外、ひとに触れるということを知らなかった・・・許されなかった泰明にとって、永泉の体はただひたすらに物珍しかった。

 

脚の間、繋がった場所の周辺は、永泉が「やめて」と泣いて懇願するまで弄りまわした。

己を咥えた口腔内は、複雑なつくりをしていた。こりこりした耳朶や、塩辛い水を生み出す眼球も、とても、面白かった。

肋骨の一本一本を触れて確かめ、関節のひとつひとつも、どのように曲がるかを確かめて、しばしば永泉に悲鳴をあげさせた。そんな時、引きつれるように動く筋肉も、予想がつきにくくて興味深かった。

 

時折、絶え絶え、といった様の永泉の息が、切ない吐息に変わる。

はじめはなんだかわからなかったが、力なく立ち上がった前を弄るか、つられて兆してきた己をその深みに差し込んでやると、水のような精を吐いた。

 

「は・・・・・・は・・・・・・」

やがて、そんな反応も起こらなくなり、泰明が永泉の様子が変だということに気付いたのは。

 

もう、日も昇りかけた頃だった。

 

 

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