永泉は、いつでも泰明の訪れを心待ちにしている。

今宵も、音もなく簀子に降り立ったひとを見て、花がほころぶように笑う。

「泰明殿・・・」

しかし、今夜の泰明はいつもと違ってそこに立ったまま、じっと永泉を見ていた。

「・・・やすあきどの・・・・？」

不安そうな声に応え、ゆっくりと歩み寄った泰明は、いつも通り左の瞼に口付ける。

「今日、おまえの兄に会った」

永泉のすぐ側にあぐらをかき、膝の上に細い体を乗せる。その体は丁度いい大きさで、丁度いい重さで。泰明の腕に、ぴったりと収まった。

「兄上はお元気でしたか？」

「ああ」

「そうですか・・・」

嬉しそうな永泉に、何故か胸がもやもやする。

特に意味はないのだが、そうしたくなって薄紅に色づいた頬に指を伸ばした。

そして、つまんで、引っ張って。

「い゛？」

突然の意地悪に驚いた永泉の、変なのにやたらと可愛らしい顔に、満足して手を離す。

「ひ、ひどいです泰明殿・・・」

更に紅みの増した頬をおさえ、恨めしげに見上げる永泉の視線が、左右微妙に合っていないことが、泰明を更に満足させた。

無理をしていない、自然な永泉が自分の前にある。

そう思うと、自分の肩の力も抜ける。

「私といるのに、他の者のことを考えるおまえが悪い」

「はい・・・申し訳ありません・・・・」

しゅん、としてしまった永泉の髪に口付け、左のこめかみに唇を移す。今の永泉はとても安定しているけれど、それでもほんの少しだけ気を贈った。

「すまなかった」

先程いじめた頬にも口付ける。抱きしめた体はいつも通り柔らかでいい匂いだった。

「永泉・・・・」

真っ赤な耳の側で呼ぶと、ぴくん、と薄い肩が震える。

衿の合わせから手をすべり込ませ、滑らかなそこを撫でまわす。時折、ぷくんと立った突起にふれると、自分の胸にぴたりとついた背中が震えた。

そのまま器用に腰紐を解きながら、右手を下ろしていく。

「んっ・・・・」

泰明の大好きな、内股の柔らかいところに触れると、甘い声が洩れた。いつもならば、しばらくそこを撫で回し、心地良い感触と可愛い声を楽しむのだが、今日はそのままするりと脚の間に忍び込ませた。

そこは既に立ち上がり、控えめな露に濡れていた。

「気持ちいいのか？」

いつ見ても不思議なそこのつくりを、確かめるように弄りまわす。長い指に絡みつかれ、永泉の体が泰明の腕の中できゅうっと強張った。

「・・・っ、はい・・・・っあ・・・っ」

くたり、とそれが弛緩して、はあはあと、甘い、苦しい息の中、泰明の頬に頭をすり寄せて、永泉がささやいた。

「つぎは・・・私が・・・」

「後にしろ」

いつもいつもそう言われ、いまだにさせてもらったことがない。

「やすあきどの、きょうは・・・・っは、やぁっ・・・」

抗議しようとした声は、甘い喘ぎに紛れて消えた。

だって、泰明殿の指が、後ろに。

「やすあ・・・っ、うふ、ぅん・・・」

自分のもので濡れた指が、ずるずると中を探っている。

「おまえは、中身も柔らかいな・・・」

そう呟く泰明に、二本目の指を押し込まれ、永泉は仰け反った。

与えられぬ切なさに泣いていたそこは、既にとろけ始めている。中で指が蠢くたび、くちくちと濡れた音が響いた。

「気持ちいいのか？」

こんなところが？

心底不思議そうな声に、ひどい羞恥を覚えて逃げようともがくと、指の角度が変わって更に感じてしまって。

「っ、はん・・・」

この反応に気を良くした泰明は、指を増やしてかき回し・・・・そしていきり立った自分のものへと、その細い腰を導いて。

「やっ、あ、ああああああん」

ずっぷりと、泰明のものを飲み込んで、永泉は身をうちふるわせた。それは泰明にも伝わって、中のものがぐうっと質量を増す。

「や・・・あっ、ふぅ・・・・」

柔らかくて気持ちいい、永泉の体。

泰明は、はじめての快感に夢中になって、永泉の中に自分を打ち込んだ。

くたりと、解放後の虚脱に身を預ける永泉を、腕の中に囲い込み、時折、あちこちに唇を寄せて。泰明は、はじめての体の余韻を、存分に味わっていた。

「やすあきどの・・・あの、だれかに・・・変なことを、教えられませんでしたか？」

もぞもぞと、その中から顔を上げ、鳴き過ぎて掠れた声が、問いかける。

「変なことは教えられていない。」

「あの、でも、先程は・・・・」

おそらく、初めてだと思われる人の、それでも優しくて激しかった行為を思い出し、永泉は頬を染めた。

「友雅に、こうすればおまえが喜ぶと言われた。良くなかったか？」

・・・・何故だか、がっくりと力が抜けてしまった。

「いえ、あの、泰明殿は・・・・」

「とても気持ちが良かった。またしたい。・・・おまえは、良くはなかったか？」

汗で張り付く前髪を払い退け、間近から覗き込まれて更に赤くなった永泉は、その視線から逃げるように泰明の胸に顔を埋める。

「あの・・・その・・・すごく、よかったです・・・」

「そうか」

望んだとおりの応えに満足し、泰明はその滑らかな肌にある、幾つもの傷跡に口付けた。

口付けて、気を送り、馴染ませる。先程の交わりで、互いの気もまた、交わっているから、自分の中の泰明の気が同調し、永泉は身をふるわせた。

「やすあきどの・・・大丈夫です・・・もう、痛くありませんから・・・」

その頭をそっと抱いて、すべらかな髪をかきまわすと、

「私が、痛い」

今度は、泰明が永泉の頭を抱え込み、そうっと左目に唇を寄せる。

「もう、おまえに傷はつけさせない。ずっと大事にして、ずっと喜ばせてやる」

まっすぐな泰明の、まっすぐな言葉に。

傷痕よりも、いっぱいになった胸が痛んで。

「はい・・・ありがとう、ございます・・・・・」

傷痕よりも痛い、痛いほどの幸福というものを、永泉は、初めて知った。


終