IL。

爆縮レンズの奪還。

その狭間で。

歪んだ「親友」達は、再び出会った。

視覚を失ったことは、決して自分にとってマイナスではなかったと十兵衛は思う。

心眼を研ぎ澄ませば、今まで見えなかったものさえ見える。

だから、わかった。

このドアの向こう。

ここしばらく、自分の部屋として使っている倉庫址に、花月がいることが。

「十兵衛、遊びに来たよ」

積まれたままの瓦礫の中の、手ごろなコンクリの塊に腰掛けて、軽く上げられた花月の腕には、きつく包帯が巻かれている。

あれから、ILの一件から、数日しか経っていない。

十兵衛は、先ほどまで軽く引きずっていた足を無理やり上げて、その前まで歩み寄った。

「傷は・・・大丈夫なのか」

「うん。十兵衛は？」

「どうということはない」

「嘘。目、見えてないくせに」

「これは、守ると誓った貴様を傷つけた、当然の報いだ」

「本当に、変わらないね・・・君は」

眩しいものでも見るように十兵衛を見上げた花月は、今、この時だけ、十兵衛に視力がないことを感謝した。

そうでなければ、まともに十兵衛の顔を見ることなどできない。

「ごめんね・・・遊びに来たっていうのは、嘘だよ。君に謝りに来たんだ」

「貴様が謝るようなことは何もない。詫びねばならんのは、オレの方だ」

淡々と言葉を紡ぐ十兵衛。

その閉ざされた双眼を見上げ、花月は力なく、言った。

「違うよ・・・」

花月を殺して、そしてそののち、後を追うつもりだったという、十兵衛の言葉を思い出す。

無限城を去って、それで十兵衛を開放したつもりだった。

しかし、この生真面目な男は、その程度では、一度決めたことを放り出すことなどできなかったのだろう。

『十兵衛は、どこにも行かないよね』

『ああ。どこにも行かない』

十兵衛を、どこにも行けなくしたのは花月だった。

結局花月は、余計に十兵衛を追い詰めてしまったのだ。

だから

だから、きちんと言葉にして

終わりにしてしまわなければ。

たくさんのものを、十兵衛から奪った。

恋を、

時間を、

心を、体を、

幸福を、

そして最後にはその視力を。

だから

「許してなんて、言えないけど」

花月はとうとう、十兵衛の顔から眼をそらす。

汚れた床を見つめながら、花月はかすれた声で続けた。

「君は自由になっていい。もう、僕を守らなくていい。もう、知っているんだろう？僕に、そんな価値はないんだ・・・」

十兵衛も、花月が銀次に心奪われていることを知っているはずだ。

それでも十兵衛を繋ぎ止め続けていた時代、その汚さを知っているはずだ。

「お前に、もうオレは必要ないのか？」

「ちがうよ。ただ、僕はもうキミを縛り付けたくない。それだけだ」

きちんと言えば、それで終われる。

キミと僕の間は、それで、ほんとうに。

ほんとうに、おわり。

「だから十兵衛、キミはもう、キミの好きにしていいんだ」

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