雷帝が、無限城から、消えた。

そして巻き起こった混乱と恐慌。

それを、花月はどこか遠くで見ていた。

心は通わなくても、情を交わすことで、結果雷帝のかなしみを誰よりも知ることとなってしまった花月は、だから彼の失踪を受け入れるしかなかった。

どんなに花月が胸を痛めようと。

どんなにマクベスが探し回ろうと。

どんなに士度が怒ろうと。

ここは、あの人の居場所じゃなかったんだ。

だから、仕方がない。

思い当たるのは、蛇の目をしたあの男。

あの人の居場所は、あそこにあったのだから。

あの人の側に、自分の居場所はなかったのだから。

・・・だから、そのことは本当に、仕方がないことなのだ。

「花月」

窓枠ごと抉られた、かつて窓であった穴から、ぼんやりと外を眺めていた花月に、十兵衛はゆっくりと歩み寄った。

「ああ、十兵衛」

呟くように答えた花月の側に立ち、十兵衛はそうっとその背に腕をまわした。

緩やかな抱擁と、触れるだけのキス。

慰めて、くれるんだ。

君を裏切り続ける僕を。

それでも十兵衛の腕の中は、あたたかくて心地よくて幸せで、花月はその身を全部あずけてしまう。

それを無言で受け止めた十兵衛は、徐々に、キスを深いものにしていって。

時折小さな喘ぎを洩らしながら、されるがままにキスを受け、花月は思う。

ああ、そうだね。

僕もいなくなってしまえば。

君も、君のほんとうの居場所を見つけられるんじゃないかな。

君の幸せが、見つけられるんじゃないかな。

いなくなることなんて、簡単なのだ。

ここからいなくなって、そうして行ける場所なんて、たくさんあるのだから。

そこに、僕の幸せはないのだけれど、もう十分過ぎるほど、僕は君からそれを奪い取ってしまったのだから。

だから。

君の側から、いなくなってしまおう。

僕は、キミに恋なんかしていないのだから。

『十兵衛は、どこにも行かないよね』

『ああ。どこにも行かない』

そう言った君は、何があってもその言葉を守ろうとするだろう。

でも僕は、僕が行かないなんて一言も言ってない。

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