キス、キス、キス
腕の中で、愛しい体がびくりと跳ねた。
「あ、やあ・・・っ」
堪えきれない、といった風情の声が上がり、その人の味わっている快楽の深さを物語る。
その様子に満足しながら、真木は兵部が感じると知っている場所を、繰り返し突いた。
「ふあっ、あ、あ・・・・っ」
銀色の頭が打ち振るわれて、縋るように背に爪が立てられる。
ぎりぎりと肉を抉られる痛みに目を細めながら、痙攣を始めた脚を押さえ込み、抜き差しする力を緩めないまま、タイミングを図る。
「あっ、あっ、い、あ・・・・っ！」
びく、びく、と、細い腰が跳ねて、可愛らしいものの先端から、白濁したものが撒き散らされる。
快楽に我を忘れたその様子に安堵しながら、真木も熱い肉の奥に、自分のものを注ぎ込んだ。
そうすれば、中で出されることが大好きなこの体が、重ねて絶頂する事を知っていたから。
「なあ、真木。僕はそんなに魅力がないかな？」
「は？」
やっと整ってきた息を、しかしまだ弾ませたままでそう言われ、真木はぽかんとその人の顔を見つめてしまった。
「だってお前、いつだって僕ばっかり気持ちよくさせててさ」
快楽の涙に濡れたままの瞳に、上気してほんのりと赤い頬。喘ぎに疲れた唇も、繰り返されたキスのせいか、いつもよりも随分と赤い。
「僕のこと、仕事みたいに抱きやがって・・・」
その唇で、悔しそうにそう言われ、真木は慌てて首を振った。
「いえ、少佐」
それは違う、と言う前に、むう、とへの字を作った唇が、きゅう、と真木のそれに押しつけられた。
「お前のこと、夢中にさせてやるにはどうしたらいいんだろ」
そんな嬉しいことを言われて、真木はむしろ、慌ててしまう。
「ですから」
「やっぱ、テレパシーで好み透視んで、ヒュプノかなぁ」
とんでもないことを言われて、真木は頭を抱えた。
彼の主は、基本的に人の言うことを聞いていないにしても、これは酷い。
「でもそれ、なんかムカつくんだよな」
そうぼやく兵部に、真木は呆れたようにシーツに投げ出されていた手を取った。
「・・・読んでください」
ざらり、と。
その柔らかな手を、無精髭の生える頬に押しつける。
「俺の中には、あなたのことしかありませんよ」
「ホントかよ」
むっとしながら疑いの言葉を吐きつつも、兵部は真木に対して、精神感応系の能力は使わない。
『他人』に対しては、テレパシーもサイコメトリーも使い放題だが、『家族』に対しては、よほどのことがなければそれを使わない。
「本当ですよ。だから透視んでください」
それを知っていて、それでも真木は透視んで欲しいと思った。
むっとしているこの人はとてもとても可愛いけれど、それでも『仕事みたいに』などと思われたままではたまらない。
「へえ」
そうすれば、兵部はニヤリと笑って、頬に置かれた手をするりと真木の首に絡めてきた。
「マジで透視むぜ？」
その、くらくらするほど魅力的な笑みを浮かべる唇に、恭しくキスをして。
「ええ」
真木はそう答えてから、一時休んでいた体に、再び兆していたものを押しつけた。
期待にひくりと震える肢体がいとおしい。
「お願いします」
そう言うと、誘うようにすり寄せられた脚を抱え上げ、濡れたままのその中へ、深々と自分を突き立てた。
「ん、ふぅ」
閉じかかっていたところを再び開かれるのは、兵部の好きなことのひとつだ。
そのまま大きく腰を動かされるのも、同様に。
腰がとろけてしまいそうな快楽に身を任せ、それを与える男の背にすがりつきながら、兵部は彼の願い通りに、その思念の波を透視み取った。
透視めと言っただけあるそれは、何の抵抗もなく兵部の中に落ちてきて。
そのとたん、兵部はびくりと身を跳ねさせた。
・・・うわあ
きゅう、と強く締め付けられて、低く呻いた真木の中は、それでも彼の言葉通り、兵部のことでいっぱいだった。
どうすれば、兵部が気持ちよくなれるのか。
痛みはないか、苦しげな様子はないか、もっと強くした方がいいのか、よくないのか。
それは、彼の中で美化された自分の体への、原初の欲望と、それから。
愛しています、いとおしい、大切にしたい、・・・・愛してる。
そんな感情が、不思議と混ざらず、それぞれに存在していて。
「ばっ・・・かぁ」
それは、もういっそ暴力的なほどに。
彼の中は、兵部のことだけ。
兵部に快楽を与えることが、そのまま、真木の快楽に繋がっている。
テレパスでも、サイコメトラーでもないのに。
何なんだ、こいつは・・・っ！
しかも、兵部はテレパスでサイコメトラーなのだ。
真木の感じている快楽を、寸分違わずに透視み取ってしまえば。
「やっ、あ、ああ・・・っ！」
もう、腰どころか、体も精神も融けてしまいそうだった。
融けて、なくなって、ぐちゃぐちゃになって。
もう、なんだかわからなくなる。
しがみついた逞しい体さえ、そこから流し込まれる思念は快楽にしか繋がらない。
どうしようもない、快楽地獄。
もう、堕ちていくしかない。
「しょうさ・・・」
「あっ、あっ、ああ・・・っ！」
更に流れ込んできた真木の思念に、兵部の全部が焼き切れた。
愛されるって、怖ぇ、と。
痺れ切った頭の芯で思ったことも、遠くへ堕ちて。
「あ、あああっ！」
喘ぎに紛れて、どこかへ消えてしまった。
「もう透視まない・・・」
ぐったりとシーツに突っ伏してしまった兵部の背をゆっくりと撫でて、真木はその言葉に首を傾げる。
「そうですか？」
「・・・けろりとしやがって」
睨み上げてくる闇色の瞳は、鋭さよりも潤んだ艶やかさが際立っていた。
「いえ、すいぶんと悦さそうだったので」
そう言うと、真木は撫でる手のひらを背中から、ゆるりと首から顎へと伝わせて、そのぞくぞくするような瞳を覗き込んだ。
「これからも、使った方が気持ちよくなれるのでは？」
「・・・・」
じとり、と真木を見上げるも、いつでも真摯なその瞳は、他意なく兵部を映している。
それに、先ほどまで浸っていた彼の思念を思い出し、いたたまれなくなって兵部はシーツへ突っ伏した。
「こんなん、毎回やったら死んじまう」
「少佐？」
返るのは、ただ困惑の声。
それに本気でムカついて。
「気持ちよすぎるんだよ、このバカ」
そう罵りながら睨み上げれば、ほんの一瞬ぽかんとし。
それから、破顔した髭面の男。
こんなのが可愛いと思うなんて、自分もたいがいどうかしている。
悔しいから、サイコキネシスでその髪を引っ張って、寄ってきた頬にキスをした。
すぐにそれは、唇に返されて。
深く、ふかくされてしまったのだけれど。
この可愛い男には、ほっぺにちゅーくらいで丁度いいのだと。
そう思ってぶん殴って、また、頬にキスしてやる。
可愛い無体に思わず抱きしめてしまったその腕の中、兵部はちらりと真木を見上げて。
「でも、まあ」
その頬に手を伸ばし。
「お前も気持ちいいみたいで良かったよ」
僕ばっかじゃあ、ムカつくんだよ。
そうぼやく愛しい人に、真木はまた、キスをした。
いくらしても、し足りなかった。