変わるもの、変わらないもの
自分の上で揺れる白い体を見上げて、早瀬はくう、と小さく呻いた。
森次の中は早瀬をやわやわと絞り上げ、時折きゅう、と締まるから、持って行かれないようにするのがタイヘンだ。
て、いうか。
「森次さん、あのっ」
「・・・ふ」
早瀬の言いたいことがわかっているのかいないのか（絶対わかってやってる！）森次は、眼鏡を通さないと余計にキレイに見える瞳を甘く眇め。
いっそう深く、腰を落とし込んだ。
「うぁ」
「ん・・・っ」
そんなことされたら、久しぶりの早瀬が持つはずもなく。
彼の中に、たっぷりと出してしまっていて。
気持ちよかったけど、とっても気持ちよかったけど、でもちょっとくらい好きにさせて欲しかったなー、なんて思っている少年の上で、森次はぐち、といやらしい音を立てて腰を上げた。
それは、イったすぐ後でも、また勃ってしまいそうなくらい気持ちよくて。
どろり、と、彼のそこから早瀬の放ったものがこぼれ落ちるさまは、どうしようもなく卑猥で。
そうして。
見下ろす瞳に淫猥な光が宿って、薄い唇がニイ、と笑んだ。
「で、どうする？」
「も・・・もっかいお願いします！」
チャンスを逃さず、膝立ちの体をベッドに倒して敷き込めば、彼はよくできましたとばかりに早瀬の頭をぽふりと撫でて。
そうして、ぐいと引き寄せる。
濡れた唇は、苦くて甘くて気持ちよくて。
ああ、森次さんだなぁとちょっとだけぽわんとしてしまってから。
早瀬は、せっかくもらった主導権を取り上げられないようにと。
がんばって、より深く、唇を合わせた。
満足のいくセックスの後の彼は、まるで満腹の虎のようだ。
綺麗な肢体をシーツの上に長々と伸ばし、夜よりも更に黒々とした瞳をわずかに細め。
そのうち喉でも鳴らしそうな様子で、向かい合わせに横たわった早瀬の前髪をいじっている。
セックスの最中も、もの凄く気持ちいいけれど。
こんな時間も、早瀬はとても、好きだった。
「あー、なんていうか」
くい、と髪を引っ張られ、お返しに耳朶にいたずらをしながら、早瀬は嬉しげに呟いた。
「森次さんは、変わんないですね」
３年が経って、世界はいろいろ変わってしまった。
いや、世界がどうこうよりも、周りの人間が変わっていることに、早瀬にはちょっと。
・・・ちょっと、参っていて。
それだというのに、森次は相も変わらずに。
強くてクールで突拍子もなくて。
キレイで怖くて、あったかい。
「ファクターだからな」
ああうん、それで、何考えてんだかわからない。
「そうじゃなくって、こう」
早瀬の言いたいことをわかっているのかいないのか。
天然の上にはぐらかしスキルも高いなんて、タチの悪さも変わらない。
「ファクターでも、みんな、変わるじゃないですか」
妙に落ち着いた矢島、別人のように大人な桐山・・・は、また別か。
凄みを増した加藤機関の連中に、あの山下君でさえ、妙な貫禄があって。
「でも、森次さんは変わらないなって」
早瀬は、弄っていた耳から首筋、毛布からはみ出した肩までをすうっと撫でた。
この感触も、変わらない。
強くてクールで突拍子もなくて。
キレイで怖くて、あったかくて。
何考えてんだかわからなくて、天然で。
そうして、こうして触れることを許してくれる。
早瀬の好きな、森次さんのままだ。
「そうか」
薄い唇が、ふ、と笑む。
ああ、またキスしたいなぁと、早瀬は思った。
してもいいかなぁ、と、そう思ったところで。
「そう思うなら、お前もまだまだだな」
はっきりとそう言われ、ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられた。
「えぇ・・・」
何それ。
不満たっぷりにねめつけた、伸ばされた腕越しの、想い人の顔。
それは、なんだかとてもとても楽しそうに笑っていて。
そんな顔が見られるのは、たぶん自分だけだと、何故だか早瀬には確信できてしまって。
でも。
うん。
まだまだでも、いいかなぁなんて。
ちょっとだけ、思ってみたりもして。
思わずニヤケた早瀬の額に、森次の指がかざされる。
あ、やば。
思ったとたんに来たデコピンは、思ったほどは、痛くはなかった。
「ひどいですよ」
それでも、額を押さえて恨みがましげに上目遣いになった少年を、機嫌よく眺めながら、森次は思う。
お前の前にいる俺が、昔と同じに見えるなら、やっぱりお前もまだまだだ。
お前は俺の、正義の味方。
お前のために、俺は死ねるだろうし。
お前のために、俺は、生きられるだろう。
死にたいのではなく。
死ねないのではなく。
生きたくないのではなく。
生きなければならないのでも、なく。
ただ、お前のためだけに。
「森次さん」
「・・・ん」
唇が触れる。
手のひらが触れる。
ずっと、手の届かなかった『何か』を手に入れたお前が。
この世界でたったひとり。
俺の、正義の味方。