可愛い恋人
セックスをしている時の椎名は、とても可愛い。
てつしは、自分の肘をきゅう、と掴んで、ちいさく息をつきながら、やっと自分を受け入れている椎名の、長い睫を見下ろした。
「てっ・・・ちゃん」
「悪ィ、痛ぇか？」
痛くない、訳がないのだ。
今も、椎名のそこはぎゅうぎゅうにてつしを締め付けて、見下ろした睫には、涙の滴が絡んでいる。
それでも、椎名はふるふると首を振った。
そんなかすかな動きでも、ナカに響いてしまうのだろう。
ひとつ、息を詰めて。
またきつく、てつしを締め付けてから、ようようその瞼を開けて、濡れた瞳を見せてくれた。
「もう、動いて・・・大丈夫」
「ンなワケねえだろ」
まだ、こんなにきついのに。
まだ、こんなに苦しそうなのに。
そう言う椎名が可愛くて、だから、てつしは無理をさせたくない。
「だい・・・じょうぶ」
小さく笑った唇。
涙を乗せて、細められた瞳。
そんなカオして、そんなコト言うんじゃねえよ。
すっげー嬉しいんだけど、すっげー困るだろうが。
「でも、もう少し、ローション足して」
困るから、そういうコト言ってもらうと、ちょっと助かる。
「ああ」
繋がったそこに、一度手のひらに落としてあたためたローションを足してやる。
それは、地獄堂の棚から失敬してきたもので、これがあるのと無いのとじゃ、椎名の負担がぜんぜん違う。
そういう知識が全くなかったてつしの代わりに、いろいろ調べてくれたのは椎名だった。
だから、受け入れる方がツライって、わかってたはずなのに。
そっちを選んだのも、椎名だった。
「中で、じっとされてるのも、きついから」
ひく、とそこを動かして、苦しげな声で、椎名が言った。
「抜くか？」
「そうじゃなくって・・・」
はぁ、と、椎名が熱い息を吐いた。
どうしようもなく色っぽい唇と胸の動きに、椎名の中のてつしが、また、大きくなったような気がした。
「奥が、凄く」
言いさして、一度、唇を噛み。
それから。
緩く首を振っててつしから目をそらし、シーツに散った髪に頬をすり付けるようにして、繋がっているてつしにも、やっと聞こえるような声で小さく言った。
「もっと・・・奥に、てっちゃん」
いつもの椎名とぜんぜん違う、脈絡の見えない言葉。
余所を向いたままの瞳が瞬いて、自分の言葉に耐えきれないというように、瞑られた。
「・・・早く。・・・焦らすな」
「ーーーーーっ！」
かあっと、頭に血が上るのがわかった。
頭に血が上ってるのに、ソレにも血が集まって堅くなった。
それを感じて、椎名が喘ぐ。
いつもよりも赤く見える唇が、はぁ、と喘ぐのをどこか遠くに感じる。
濡れた襞の感触。
それをかき分け、望み通りに奥までぎゅう、と入れ込めば、びくびくと震えるナカに絞られて、どうしようもなくキモチイイ。
「椎名・・・しいな」
てつしはローションで濡れたままの手で、後ろからの刺激だけで立ち上がっている椎名のものを握り込んだ。
びく、と、腰が震える。
中が、目に見えてさざめいた。
「待・・・って、てっちゃん、触んないで」
それだというのに、椎名は濡れた瞳を再び開いて、一生懸命、といったふうに睨んできた。
声にも、いつもの鋭さはない。
甘さを噛み殺したそれは、てつしの背筋をゾクゾクさせる。
「いいだろ」
「ダメ・・・だって」
もう、射精できてしまう椎名の体は、まだできないてつしのように、そう何度もイくことができない。
それがわかっていて、てつしは椎名のそれを根本から弄り、ひくひくと震える先端に、親指の腹を押しつけた。
「だから、触んな・・・」
椎名の声はもう、泣きそうだ。
なんか、俺がイジメてるみたいじゃねえか。
ああ、そうか、イジメてんのか。
「いいだろ、イけよ」
自分の声が、完全にイジメっ子のそれになっているのがわかる。
それでもてつしは手を止めず、涙をいっぱいに溜めた、黒い瞳をのぞき込んだ。
「椎名のイってる顔、見てぇ」
「・・・・っ！」
椎名の中が、ぐうっと動いた。
のぞき込んだ瞳がきゅうっと閉じて、ほろりと涙がこぼれ落ち、長い睫に残ったそれが、ちらちら光ってキレイだった。
ほの赤く染まった肌の中でも、ことさら赤い唇が、何かを必死で堪えるように、ぎゅう、ときつく噛みしめられた。
やべえ、すげえキモチイイ、と思ったところで、手の中に、あたたかく濡れた感触があった。
「・・・・てっちゃんのバカ・・・」
どこかろれつの回らない、涙声は可愛かった。
「ンなこた、とっくに知ってんだろ」
世界で一番、てつしをバカ呼ばわりしているのは、他ならぬ椎名なのだ。
とりあえず中から抜いてやってから、濡れた頬にキスをする。
そうすれば、黒く濡れた瞳が、とろりと甘い剣呑さを宿して睨んできた。
イってる顔も可愛くってスキだけど、こういうカオもイイんだよな。
なんかこう、すっげえ、俺のモノってカンジ。
熱の籠もった頬に、額に、胸元に、幾度も唇を落としていると、椎名の瞳も幾分かは和らいだ。
「もっかい、いけるか？」
「・・・・・はぁ」
懲りないてつしにため息をつきながら、椎名は視線をさまよわせる。
射精できるかという意味なら、時間をかければもう２、３度はいけそうな気はするのだが、後ろを使われてしまうと、感じすぎてしまって、正直体力の方が持たない。
「一回、だけなら」
そう言ったとたんに、がばりとのし掛かれて、椎名は両手でてつしの胸を押し返した。
「でも、ちょっと休ませてくれ」
「ん」
そう言いながら、てつしの手は、椎名の肌を撫で回している。
それくらいなら許してやるのだが、てつしを受け入れていたそこに、ぬるりと指を滑り込まされて、椎名はバコンとてつしの頭をぶっ叩いた。
「休ませろって・・・！」
「ああ、悪ィ」
答えた声は、全く悪いと思っていないそれだった。
むしろ、叩いた衝撃で中をえぐられた椎名のダメージの方が、大きかった。
「あんまりキモチイイんで、つい、な」
そう言って、にっかり笑う、てつしの笑顔。
俺がその顔に弱いって、わかってやってるんだろうか。
椎名は、もうひとつため息をつく。
それを諦めの了承と取り、てつしは椎名の中から指を抜き出した。
「サンキュ」
もういいよ、と視線だけで応えると、てつしは椎名の膝にひとつ、唇を落としてから、すとんと力の抜けたそれを、まとめて抱えてひっくり返した。
「うわバカ」
そのまま腰を引き上げられ、犬のように這う姿勢を取らされて、椎名は慌てててつしを振り返った。
「この格好、ヤだって・・・！」
「俺だって顔見えねぇからヤだよ」
「だったら何で！」
とにかく逃げようと暴れる膝も、腿を掴まれると力がぬけて、むしろ崩れ落ちそうだった。
それを支えて細く滑らかな腰を抱き込み、てつしはさも当然のように言い放った。
「だって、こっちの方が深く入れるだろ」
ぞくん、と、椎名の背筋を震えが走った。
「欲しいんだろ、奥」
「ちが・・・・あっ！」
ずぷん、と一息に奥まで侵入られて、椎名は言葉を奪われた。
そのまま、てつしのもので、ずるり、ずるりと中をこすられるのが、どうしようもなく気持ちよくて。
掴んだシーツにすがるようにして、椎名は悲鳴じみた声を上げた。
「や、あ、あ、あ・・・っ」
イったばかりで敏感になっている襞は、てつしの与える刺激を受け止め切れずにびくびくと震えて。
それにきつく絞られて、てつしも幾度目かの高みを見る。
でもさ。
随分奥まで入ってるカンジはするけれど、椎名の欲しいとこまでちゃんと入ってっかな？
ちょっと心配になって、てつしは聞いた。
「気持ちいいか？椎名」
そうすれば、シーツに突っ伏したキレイな顔が、無理矢理後ろを向いて睨んできて。
それはやっぱり、あの「俺のモノ」なカオで。
「バ・・・カぁ・・・・」
ああ、椎名もキモチイイんだなってわかったから、てつしはスッゴく嬉しくなった。
「やっぱ、コッチのがいいか」
「いい訳ないだろ！」
椎名の細っこい指が、シーツを掴んでぎゅうと引く。
「だってさ」
「ぅんっ！や・・・っ！」
深く繋がった奥の方ばかりを、幾度も突くようにしてやれば、椎名は言葉を失って、小さな子供が泣くような声を上げた。
あの椎名がこんなんなっちまうなんてさ。
すっげえキモチイイからに決まってんじゃん。
だからてつしは機嫌良く、可愛い椎名を気持ちよくさせてやることに没頭した。
もちろん。
てつしも、とっても気持ちよかった。
セックスをしている時の椎名は、とても、とても可愛い。
そうして。
そんな椎名を知っているのは、てつしただ一人なのだ。