可愛い人
目の前で揺れる白い背を眺め、ヒノミヤはたまらず、熱い息を吐いた。
恐らく、地球上で最も強い男を、こうして這い蹲らせて後ろから犯し、女のように喘がせている。
それを認識することは、熱く濡れた肉の感触に、倒錯的な悦楽を加えてヒノミヤに味あわせてくれた。
「あっ、あっ、ヒノミヤぁ・・・っ」
「・・・出すぜ」
「んっ、んっ」
こくこくと頷きながら、種付けされる悦びにむせび泣く様は、彼の不遜な姿しか知らない者が見たなら目を疑うだろう。
・・・そうして、同じように泣かせたいと、思うだろう。
しかし、これを許されたのはヒノミヤだけなのだ。
「は・・・っ」
「ん、や、ぁ・・・っ」
中に出されただけで、イくように仕込んだのはヒノミヤだ。
もちろん、もともと素養はあったのだろうが・・・８０年以上、誰も触れてこなかったこの肢体を、淫らに花開かせてやったのは自分だという事実は、男の自意識を十分に満足させるものだった。
「ほれ、兵部」
「ん・・・」
今の今まで自分の中を散々に犯し、蹂躙していたものを、口で清めることに何の疑問も抱かない。
それどころか、嬉しそうに舌を使う兵部の様子に、ヒノミヤのそれが再び力を持つ。
それを感じて、兵部の舌が、更に嬉しそうにヒノミヤの雄を這い。
「あ・・・・」
「どうした？」
男のやさしい声に、ひくん、と身を跳ねさせて。
「出ちまう・・・」
そう小さく呟いて、兵部はふるりと身を震わせた。
見れば、体内に留めきれなかったヒノミヤのものが、兵部の腿を伝ってシーツを汚していた。
「こら、誰が出していいっつったよ」
ぺち、と粗相をやめない尻を叩くと、兵部は甘い悲鳴を上げ、いっそう大量の精をこぼした。
「あんっ！しょ、が、ないだろ。おまえが、こんなに出すからっ」
確かに随分出したなと、白い腿を汚して、シーツに染み込みきれずに溜まるそれを見やり。
「しょうがなくない。お仕置き」
「こら・・・っ」
ヒノミヤは、兵部の銀色の頭を片手で掴み、その染みの上に押しつけた。
「こぼしたの、全部舐めろよ」
「ん・・・っ」
自らの内に注がれ、こぼしたものを、再び舐め取らされる屈辱に震えながら、それでも赤い舌を伸ばして残さず舐め取って。
更に、シーツに染み入ってしまった精までを、布地をくわえてちゅうと吸うさまは、十分に『淫乱』の名にふさわしい。
「ほら、こっちも」
「ぇふン・・・」
苦しいほどに身を折って、自らの腿を舐める姿は、猫が毛づくろいをする様に似て。
その動物的な美しさは、男の獰猛性を沸き立たせる。
「ちゃんとキレイにしねえと、こないだみたいに泣き出すまでケツ叩くぜ？」
そのセリフに、ふる、と白い体が震えたのは。
「なんだ、期待しちまったのか」
「ちが・・・っ」
口では否定していても、甘やかに匂い立つ体全部が期待を現しているのだ。わからない訳がない。
「んー、だっておまえ、マゾなんだもん。そのうち、叩かれただけでイけるようになるんじゃねえの」
「そんなんで、イけるか・・・」
呆れたふうを装った声は、明らかに期待に満ち満ちていた。
この間は、初めて「叩くから」と宣言された上でスパンキングをされて、びっくりしてしまったのだろう。
えぐえぐと泣き出したところでやめてやったのだが。
「ほれ、キレイになってねえ。ケツ出しな」
「っ！や！」
そこまでするつもりはなかったのだが、この反応を見たならそうしない訳にはいかない。
膝に乗せて叩いてやると、反応がダイレクトにわかって良いと思ったけれど、ここはより泣かせてやるために、枕を抱かせて自ら腰を突き出させる。
彼は抱きしめてやると、何故だか無条件に安心し切ってしまうのだ。たぶん、あんまりお仕置きにはならない。
叩かれるために尻を差し出し、羞恥と期待に身を染めた恋人はたまらなく可愛くて、このままめちゃくちゃにしてやりたくなるけれど。
「その前に、栓しなきゃな」
「え・・・っ！」
ベッドの側の物入れを漁ると、目的の物はすぐに見つかった。
「こんなもん用意しといて、期待してないとかウソついた分も、おしおき」
ヒノミヤが掴み出したのは、兵部のそこにふさわしい、小さなアナルプラグだった。
「ちょ、ぼく、それ知らな・・・っ」
「ああわかってる。なんだかわかんないモンもまとめて買っただろおまえ」
ヒノミヤの可愛い恋人は、物知らずなくせに、貪欲なのだ。
「これ、こうやって使うんだぜ？」
そう言って、まだヒノミヤの注いだものをこぼそうとしている場所へ、それを押し込んでやる。
「やんっ」
刺激自体はたいしたことはないだろうが、せき止められているという実感が、兵部を感じさせているのだろう。
さっきイったばかりのものをひくひくと勃たせて、淫らにとろけた闇色の瞳が、乞うようにヒノミヤを見上げている。
「枕にすり付けんのナシな。やったらそっちもひっぱたくぜ？」
言われて、いっそう腰を上げたのは、言われたとおりに前を慰めてしまわないようにとの用心か、それとも早く叩いて欲しいとの催促か。
たぶん、どっちもだろうな。
そう思いながら、ヒノミヤは首をよじって見上げる兵部の視界にちゃんと入るように手を振りあげて。
ばちん、と尻を叩いてやった。
「ぃんっ！」
噛み殺し損なったのは、悲鳴とも嬌声ともつかないものだった。
叩かれた尻がふるふると震えているのは、余韻を味わっているのだろう。
ほんのりと上気して綺麗な桃色の肌に、赤い手の形が現れるのは目にも愉しく。
「あんっ！」
そうして、その上に重ねて手のひらを落とせば、吹い付くような肌の心地よさとともに、耳にも佳い声が上がった。
「ぅふ・・・ン・・・・」
枕に頬を擦り付けて、喘ぐ様も可愛らしい。
その彼を、もっと可愛くしてやるために。
「あっ！・・・あっ！・・・・・ぃんっ！・・・・ぅんっ！」
立て続けに手ひらをそこに打ち下ろし、その身に叩かれる快楽を刻み込んでやる。
今度は、何かちゃんと叩くもの用意してやろうかな。
でも、手で叩いてやった方がこっちも気持ちいいか。
程良い弾力の尻を打つ度に、じん、と指先まで痺れる感覚と、だんだんと熱を帯びていく様子を直に感じるのは、捨て難い快楽だ。
「ふぇ・・・」
兵部はもう、うぐうぐと泣き出してはいるのだが、前のものはつるりと剥けて、しっかりと勃起したままだ。
「嘘泣き禁止」
「やぁっ！」
ぱん、とまた打ち下ろされて、甘い悲鳴がまた上がる。
やがて、泣き腫らした目元を枕に擦りつけ、もっともっとと乞うように、尻を突き上げて見せるから。
ヒノミヤも、いっそうきついちょうちゃくを、待ちわびるそこへ加えてやり。
「あ、あ、あ、あ・・・っ！」
悲鳴と共に、触れられてもいない兵部のものから、もう随分薄くなったものが滴った。
「そのうちっつったのに、すぐなっちまったな。どんだけ淫乱なんだよ、おまえ」
赤くなった尻を揉み込めば、兵部はちいさく悲鳴を漏らしてゆらゆらと腰を揺らした。
「ひ・・・ぃン・・・」
「何、誘ってんの？」
そう意地悪く囁くと、キッ、と赤く染まった目元でもって睨まれた。
「っ、そう、だよ！」
炯々と輝く漆黒の瞳は、叩かれ、犯されるために、剥き出しの尻を高々と晒している者のものではない。
こんな屈辱的な格好を取らされていても、兵部京介は兵部京介だった。
「はやくいれろよこのばか！」
舌が完全に回っていない、幼げな口調が凄くキた。
主に、下半身に。
「あー、はいはい」
口ではおざなりに答えながら、ヒノミヤは生唾を飲んで、赤くなったそこから小さな栓を抜き取った。
そうして、抜いたとたんにこぽりと精をこぼすいやらしい場所へ、再びをれを注いでやるために自分のものを押し込んだ。
「ん、あーーーーっ」
快楽に疲れた体は弱々しく喘ぎ、しかしヒノミヤをきつく咥えてむせび泣く。
既にたっぷりと濡らされている襞が、もっと搾り取ろうと蠢いて、男を更に悦ばせた。
そこをがつがつと突いてやりながら。
「ひっぱたかれたケツにこんなでっかいのブチ込まれて、そんなに気持ちいいのか？」
ヒノミヤはそれでも、言葉で責めてやるのは忘れない。
そうしてやれば、彼がもっと感じてくれることを知っているからだ。
「わかるか？おまえん中ずっぼずぼなの。もうこれ、ずっと俺ので栓しといてやんなきゃダメなじゃねえの？」
言えば、そこはきゅうと締まり。
「離さない・・・ってか。上と違って、下の口はいい子だよなあ？」
そう、嬉しそうにヒノミヤをくわえる尻を揉み込めば、そこはふるふると悦びに咽んだ。
「やっぱもう、下だけ可愛がってやろうか？キスもフェラもなしでさ」
だって、ご褒美はいい子にだけやんないとな。
そう、意地悪く言って。
ヒノミヤは、何もしなくても真っ赤になった耳朶に後ろから囁いた。
「悪い上の口は、可愛い声だけ出せるようになるまで、お預けってことで」
「や、だ・・・」
そうすれば、兵部は無理矢理に首をよじり、快楽の涙に濡れた漆黒の瞳がヒノミヤを映した。
「キスないの、やだ」
そうだだをこねる様は、彼の外見年齢以上に幼く見えて。
「ヒノミヤの、咥えらんないの、やだ・・・」
そう言いながら、ほろほろと涙をこぼす様は、まるで子供のようなのに。
そこに大きな雄を飲んで、引き抜かれれば中の襞までヒノミヤに晒し、貪欲に揺らめいているのだからたまらない。
「あーあ、すっかりめくり上がっちまって。こんな体、もう誰にも見せられないよなぁ？」
そう責める言葉も上擦って、そろそろ俺もヤバイかも、とヒノミヤが思ったところで。
「・・・ない」
黒い瞳がきゅうっと閉じて、銀色の頭がずるりと枕に擦り付けられた。
「ヒノミヤじゃない、誰も、こんなの、ない・・・」
あー、マジでヤバイって。
「・・・俺だけ？」
「んっ、んっ」
兵部がこくこくと頷けば、ほろほろと、赤く染まった頬を涙が濡らす。
なんて、可愛らしいんだよこのジジイ。
「可愛い子には、ご褒美、な」
ご褒美、の言葉に思わず目を開けた兵部は、ちゅく、と甘いキスをもらい、とたん、それに夢中になった。
すぐにそのキスを取り上げられて、犬のように「待て」をされて。
その犬のような姿勢のまま、ヒノミヤに惨く犯されて。
それでも、兵部は幸せだった。
繋がった場所から、ヒノミヤに触れた場所から、体全部がとろけるようで。
とても、とっても幸せだった。