かりそめの
「あ・・・・っ」
身の内を深く抉る柊のものに、思わず漏れた声をかみ殺す。
「声を・・・忍人」
そう囁かれれば、背筋を駆け上がった強い刺激が、甘い痺れを伴って忍人を身悶えさせた。
「ふ、くっ・・・・・」
「あまり歯を食いしばると、歯並び悪くなりますよ。せっかく綺麗に並んでいるのですから・・・ほら」
ぐ、と顎を捕まれる。
無理矢理開かされるのかと、いっそうの力を込めたその瞬間、食い締めていた唇を、尖らせた舌でひと舐めされて。
侵入ったまま、静かに馴染むのを待っていた柊が、唐突にずるりと引いて、また、深々と貫かれた。
「ふ、あ、ああっ・・・・！」
それだけで、簡単に禁を解いてしまった赤い唇は、たっぷりと艶の乗った声をほとばしらせ。
続けてきつく責めてやれば、捕まれた髪を強く引かれ、その痛みに柊は、心地よさげにその隻眼を細めた。
先刻まで湯に浸されていた肌は、未だにしっとりとした艶を含み、わずかな湯の香が興をそそる。
深く押し開かれた下肢に感じ、ふるふると震える肌を手のひらで撫ぜれば、艶めかしい吐息と共に、忍人はきゅう、と内を締めて柊を喜ばせた。
「忍人は、私の手が好きですね」
「っ！」
藍玉の瞳が睨み上げる。
それでも「違う」と騒がないのは、それが真実だからと、柊は知っている。
神の炎に焼かれて溶けて、酷い跡の残った手のひらの、醜い凹凸や硬化した皮膚の触れる感覚が、彼にはたまらないらしい。
だから、その彼の好きな手で、彼の肌を撫で回し。
締め付ける内の具合でもって、うそつきな彼の悦ぶ様子を、計って。
「ひいら、ぎ！」
中を擦ってもらえずに、肌を撫で回される微妙な快楽に、じれた忍人が柊の腕を捕まえる。
快楽に潤み、しかし炯々とした光を失わないそれが睨んでいるのは、ただ一つ残された瑠璃紺か。
それとも、捕まえられた手のひらと同じ、焼けた右の目の跡か。
忍人の、震える腕が伸ばされて。
柊の右の手首を無造作に掴み、そうして、親指の付け根をがりりと噛んで見せた。
彼が、そうすることは予想がついていたので。
柊は、それと時を同じくして忍人の中でずるりと動いた。
「ふっ・・・・く」
指を噛んだ青年の、秀麗な眉が寄せられたのは、与えられた快楽のせいか、それとも、口腔を満たした血の味のせいか。
かみしめられた唇に、朱が刷かれていくのを楽しく眺め、それから柊は、血を流すそこに唇を寄せた。
ぐ、と、また中で動かれて。
食い込んだ歯が、深くなって。
その痛みに目を細めながら、もう一つ繋がった場所に舌を這わせる。
唇が震えているのは、快楽の為だと知っている。
己の血の味は、彼の唇を経て甘く変わり。
力の緩んだ隙を見計らい、口腔より抜き出した指の代わりに舌を差し込んで。
噛んでみせろとばかりに熱く湿った口腔を舐めまわせば、びく、と忍人の体が硬直した。
擦り寄せられた下肢に、濡れた感触。
柊は、笑いをかみ殺しながら、名残惜しくその唇から舌をぬるりと抜き出した。
そうして、荒く息を吐き出したその端を、ちろり、と舐めて。
「本当に、君は感じやすい・・・」
「言うな」
逸らされた頬が、ひどく紅い。
まるで幼い子供の頃のような色に、ひとつ残った左目を細めて。
「中が、そんなに気持ちよかったですか？それとも口づけが？・・・君は、私にこうする時よりも、される時の方が保たないから・・・」
「言うなと言って・・・っ」
藍色の瞳が炯々と睨む。
その頬が紅くて、可愛い。
「可愛い、と言っているのですけれどね」
思うままを口にすれば、ぎゅう、と腕を掴まれた。
それと同時に中も締められ、おやおや、と柊は目を見張る。
「お前も、さっさといけ・・・っ」
一度達して感じやすく熟した体に、そんな刺激は辛いだろうに。
薄い胸を喘がせて、緩く腰を揺すってみせる
虎狼将軍と恐れられる男の、こんな可愛らしい顔を見ることができるのは、自分だけ。
そう思えば、愛おしさも増すというもの。
「良いのですか？忍人？」
ず、と腰を引けば、忍人の背がびくりと反った。
「今動いては、君が辛いだろうと思ったのですが・・・」
言いながら、ずるりずるりと内を抉る。
「ふ・・・っ、ぅ」
ふるふると震える腰を抱き、深く、浅く抜き差しをして、己の快楽よりもまず、忍人の快を引き出していく。
「ああ、君は立て続けに責められるのが好きでしたね。忘れていました」
「そん、な、っあ！ああっ！」
彼を慕う部下などには、決して聞かせることのできない淫らな声を高く放ち、忍人は腰をよじらせて柊を食い締めた。
「しかし、そんな痴態を見せられては、私もそう持ちそうにありません」
「だ、から、さっさと、いけと・・・・っ」
過ぎた快にとろけた藍玉が、濡れて光って男を睨む。
たまらなく、そそる眼差し。
その上、内はびくりびくりと痙攣し、もう耐えられないとばかりに柊のものにまとわりついて。
「わかって、いますよ。・・・忍人」
彼が、柊の声で名を呼ばれることに弱いと知っての行状だ。
当然また、あの魅惑的な眼差しをもらえると思った柊だったが、予想に反して忍人は、ぎゅうっと目を瞑ってせっぱ詰まった吐息を、ひとつだけ吐いた。
「っ、は・・・・っ」
痛いほどに締め付ける中。
ふるふると震える肌に、上がりきった体温。
あの瞳は見えないけれど、きつく閉じられた眦には、大粒の涙がひとつ、浮いて。
ああ、今、忍人はわたしのことでいっぱいになっている。
それがたまらなく嬉しくて、柊は己を受け入れた痩身を、深く深く貫いて、揺すりあげた。
「や、あ・・・・・っ！」
高く高く上がった声の、その艶に、響きに。
恍惚と一つ残された瞳を細め、柊は愛しいその身を掻き抱いた。
応える腕に、未だ強い力のあることに、神以外の何かに感謝し。
かりそめの幸福に、その身を投げた。