確認行為
生殖を目的としないセックスとは、愛情を確認するための行為なのだと、どこかで読んだ。
作者は随分なロマンチストだ、と嗤った兵部は、ずっと、自分にそれは関係ないと思っていた。
ずっと、そう思ってきた。
愛情の種類は違うのかも知れないが、それはもう、十分に注いでもらった。
超能部隊のみんなに、たくさん、たくさん可愛がってもらった。
だから、もう十分だった。
そのはずなのに。
「少佐」
その声ひとつで。
向けられる眼差しひとつで。
真木が、どれだけ自分を愛しているかが伝わってくる。
触れられてしまえばもう、覿面だ。
頬を撫でる指先から、サイコメトリーしなくても、はっきり伝わってくるそれは、深い、深い彼の『愛情』。
まるで産毛を撫でるような、ささやかな接触でそれなのだ。
もっと触れ合ってしまえば、どうなるかなどわかっている。
その予感に竦む兵部の体を、真木は「失礼します」の言葉と共に、軽々と抱き上げる。
制服のシャツ越しだというのに、自分を支えるしっかりとした腕の感触が落ち着かない。
そうして、ベッドへ横たえられてしまえば。
傍若無人が売りのはずの兵部が、まるでまな板の上の鯉のように、されるがままになってしまうのだ。
先ほど指先の触れた頬に、今度は唇が落ちてくる。
それからそれが、許しを得るように口の端に触れて。
最後には、兵部の、唇に。
キスなんてものをしたのは、兵部は、真木とが初めてだ。
それが、こんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。
いや。
それはたぶん、キスが気持ちいい訳ではなくて。
触れた唇がいったん離れ、角度を変えてまた触れる。
それと同時に、いつの間にか学生服の上着が肩を滑り落ちて、その手際の良さにムカつきながら。
それでも、何を求められているのか悟って小さく口を開けると、肉厚の舌がずるりと入ってきて。
熱い体温を伴ったそれで、丁寧に口の中を舐められる。
こんなに気持ちがいいのは、たぶん、真木だからだ。
他の誰かに、こんなふうに口の中なんか舐められたら、気持ち悪さで一瞬のうちに、相手を粉微塵にしてしまうだろう。
口の奥で縮こまった舌を、大きなそれで舐められると、ぞくん、と背筋を何かが走った。
嫌悪ではない。
それどころか、もっと欲しくなるような何かだ。
「んふぁ・・・っ」
時々少し離れるのは、呼吸をさせてくれているのだと、知ったのはつい最近だ。
深いキスをされながら、髪の毛をかき回されると、触れられた場所全部が。
いや、からだ全部が、ぞわぞわするのもたまらない。
たまらなく、気持ちがいい。
でも、その気持ちいい手はすぐに離れて。
それでも、不満を訴えようとした兵部の口は、キスで塞がれたままで。
キスまで終わるのはもったいないから、むぐむぐと弾力のある舌をかじっていると、するり、と胸に大きな手のひらが当てられた。
そうして、ぽつぽつとシャツのボタンを外されていく。
腰のあたりがもぞもぞしてきた。
シャツが肌に触れているところが、落ち着かなくなってくる。
ああ、これからするんだと思うと、その期待だけで勃ちそうだ。
真木とのセックスは、いつだって気持ちがいい。
ボタンを外した手が、その下の下着をめくり上げて、直に腹に触れてくる。
そのまま、その手に力を込められれば、内蔵に致命的なダメージを与えるのは簡単だ。
しかし兵部はもう、その手から快感しか受け取らない。
無骨な指先が、誰にも触れられたくない傷跡まで這い上がり。
丹念にその凹凸をなぞっていく様子に、思わずため息が漏れた。
「ふぁ・・・」
ちょうど、息継ぎの合間だったので声まで出た。
わざとだとわかって目の前の炭色の瞳を睨むと、その目はいつものように穏やかに笑って。
しかし、その指は容赦なく、傷跡よりも更に上、胸の頂へと押しつけられる。
「あんっ」
自分のものとは思えない、甘ったるい声が出てしまうのは、今でもとてもびっくりする。
慌てて両手で口を塞いでみても、そのまま指先でそこを弄ばれてしまえば、呻きを押さえることはできなくて。
「んっ、んっ〜〜っ」
妙な声を漏らす兵部の耳元で、まるで吐息を吹き込むように真木が囁く。
「声を、聞かせてください」
「〜〜〜〜！」
声なんか、訳が分からなくなったらいくらでも聞かせてやる。
だから、今は放っておけ。
そう思いを込めて真木を睨むと、察しの良い彼は、ただ、やさしく笑って胸の上から手を引いてくれた。
しかし、ほっとしたのもつかの間。
腰のあたりでもぞもぞとした気配があって、すぐに、学生服のズボンを引き下ろされてしまった。
「・・・・っン」
肌を布地が滑っていく感触と、下肢を無遠慮に晒される感覚。
その二つに感じてしまい、塞いだ口から喉だけを鳴らした兵部のその白い腿を、今度は大きな手のひらで掴まれた。
こうして、脚を開かれる瞬間は、苦手だ。
これから、この男を受け入れるのだと実感させられて、その間が疼いてしまうのが、恥ずかしい。
はやく、触れて。
この間にねじ込んで。
訳が分からなくなるまで、感じさせて。
そう、まるで女のように思ってしまう自分を見られるのが、苦手だ。
しかも、真木の目の前に曝された兵部の脚の間は、しっかりと感じていることを示してしまっていて。
「こんなに、感じてくれたんですね」
その声にも感じて、情けなくひくひくと震えたそれを、真木は何の躊躇いもなく、その大きな口の中に咥え込んでしまった。
「あ・・・っ」
手のひらの隙間から喘ぎが漏れて、大きく腰が跳ね上がった。
兵部の性器は、未だ幼い。
無意識に成長を操作した、アンバランスな状態で時を止めてしまったことが原因だと、わかっている。
未熟なそれは皮膚も薄く感じやすく、容易に精をこぼしてしまう。
「んっ・・・」
イったばかりのそれを、大きな舌で清められたところで、兵部はやっと、自分の吐き出したものを、全部飲まれてしまったことに気が付いた。
「いきなり、それ、よせ」
「すみません」
まったく悪びれずに謝りながら、真木は内腿の柔らかいところへキスを落とす。
「あまりにも可愛らしかったものですから」
「・・・っ、ばかやろう」
そんな、感じやすいところに触れられてしまえば、イったばかりの敏感な体は、まだ触ってもらっていないところをひくつかせてしまうのに。
「少し、我慢してくださいね」
そんなこと、言われなくても。
真木との行為は我慢ばかりだ。
ずっと、気持ちいいのを我慢し続けなければならない。
腰が浮いてしまうほどに、開いた膝を深く折られる。
そうして、飲み込まずに残していたものを、さっきからひくついていたそこに、とろりと垂らされた。
ひく、と竦んだ体とは裏腹に、口を開いてしまったそこが、彼を歓待しようとしているのが、よくよくわかっていたたまれない。
一度、ローションを使われるのを嫌がってから、真木はずっとこの方法で兵部のそこを潤している。
ただ単に、ぐちゃぐちゃと音がするのが嫌だっただけなのだけれど、わざわざ撤回するのも業腹で。
でも、だからといって。
「ーーーーっ！だから、舐めるな！」
「でも、ローションはお嫌でしょう？」
「それとこれとは別・・・っ！」
自分のそんなところから、真木の声がするのもいたたまれない。
そうされるのがわかっていたから、風呂で綺麗に洗ったけど。
それは、もう、不本意ながら中まで綺麗に洗ったけど！
それでも、恥ずかしいもんは恥ずかしいのだ。
じったじったと暴れる腰を、しかし真木は慣れた力加減で押さえ込み。
可愛らしくひくつく入り口から、先を尖らせた舌をこじ込んでしまう。
「〜〜〜っ！」
だから、中まで舐めるな！
そう喚きたいが、余計な声もまた出そうだ。
兵部は、ぐうっと自分の口を塞いだ。
肉厚のしっかりとした舌が、入り口をぬるりと割り広げ、敏感な襞を、一枚一枚丁寧にめくり上げる。
それは、無骨なほどの大きさなのに、兵部の中を、器用に舐めとろかせて。
誰にも触れられたことのない薄い皮膚を、ざらり、と髭の感触が擦っていくのもたまらない。
そうして時折、ふっ、と。
熱い吐息が、そこに触れて。
その度ひやりと冷えるそこに、どれだけ濡らされているのかと、恥ずかしくなって。
「っ！ま、ぎ。もぅっ」
なんとかしろと上げた声は、高く上擦りみっともなかった。
こんな姿を晒している時点で、みっともないどころの話ではないのだが。
それなのに。
そこから舌が抜き取られれば、ちゅぷ、と嫌らしい音が耳についた。
解放されたそこがぷるりと震え、続いて体中が震えるのを、真木は、愛情たっぷりのひどく穏やかな眼差しで見下ろしているのだ。
真木のくせに。
「真木のくせに・・・っ」
「はい」
それでも、短く応えた声には、腰の奥に響くような、深い欲が見て取れた。
こいつも、ちゃんと自分の欲情しているのだと。
その事実が、兵部を安心させた。
節の立った指が、一度、開ききった口に触れ。
ちゅく、と吸い付くそこが、十分に解れていることを確かめてから、離れて。
「ふぁ」
そんな些細な刺激にさえ、漏れた声を押さえる間もなく、ぐうっと腰を押し上げられた。
あ、来る。
そう思って視線を上げる。
兵部の膝を片方、肩に乗せた真木は、空いたその手で自分の前立てをくつろげていた。
現れたモノは、兵部のものとは似ても似つかない形をしていた。
色だって、大きさだって全然違う。
こんな、ゴツくてでかいものが、僕の中に入るのだ、と。
思っただけで、イきそうになった。
「ぁ・・・・・」
思わず漏れた声と表情を、どう解釈したものか。
真木は、兵部の耳元にそっと唇を寄せて、囁いた。
「大丈夫です。痛くはしませんから」
もう十分柔らかくなっていますから、大丈夫ですよ、と。
誰もそんな心配はしていない。
真木との行為で、痛みを感じたことはない。
いつだって、真木は十分すぎるほど十分に、兵部の準備をしてからでなければ、してはくれないのだから。
「いいから」
そんなことは、わかっているから。
「早く、来い」
でないと、どうにかなってしまいそうだ。
「・・・はい」
返った声は、やはり熱くて。
その温度だけで、兵部をぞくぞくさせて。
しかし、もっと熱い熱が、真木に熱くとろかされた場所に押し当てられて。
息を、吐いて。
力を抜かなけりゃ・・・
そう、今まであまり成功したことのないことを頭の中で反復したところで、ぐうっ、と真木が入ってきた。
「ぃあ・・・・っ」
緩められた肉の輪が、ぬめった大きな質量に、無理矢理に広げられていく感触は、いつだって実は、少し怖い。
しかし、その恐怖さえも、快楽のスパイスだ。
このまま、壊されてしまいたいと、そう思う寸前に、一番大きなところが、胎内へと入りきって。
そこでいったん止まるから、「ふぁ、ぁあ、」と、息継ぐごとに変な声を漏らしながら、兵部はじっと真木を見上げた。
大丈夫だから、と、息をするのが精一杯で、役に立たない口の代わりに、瞳でそう、答えてやれば。
労るように見下ろしていた瞳に、凶暴な何かが点って溢れた。
「あなたという人は・・・」
ずるり、と。
中途半端に入ったものが、濡らされた襞を押し潰し、きつく擦り上げていった。
「ぅあ！うんっ・・・」
そのまま奥まで入られて、腹の中いっぱいに、真木の存在を感じる。
それはこんなに、強くて大きくて暴力的なのに。
「・・・っ、少佐・・・・・」
大きな手のひらが、宥めるように震える腰を撫でた。
涙の浮いた眦に、やさしい唇が降りてくる。
知らず、閉じていたそれを無理矢理開き、この後に及んで労るように見下ろす炭色の瞳を見上げた兵部は、衝動のままに、シーツを掴んでいた腕を、愛する男の首へと投げかけた。
しがみついたその体に、きつく抱きしめ返される。
自分に対する愛と欲が、体いっぱいではちきれそうだ。
自分の中に、いっぱいの、真木。
自分の体を包むのも、真木。
それを感じ入ったその瞬間、ずるり、と剛直が引き抜かれた。
それはとてもゆっくりとした動きだったけれど、兵部の中へ、ぽっかりとした喪失感を残し。
しかしすぐに、また、ぐうっと満たされていく。
縋った背中に爪を立て、感じていることを伝えると、真木は、兵部が好きだと知っているリズムで、兵部の中をかき混ぜだした。
「っ、ふン、ぅうンっ、くぅ、あ、あぁンっ・・・」
真木のそれが、自分の中を擦るたび、あられもない声が勝手に上がって。
それでももっと、と、強請るように腰が揺れた。
もっと。
もっと、真木でいっぱいにして欲しい。
「まぎぃ・・・っ」
欲求に任せて開いた唇には、望むままにキスが与えられた。
夢中になって、熱い舌に吸いつけば、真木の動きが激しくなった。
「んっ、ぅうんっ・・・」
ひと突きごとに、頭の中が白くなって。
何もかもが、どうでもよくなってくる。
大きな手のひらが膝を掴み直し、その力強さに身を震わせたそのとたん、ぐうっと腰が押しつけられた。
いっそう奥を押し開かれる快楽と、ざりざりと、固い陰毛に、柔らかな皮膚を削られる感覚。
奥で、真木の欲望が膨れ上がる。
ああ、来る、と、期待にナカが打ち震えた。
そうして、その期待どおり。
「あ、ああ・・・っ！」
たっぷりと注がれた熱いものに、そこをいっぱいに満たされて。
このまま、死んでしまいたいほどの幸福を、兵部は味わっていた。
「少佐。・・・しょうさ」
熱っぽい声。
頬に触れる手のひら。
ああ、愛されている、と。
そんな、当たり前のことに、涙がこぼれた。
この男の愛情など、わざわざセックスして確認するまでもない。
眼差しひとつで。
触れる指ひとつで、そんなものは、十分に伝わってくる。
それでも、兵部は真木の手を受け入れ、肌を合わせ、そうして、どこまでも満たされる。
そうして。
彼に抱かれて、満たされて。
そのたびに、兵部は確認する。
自分が、この男を愛していることを。
まだ、自分にも、その感情が残っていることを。