下弦
「んぁ・・・・ン」
たっぷりとそれを舐められて、ルルーシュは声を噛み殺し損なった。
絶え間なく沸き起こる感覚と、ちゅくちゅくという水音だけでも耐え難いというのに、その自分の声は、更に淫猥な響きを帯びて、少年をいたたまらなくさせる。
「ふっ・・・ん」
慌てて片手で口を塞げば、それはそれで苦しくて。
余裕を見せるつもりで撫でていた髪を、思わず掴み締めてしまい、はっとした時には、もうスザクはそこから顔を上げていた。
「気持ちいい？」
そう言うと、本当に嬉しそうに、にっこりと笑う、ルルーシュの幼馴染。
そうして、恋人。
「い・・・いから。さっさと、しろ」
言われたスザクは、「うん」とこの場にそぐわないほどの人の良い笑顔で頷いて、そうしてルルーシュの白い足をいっそう大きく開かせると、今までしゃぶっていた前に軽く唇を触れさせてから、それを後ろの狭間へと寄せ、たっぷりと唾液を乗せて、そこを潤した。
「スザ・・・っ」
「ルルーシュ、あんまり引っ張るとハゲちゃうよ」
容赦なく髪を引かれたスザクが、また顔を上げて言う。
「ハゲろ、バカ」
罵倒の言葉を吐きながらも、荒く、熱くなった吐息をごまかせないルルーシュに、スザクは「ひどい」と一声返すと、その口でぺろりと自分の指を舐め、それをそっとルルーシュの後ろにあてがった。
「もう引っ張らないでね」
「このっ・・・・っン！」
差し込んだ中は熱く、入り口はきゅうきゅうと締め付けるのに、内側の襞はやわらかくスザクの指に絡みつく。
スザクだけが知っている、イヤラシイ、ルルーシュの中。
「ててっ・・・ルルーシュ、ほんと、手、離して」
「ハゲろ」
「嫌だ」
たまりかねたスザクは、自分の髪を掴み締めるルルーシュの手首の裏の、やわらかな皮膚をついっと撫でた。
「はんっ！」
敏感になっていたルルーシュの腕は、それだけで、掴み締めていた髪を離してしまい。
アメジストの瞳が、悔しそうな光を湛えて、スザクを甘く睨む。
それが可愛くて、もっと見ていたいと思ったけれど。
自分も、ルルーシュも。
ちょっともう、限界・・・かも。
そう思ったスザクは、ずるりと指を抜き取ったそこに、もう一度舌を伸ばして湿らせて。
「だから、やめろ・・・・・」
「わかってる」
軽くルルーシュをいなしながら、彼の細い腰を抱き上げた。
やめろと言いながらも、ルルーシュの声は切羽詰った響きを帯びていて。
恐らく無意識だろう。しなやかな脚が、スザクの腰に絡んできて。
髪を掴んでいた指は、今度は、組み敷く少年の腕に爪を立てていた。
ルルーシュは、スザクの体に遠慮がない。
スザクは、こんなに気をつけてあげているのに。
そんなところもまた、可愛くて好きなんだけど、ね。
「ルルーシュ、大好き」
汗に張り付いた黒髪を、耳朶から払ってそう囁く。
そうすれば、たっぷりと濡れたアメジストが瞬いて。
ひとつ、ふたつ。
透明な雫を落として、またきつく閉じられる。
「バカ・・・・」
「ふふっ」
ルルーシュが、同じセリフを返してくれるとは、スザクだって端から思っていない。
堪えきれない快楽の涙と、可愛らしい「バカ」の一言。
スザクには、それで十分。
「っあ・・・っ！」
十分に濡らし、緩めてやっていても、最初の衝撃はやはり辛いものなのだろう。
震えるルルーシュの体を抱いて、スザクはあやしてやるように、跳ね上がった脚に口付けた。
「ごめん。もう少し我慢して」
「や・・・あ・・っ・・・・」
嫌だ、と言いながらも、不意にルルーシュの中が緩む瞬間がある。
その隙を狙って、更に深く押し入れば、ルルーシュは息を飲んで、それからぎゅっとまたきつくスザクの腕を掴んだ。
ふつ、と、皮膚の裂ける感触がして、ぬるつく何かが落ちてくる。
それでもスザクは何も言わず、奥まで含みきって震えるルルーシュの髪を、やさしく撫でた。
「馴染むまで、少し、待とうか」
「・・・・・・いい」
しかし、そんなスザクの心遣いを蹴って、ルルーシュは低く擦れた声を出した。
甘いアメジストに睨まれて、スザクはこくりとひとつ息を飲み。
それから。
「じゃ・・・動くよ」
そう言いに体を近づければ、入った中が余計に締め付けてくる。
互いに馴染んだ体でも、ルルーシュはいつも、こんな初心な反応を見せてくれる。
そんな彼が、愛しくて。
もっと、欲しくて。
スザクは絡みつく襞の中から、ゆっくりと自分を抜き出すと、小さく上がった声を楽しみながら、また、深く突き込んだ。
「っ、・・・っはあっ」
スザクが動くたびに、ルルーシュの声が甘くなる。
抱かれて、気持ちよくなってしまう体。
そんなものを自分が持っているなんて、スザクと再会するまで、ルルーシュは想像もしていなかった。
「あっ・・・や、あ。スザク・・・っ」
「・・・・・・ルルーシュ、手、こっち」
スザクは、腕に食い込んでいた指を外させ、背中に回させると、ルルーシュは今度は爪を立てずに、きゅうきゅうとしがみ付いてきた。
初めから、こうすれば良いのはわかっているのだけれど、スザクはいつもそんなことは言わないし、快楽に支配された後のルルーシュは、そこまで気が回らない。
スザクの肘から、赤い血がひと雫、ルルーシュの白い胸に落ちて。
身をかがめて舐め取ると、その胸が大きく喘ぐのが分かった。
金臭い味と、甘しょっぱい汗の味。
それが、スザクをいっそう欲情させる。
「ルルーシュ・・・・」
もう、ルルーシュの中は何の抵抗もなくて。
いっぱいにスザクを味わい、絞りつくす勢いで絡み付いている。
その、熱い襞のうねりを愉しみながら、スザクも行為を深くしていく。
「いっ、あ・・・あっ・・・・」
びくびくと跳ねる細い体。
その、気持ちの良い中を蹂躙しつくして。
そんな行為に悦ぶ体のタイミングを計りながら、スザクは淫らな襞の中で、熱いものを吐き出して。
同時に腰をよじったルルーシュは、それを感じる間もあればこそ、細い声を上げて達していた。
「・・・・シーツ、汚すなよ。咲世子さんにばれる」
「ルルーシュがやったんじゃないか」
「お前のせいだろ」
「え、僕のせい？」
互いの下肢をタオルで拭い、それでそのまま左腕に付けられた掻き傷を擦ったスザクを、ルルーシュは寝転がったまま眺めやった。
よくある、情事の後の風景だ。
体力のないルルーシュは、たいていこの後、疲れきって眠ってしまう。
「お前のせいだろうが・・・・」
それでも今日は重たい目蓋を無理やり持ち上げて、憎まれ口を叩きながら、ずるずるとスザクに這い寄ってきた。
そうして、無理に体を起こすと、すでに瘡蓋になりかけている、自分が付けた掻き傷に。
ぺろり、と、舌を這わせて。
「お前に、血を流させるのは・・・・俺だけだ」
「ルルーシュ・・・？」
スザクが呆然としている間に、そのままそこにぱたりと倒れ伏して。
そのまま、緩やかな寝息を立て始めた。
「・・・・寝ぼけてたのかな？」
めったにない、ルルーシュからのサービスに、スザクは目を瞬かせ。
それから、彼に言われたとおり、シーツを汚さないようにと傷にタオルを巻いて。
半端な姿勢で眠りこけたルルーシュを、引きずり込むようにして、一緒に布団にもぐり込んだ。
腕の中、くうくうと寝息をたてるルルーシュの、汗の匂いのする髪に、一度、キスをして。
とろとろと落ちていく眠りの中、スザクは腕の中の恋人に、言葉にせずに囁いた。
待ってて、ルルーシュ。
僕がきっと、君が安心して、生きていける世界を作るから。
瞼裏に、ふと、黒い仮面の男が浮かぶ。
それを、闇に打ち消して。
今すぐには、無理だけど。
だけど、ゆっくり。
ゆっくりと。
きっと、世界は変わるから。
明日も、軍の仕事が入っている。
まずは、ランスロットに乗って、それで・・・・
眠る恋人たちの上に、下弦の月が、浮いていた。