かぼちゃ、いっぱい
ディスプレイに映った、なんだかとってもぼろぼろな感じの旦那様に、奥様は、心配そうに眉をひそめた。
戦艦勤務の最中でも、毎晩連絡をくれる子わんこと違って、イザークは必要な連絡しかくれないから。
だいたいの事情がわかって、アスランはちいさくため息をつく。
「・・・すまん」
まずそう謝ったイザークに、アスランはうんと言って続きを促した。
「貴様の誕生日までには帰れなくなった」
「うん」
「小僧は、２日遅れでなんとか戻せるはずだ」
「ありがとう」
「プレゼントもない」
「仕方がないさ」
「本当にすまん」
「お前たちが元気でいることが、何よりのプレゼントだよ」
うう、と、イザークは感涙にむせびそうになった。
良い嫁をもらった。
軍の仕事では、何かあっても今回のように事情を説明できないことも多い。
そこを察してくれるのは、とても、とても有り難い。
「事情は、ジャンク屋メーリングリストでだいたいわかってる。シンが来られるってことは、もうその宙域は大丈夫ってことだよな、良かったよ」
「・・・・・」
なんだかもの凄く突っ込みたい単語が混じっていた気がするが、てゆか何が起こったのかは極秘のはずなのだが、とりあえず、今回は聞かないでやることにした。
後で思い出したら怒ろう。
怒る、で、イザークはひとつ、思いついた。
「そうだ、プレゼントがない代わり」
うん、とアスランは穏やかに頷いた。
「今年は、好きなだけかぼちゃをくり貫いてかまわんぞ」
穏やかだった表情が、ぱあっと明るく輝いた。
それはまるで、大人が一気に子供になったかのような。
「いいのか！？」
「・・・・ああ」
早まったか？と、イザークは思った。
「怒らないか！？」
「・・・・怒らない」
昨年は、大量にくり貫かれたかぼちゃランタンに、散々怒ってやったのだ。
それやっても怒らない、くらいなら、してやってもいいかと思ったのだが。
「ありがとうイザーク！」
なんだかめちゃくちゃ不安な上に、いつものプレゼントよりもめちゃくちゃ喜ばれ、もの凄く複雑イザークだったが。
男に、二言はないのだった。
シンは子わんこです。
ザフトで働くわんこです。
働くわんこだから、ご主人様のお誕生日に会えませんでした。
ぷんぷん。
でも、ちょっぴ遅れでお家へ帰れた子わんこ。
もう嬉しくって、わくわくお尻が浮いちゃいます。
早く帰って、ご主人様に、おめでとうって言うんだ。
それから、「とりっくおあとりーと」って言って、お菓子もらうんだ！
レイと二人で乗った自動エレカが、門をくぐって。
わあ！ってシンは思いました。
暗くなり始めたお庭には、いっぱいいっぱいいっぱーい！
かぼちゃランタンいっぱいです！
大きなお化けにぴかぴかにゃんこ。
他にもいっぱい、ハロウィンです！
「シン」
玄関前のお庭で、アスランさんが、にこにこお手手を振っています。
その周りでは、公園のお友達とそのお母さんが、にこにこきゃっきゃと笑ってます。
シンはエレカからぴょーん、と降りて。
ご主人様のところに一直線！
「アスランさん、おめでとー！」
「うん、お帰り、シン」
「とりっくおあとりーと！」
「うんうん、お菓子あるぞｖ」
可愛い子わんこ抱っこして、お菓子の包みをはいって渡して。
それから、レイにもおいでって言います。
「エレカを仕舞って来ますので」
「電源切ってそこ置いとけよ」
早く早くー！って騒ぐシンを見て。
それからレイは、ゆっくりエレカを降りました。
だってあれ、放っとくとなんか不安なんだもん。
「はい、お菓子。・・・仮装は玄関にいろいろ置いてあるから、一緒に見に行こう」
「・・・はい」
何を着せられるかわかったもんじゃありませんが、公園のお友達の前で、ザフトの赤い服着てるよりはよっぽどマシです。
そう思って、シン抱っこしたアスランさんと、玄関に向かいながら、レイ。
「随分たくさん、作りましたね」
「カガリんとこで、かぼちゃ大会やったんだってさ、だからいっぱいもらったんだ」
かぼちゃ大会・・・？
レイは首を傾げます。
「優勝のは無理だったけど、３位入賞の譲ってもらえたんだｖ」
片手で子わんこ抱っこして、片手で指さされた玄関先。
さすがのレイも、あんぐりと口を開けました。
「すっげー！」
子わんこのお口も、まっくり開きました。
そこには。
レイの背丈くらいある、大きな大きなかぼちゃ大王が、でーんっ！と鎮座しています。
でーんっ！
「・・・これは」
「だから、カガリんとこでかぼちゃ大会やったんだってさ。１位は６００キロくらいだって言ってたかな？これは３位だから５００キロ台だっていうんだけど、もう十分大きいだろ？」
かぼちゃ大会。
かぼちゃの大きさ大会、か。
レイは納得しましたが、納得したってびっくりに変わりはありません。
「写真撮って送ったら、作った人、すっごい喜んでくれたんだ。シンのとこにも送ろうと思ったんだけど、本物見た方がびっくりするだろｖ」
「すっげー！すっげーー！！」
びっくりしちゃった子わんこシン、じったじったと暴れるので、アスランさんは、かぼちゃ大王のそばに下ろしてやります。
「すっげー！」
大きなお口の中から、中を覗いて、子わんこ。
もう他になんにも言えません。
すっげー！って言いながら、大きなお尻をぴょんぴょんさせて。
「ああ、入りたいのか？」
なかなか上がんないお尻をちょいと押してもらうと、子わんこころんとかぼちゃの中へ。
「すっげー！」
かぼちゃ大王のお口から、お顔覗かせた子わんこに、いつの間にやらカメラを構え、アスランさんは、はい、チーズｖ
「これ、イザークに送ってやろう」
「うんっ！」
にっこりにっこりアスランさんに、にっこりにっこり子わんこシン。
もう、勝手にしてくださいな子わんこレイ。
ハロウィンパーティーは、楽しく楽しく過ぎていきましたｖ
『これ、腐る前に帰って来いよｖ』
一言だけメッセージの付いた、メールに付いた画像を開き。
旦那様が本当に怒らなかったかどうかは、かぼちゃ大王だけが、知っています。
「〜〜〜〜〜！！」