警邏の声が、遠く、近く、響いている。

「・・・ヒノエ」

「黙ってろ」

六波羅、何もない小屋の暗闇の中。

それでも互いの存在が明確に感じられるほど近くで。

低く発せられた声を、ヒノエはにべもなく制した。

「やはり、私は・・・」

「だから大人しくしとけって」

「・・・・」

敦盛が黙ったところで、荒々しい足音が表を騒がせる。

がたりがたりと戸を開ける音。人の、声。

「動くなよ」

今にも出て行きそうな敦盛にそう言うと、ヒノエは彼の綺麗に結った髪を乱暴に解き、蘇芳の袍引き剥がした。

「おい、この辺に怨霊が逃げ込んだのを見た者がいるんだが・・・」

形ばかりの戸の前に、足音を聞いたとたんにそれは開けられた。

衛士は、当然のようにヒノエに声をかける。

「怨霊？知らないね。お楽しみの途中だ、ジャマするなよ」

ヒノエの体の下で、白い腕が、ひくんと震えた。

「ちっ、ヒトが仕事してるってのに、このガキャ」

「それで食ってるなら文句言うなよ。ほら、行った行った」

しっしっ、と追い払う動きに、また舌打ちし、警邏の衛士は乱暴に戸を閉める。

しばらく周囲を物々しい気配が占めていたが、やがて、それも去り。

虫の声ばかりの、京の夜が戻ってきた。

「行ったみたいだ」

ヒノエが身を起こすと、半裸に剥かれた敦盛がその下から這い出す。

「すまない、助かった」

「いや、お前が俺を頼ってくるなんて、珍しいからな」

「いるとは思わなかった。小屋だけを借りようとしたんだ」

「いて良かったろ」

「そうだな」

頷く素直さは、子供の頃と変わらない。

この幼馴染は、昔から妙に可愛らしかった。

「なら、礼くらいしろよ」

可愛いからと手を出したのは、『女好き』の名に立派に恥じるのだろうが。

「かまわない」

可愛いものは可愛いのだから仕方がない。

ヒノエは、敦盛の細い顎を取り、にやりと笑って口付けた。

「んっ・・・あ・・・・ふ・・・・」

ヒノエの腰に跨って、つたなく腰を動かす敦盛は、前よりずっと体温が低い。

その内は、あたたかくヒノエを食んでいるというのに、肌は奇妙にさらさらとして。

死にたての骸とやってるみたいだな。

無論、そんなモノとしたことなどないが。

「あ、あ、ヒノエ・・・っ」

突き上げれば、声が上がる。

無理を強いれば、泣いて身をよじる。

前と後ろを一緒に弄ってやれば、首を打ち振って、達する。

そんなところは、変わらないというのに。

「相変わらず感じ易いな、お前」

「そう、か・・・？」

乱れかかった髪をかき上げ、夜目にも濡れた瞳を覗き。ヒノエはその奥に横たわる深い淵に、一瞬言葉を失った。

こいつ、は。

一体、どうして。

「ああ。クセになるぜ」

それでも、いつもどおり笑って見せる。

そうでなければ、俺じゃない。

体を入れ換え、敦盛の痩身を床に倒して一層深く抉る。

くちゅくちゅと淫らな音を立て、ヒノエを呑み込む体のいやらしさ。

それは、昔と変わらないというのに。

「は、あ。あ、ああ・・・・」

衣を解いても、解けない鎖がちゃらちゃらと鳴って、感じる波動がヒノエを揺らす。

本当にこいつ、は。

いくつになっても手のかかる。

「またイくのか？なら、俺の後にしろよ」

「無理、を、言うなっ・・・ぁ」

きつく締めたその内に精を放ち、手の中を敦盛のもので濡らして。

快楽の余韻に震える、ひとつ年上の幼馴染の、それでもつめたい身を抱き、ヒノエは低く、息をつく。

可愛い幼馴染を、こんなにしちまったのは、何なんだろうな。

抱きしめた、つめたい肌が、寂しかった。