嫌がらせ
はふ、と息をついて腰を止めた兵部の、その銀色の頭を見下ろして、皆本はひとつ、意識をして大きく息をついた。
でないと、うっかりイってしまいそうだったからだ。
ほとんど慣らしもせずに乗ってきた兵部のそこは、皆本のものをきゅうきゅうと締め付けて。
まだ少し辛そうな吐息が頬にかかるのが、男の征服欲をたまらなく刺激した。
唐突に現れた兵部が、皆本の都合もかまわず押し倒してくるのはいつものことだったが、今日の性急さは群を抜いている。
そんないぶかしさが顔に出ていたのだろう。
兵部は、皆本の首に掛けた腕を、柔らかく巻き付けるように引き寄せて。
そうして、底の知れない闇色の瞳でのぞき込んで来た。
眼鏡を外された皆本の目にも、これだけの至近距離ならば、細かい表情まで読みとれる。
「なんだよ、せっかく誕生日だから、嫌がらせに来てやったのに」
その一言で。
朴念仁なりに、兵部のことをよく理解してしまった皆本は、だいたい全部を察してしまった。
「お前それ、ただ自分がヤりたかっただけだろ」
乗ったまま動かない腰を抱いて、そう心にもないセリフを吐けば、目の前の闇色はニヤリと嗤う。
「そんなん、決まってんじゃねえか」
そうして、酷薄そうに見えて実はひどく甘い唇が、皆本のそれにかぶり付いた。
ちゅくちゅくと、いやらしい音をたてるキスを仕掛けながら、兵部の腰がつたなく揺れる。
慣れているのか、いないのか。
未だに判然としないその様子は、しかしひどく男の欲を煽るものだった。
肉付きの薄い腰を捕まえると、ひくり、と手の中で震える肌がたまらない。
吸い付くような感触を楽しみながら、それを乱暴に揺すれば、合わせたままの口の中に、苦しげな喘ぎが吐き出された。
「ん、んん・・・っく」
まだ硬いままのそこに、無理矢理含ませたのだ。痛いに決まっている。
しかし兵部は、キスを解いた唇をぺろりと舐めると、本格的に腰を揺すろうとしだした。
「僕が、乗ってんだ。勝手に動くな」
震える膝を、立てては落とす。
潤滑剤をたっぷりと使い、十分に慣らした後ならば比較的楽に行えるそれも、硬い肉で無理矢理食んでいる状態ではままならない。
「なら、ちゃんと動けよ」
「うるせえ」
黙れ、とばかりに、またキスを仕掛けられる。
しばらくはそれに付き合って、柔らかく舌を吸ってやっていた皆本だったが、徐々に、もどかしさが募ってきた。
この体が柔らかくほどけたとき、どんな快楽を醸すか知っている。
すっかり気持ちよくなった兵部の体が放つ、甘い匂いと、甘い声。
白い体を組み敷いて、腕の中でのたうたせるあの心地よさ。
たまらなかった。
「兵部、悪い」
一生懸命に、快楽を得ようと腰を振るさまも可愛らしいが、今、皆本はもう少し、直接的な快楽が欲しかった。
それに、兵部だってそうしてやった方が楽なのだ。
「ふぁ・・・っ」
一度落ちた腰を持ち上げて、一回すっかり抜いてしまうと、皆本はその衝撃でびくびくと震える体をうつ伏せに引き倒した。
そのまま、形の良い尻だけを抱き起こすと、兵部は闇色の瞳から不思議と透明な涙を落として、慌てたように睨んできた。
「待て、だから今日は僕が乗って・・・っ」
この後に及んで何を言う。
「だから、それならちゃんと動けって」
「もうちょっと、待て！」
兵部の言いたいことも、わからなくはない。
もう少し馴染めば、動きやすくもなるだろう。
しかし、そうがなりながら目の前で白い腰を揺すられて、平静を保てるほど皆本も枯れてはいない。
「悪いけど待てない」
そう答えながら、揺れる尻の狭間、赤く染まったいやらしい場所に、ぺろりと舐めた指を突っ込んだ。
「ぃ、あ・・・っ！」
まだ少し硬い、そうして当然濡れることのないそこに唾を吐きつけ、指を増やして更に深く押し込んでみる。
ぐちゃぐちゃと、弄られる快楽を知っている襞をかき回せば、それは素直に皆本の指に吸いついて。
「あんん・・・」
気持ちよさそうな声が、シーツの上にこぼれ落ちた。
うん、一度は入ったんだし、濡らせば巧くいくだろう。
「傷はついてないみたいだけど、お前もトシなんだから無茶するなよ」
「僕は、永遠の１７歳だ！」
ばたばたと暴れようとする脚を、膝を乗せて押さえ込む。
この後に及んで意地を張ろうとするところが、兵部のどうしようもなく厄介で。
そうして、慣れてしまえば、どうしようもなく可愛いところだった。
「いつも思うんだが、その微妙な年齢設定どこから出てきたんだ？」
「ふぁっ」
聞いてはいるが、答えを待つ気はなく、皆本はそこから指を引き抜いて。
自分の物にも唾液を垂らし、滑りを良くしてから。
兵部が一番感じると、知っている角度で、突き込んだ。
「あー・・・・ぁんっ！」
抱き込んだ腰が、ぷるりと震えた。
まずかったか、と思って前に指を絡めれば、しかしそれはまだイってはいなかった。
しかし、中は痙攣を繰り返している。もしかしたら、中だけイってしまったのかも知れない。
「ほら、さっきよりも気持ちいいだろ？」
それは知らない振りをしてやって、ゆっくりと腰を抜き差しすれば、兵部は深く差し込まれたそれに、押し出されるように一声吠えた。
「良くねぇ・・・っ！」
しかしそれは、まるで雌が達する一瞬のような声で。
「嘘つくなよ。ほら」
兵部の好きなように、がつがつと責め込んでやれば、もう意地を張ったセリフを吐く余裕もない。
「あああああんっ！」
高々と啼いて、中にいる皆本を引き絞り。
そうして、大きな手に包まれたそれから、だらしなく精を滴らせて。
おめでとうもなければ、プレゼントもない。
それ以上に。
誕生日に恋人と過ごす、とか。
そういうのは、自分たちには似合わな過ぎる。
だから。
「あー、悪いが兵部、僕まだなんだ」
くったりと力を失った体が、男の言葉にひくりと震えた。
「待・・・」
「お前、寝てればいいから」
それは兵部が嫌がると、わかっていて声をかけた皆本は、その言葉通りに、好きにその身を蹂躙しだす。
その体が、感じるようにと。
そんな場所ばかりを選ぶのは、ただ、皆本がそうしたいからだ。
この腕の中で、この体が気持ちよさそうにのたうってくれること。
わざわざこの日を選んで、『嫌がらせ』に来てくれたこと。
それだけで、もう、十分だから。
「兵部、もっかいイけるか？」
「年寄り何度もイかせるな・・・っ」
「永遠の１７歳じゃなかったのかよ」
「こんな時ばっか・・・あああっ！」
兵部の感じている声を心地よく聞きながら、皆本は思う。
ああ、本当にこれだけで。
結構、幸せだ。