突然の衝撃に眠りを破られて､一騎はとっさに身を起こそうとして失敗した。

少し狭いけれど､あたたかなベッドと、つまずきながら駆けて行く背中と。

目が覚めた瞬間､聞こえた苦痛の声が、胸に痛い。

この不安定な体を、受け入れたつもりだったけれど。

それでもこんなとき、苦しむ背中をすぐに追えないのは、辛い。

左手を突いて起き上がり、杖を探して立ち上がる。

こんなときのために、泊まりに来ているのに。

薬の欠片ほども役に立たない自分が情けなかった。

出しっぱなしの水道。

シンクの前に、うずくまる彼。

薬の壜が倒れて、錠剤が数粒、床にこぼれていた。

一騎がそこにたどり着くまでに、二度、体を跳ねさせた総士の痛みは、誰のものなのだろう。

「総士」

彼の側に膝を付き、長い髪に隠れた顔を覗き込む。

きつく閉じられた目蓋に、震える唇から漏れる切れ切れの苦鳴。

一騎たちがたった一度通り過ぎた苦痛を、彼はまた繰り返し味わっている。

できるだけそっと、肩に手を置いて、震えるそれを、片腕だけで抱きしめる。

杖の倒れる、乾いた音がした。

「大丈夫か、総士」

荒く吐かれた息に、大きく上下する肩。

わずかな痙攣と、遅れて体温が。

伝わるのは、それだけ。

システムで繋がっていないのだから当然だが、少しつらい。

その、痛みを。

俺にも。

同化。

その言葉が浮かんで。

不意に、手のひらが熱くなった。

「一騎」

「っ、あ・・・・ごめん」

結晶の欠片はすぐに消え、切ない気持ちだけが残る。

「いや」

震えの幾分おさまった、総士の体が軽く一騎に預けられた。

「でもな、一騎」

薬が効いてきたのか、その声はしっかりしている。

「この痛みも、僕も、僕のものだ」

「痛みは、俺たちのだろ」

「今は、僕のだ」

淡い色の髪の間から、強い光の瞳が覗く。

「だから・・・ごめん」

「わかればいい」

シンクに手をかけて、総士が立ち上がる。

それから、杖を拾う一騎に手を差し出した。

「つかまれ」

「・・・ありがとう」

掴んだ手のひらはつめたくて、それでも一騎をしっかりと支えた。

「何の役にも立たないな、俺」

「そうでもない」

総士に支えられてベッドに戻りながら、一騎はきつく唇を噛んだ。

どうして、もっと。

この体は。

「お前がいて、よかった」

一騎の痛みを知るかのように、そう言った総士は、しかし一騎の痛みを、まったく理解していない。

それでも、右が不自由な体のために、普段は人を置かない、左の腕で一騎を支えて。

嘘のつけない彼が、そう言ってくれるから。

寄せた体から、伝わる体温。

それが染み入って、痛みを癒してくれるから。

「休むぞ、一騎」

「ああ、そうだな」

二人でもぐったベッドは冷たくて、それでも、すぐにあたたまって。

二人で眠る夜は、いつも、痛くてあたたかい。

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