インターバル
ぬぷ、と、やたらといやらしい音をたてて、森次の中から早瀬のものが引き抜かれた。
とたん、どろりとこぼれ落ちてきたものは、寝転がったままの早瀬の腹を、ぼたりぼたりと容赦なく汚した。
抜かないままに、二回も出した・・・というか、搾り取られてしまったものはなんだかちょっと大量で、早瀬をすごく、いたたまらなくさせた。
「・・・ああ、すまん」
全然全くすまないなんて思っていない声がそう言って、全然全くすまないなんて思っていない証拠に、そこで後始末を初めてしまう。
「森次さん・・・」
「なんだ」
早瀬の上にまたがったまま、自分で自分のそこを押し開き、そこから更に、早瀬の放ったものを掻き出して、それがまた、早瀬の腹の上に落ちる。
幸い（？）位置的にズバリその場所は見えないけれど、見えないからこそ余計クる。
すらりと伸びた脚の間で、大きな手のひらが微妙な動きを見せている。
そのたびに、クチュ、クチュ、と濡れた音がして、ぼたりとまだ熱いものが、汗の冷えてきた腹の上に落ちるのだ。
さっきまで自分を呑んでいたあの卑猥な場所に、あの長くて綺麗な指が差し込まれ、自分でまさぐり、掻き出しているのかと思うと、治まってきたはずの息が、また上がってきそうだった。
それでも、ここで文句を言っても手伝いを申し出でも、結局どうにもならないと知っている早瀬は、ただ、率直な感想を口にした。
「エロ過ぎ」
「フン」
上気した頬を軽く歪め、わずかに笑った森次は、掻き出すものがなくなると、さっさと早瀬の上からどいて、シーツの上に座り込んだ。
ブラインドから差し込むわずかな明かりに、青白く光る滑らかな肌。
それを存分に晒したままの恋人に、早瀬はひとつため息をついて、それからティッシュの箱を引き寄せて、腹の上のものの始末にかかった。
うぅ・・・まったく、この人は。
規律正しく見えて奔放で、ストイックに見えてどうしようもなく淫らな早瀬の恋人。
もちろん、早瀬だってシたいんだから、頑張るんだけど。
頑張るんだけどー！
なんだかじたじたしている少年を無表情のまま眺め、それから森次は滑らかな動作で立ち上がり、冷蔵庫を開けて中から５００mlのペットボトルを取り出すと、その場でキャップを開けて軽くあおった。
森次の部屋の冷蔵庫には、水のペットボトルしか入っていない。
食材はおろか、コーラもビールも何もない。
これが、外国ブランドのミネラルウォーターだったりしたらそれはそれで様になるのだが、それは全部、会社の売店に入っているコンビニの、プライベートブランドのパッケージだった。
まあ、それもこの人らしいんだけどさ。
そんなことを思いながら眺めていると、白い喉が上下するのが見えて、今夜、一番初めにその口で飲まれてしまったことを思い出した。
思わず、早瀬の喉も鳴る。
ボトルの口が離れれば、その濡れた唇を、夜目にも赤い舌がぬらりと舐めた。
・・・ていうかさ。と、早瀬はどこか逃避気味に思った。
あんなのをまともに見ていては、こっちがイロイロと持たないのだ。
立つ時に少しフラつくとかしてくれりゃー、可愛げあるのにな。
そう思うのに、早瀬を飲んであれだけ動いていた腰は、いつもの安定感を保ったまま、すらりとそこに立っていた。
くそう。
次は頑張る。
少年が心に決めていると、不意に名前を呼ばれた。
「早瀬」
「ふぇ」
顔を上げれば、目の前に、ペットボトル越しに揺れる水。
ファクターでなければ、口の開いたままのそれを受け止めることは不可能だっただろう。
「いきなり投げないでくださいよ」
ぶつぶつ呟きながら、それでも喉は乾いていたので口を付けようとして、はたと思う。
ボトルは半分ほど減っている。
じゃあこれ、うわ、間接キス。
もっといろいろたくさんいっぱいしているのに、この夜最高の動揺を見せた早瀬を眺め、とさりとベッドの端に腰掛けた森次は、かすかに気配だけで笑った。
「アンタ・・・」
それをなんとなく感じ取り、むうっとしながらも、早瀬はちょっとどきどきしながら口を付けた。
キスした時に、たっぷりと交換した唾液よりも、随分薄いそれの味。
でも、このシチュエーションに弱いんだから仕方がない。
ただ水を飲むだけで、これだけ疲れる相手を好きになった自分が悪い。
残った水を一気に飲み干し、それをベッドの足元に置いた早瀬は、それから意を決して顔を上げた。
実は一連のあれこれで、またシたくなったのだ。
ヤりたい盛りナメんなよ。
そう思いながら口を開き、ねだってやろうとしたところで。
「う゛ぇ」
どっさりと押し倒されて、早瀬は情けない声を上げた。
慌ててその人を見上げれば、落ちかかった前髪の刻む、深い陰影の向こうから、獰猛な光が見下ろしていた。
睨んでいる訳でもない。むしろ楽しげに笑っているような、面白がるような。
そんな瞳に見下ろされ、早瀬の背筋を、ぞくり何かが駆け上がっていく。
性的な興奮と、それよりもっと深いところから来る、なんだか感動に近いもの。それから認めたくないけれど、ほんの少しの恐怖感。
そんなものがない交ぜになって、早瀬の肌は粟立った。
ついでに、股間のものも、勃ち切った。
それの上に膝を乗せ、気持ちいいのと怖いの間くらいの力で弄びながら、早瀬を食らう猛獣は、深い深い声で囁いた。
「まだ、いいだろう？」
ああああああああ。
なんかもう、どうしようもない。
とりあえず今は絶対勝てない。
そう思いながら早瀬は、それでも精一杯の声を上げた。
「あの、森次さん」
なんだ？と、黒い瞳がわずかに眇められて先を促す。
滅多なことを言ったなら、食い殺されること請け合いなその眼光に晒されながら、しかし早瀬はちょっと情けない声のまま言い切った。
「今度は、俺が上でいいですか？」
それを聞いた、森次玲二のその表情。
黒々と濡れた瞳を瞬かせ、それからゆうるりとそれを細め。
同時に、赤い唇が。彼の機体の象徴たる、月輪を思わせる円弧を描いて、笑った。
「・・・いいだろう」
承諾をもらったと気づくまで、ほんのワンテンポ間が空いた。
それくらい、早瀬には衝撃の微笑みだった。
うわー！うわー！うわー！
しかし、そこで怯んではこの厄介な人とは付き合えない。
早瀬はのっしりと乗ったままの体をよいしょとばかりにひっくり返し、大人しくひっくり返されてくれた人の、その笑ったままの唇にキスをした。
重なった胸は、思いの外早い鼓動を刻んでいて。
早瀬をなんだか嬉しくさせた。