ひと口で食ったね！
その男から通信が入ったのは、ミネルバへの転属を通達されて、間もなくのことだった。
先の大戦で、誤って民間船を撃ったことを理由に特務隊にこそ任命されなかったが、実際は自分以上の実力を持っている彼は、年下のクセに、既に戦艦を二つも預かっっている。
常に最前線に立ちたいのだろう彼には、皮肉な結果だろう。
「よ、久しぶり。なんかまた偉そうになってるな、お前」
「貴様はまた軽くなったか？」
「まあな」
文字通り、軽く言ったとたんに、
「フォークスのこと、残念だったな」
戦死した部下のことを持ち出された。
嫌な奴だ。
「ああ。・・・一瞬のことでな、俺にもどうにもできなかった」
「戦場では仕方のないことだ。やつも覚悟は決めていただろう」
「そうだな・・・」
本当に、嫌な奴だ。
「で、弔辞のためにわざわざ連絡くれたのか？」
無駄を嫌う「最前線の白鬼」の性質は知っているので、そう問いただすハイネの声に、イザーク・ジュールは不機嫌そうに、フンと鼻を鳴らした。
「それもあるが。貴様、今度はミネルバに配属になったそうだな」
「お、情報早いな」
まあ、議員経験もある彼のことだ、このくらいは当然か。
「既に配属されているアスラン・ザラについて、話したいことがある」
「ああ丁度いい。チーム組むんだから、動きのクセとか、少しでもいいから知っときたいんだ。ほら、アイツのデータって、ほとんど残ってないだろ？一回手合わせでもしてもらうしかないかと思ってたんだ」
アスラン・ザラ。
先の大戦の英雄、前大戦最大の戦犯の息子、それから、元ザフト脱走兵。
数々の肩書きに反して、実際に会った彼は、ハイネの目にはただの誠実で不器用な少年に見えた。
あれでは、その名は重いだろう。
「それなら、うちの隊で使っているシミュレーションデータを流してやる。エネミー０がアイツの動きのトレースだ」
まあ、ハイネも認めるこの男が、こうまで買っているのだから、実力は確かなのだろうけれど。
「よく残ってたな」
アスラン・ザラのデータは、軍本部のホストから、個人の端末に至るまで、すべてスキャンされ、デリートされているはずだ。
「早々にシミュレーションデータに書き換えたせいだろう。それより、もっと重要なことがある」
「何だ？」
ハイネが首を傾げると、イザークはさらりと、そして淡々と言ってのけた。
「食われるなよ」
「はぁ？」
食うって、何が？
間抜けに口を開いたハイネの顔を見て、イザークは心底不機嫌そうな顔をして、ぱちんと通信を切ってしまった。
はっきり言って失礼だが、なんとなくイザークらしくもある。
「食われるって・・・」
そうして、ハイネはアスランの端麗な容姿を思い出し。
「まさかなぁ・・・」
呟いて、笑った。
何故だか少し、虚しい笑いだった。
腰の下で、藍色の髪が蠢いているのを見下ろすのは、何だかとてもいい気分だった。
ためらいなく舌を絡め、遠慮なく喉奥まで飲み込まれれば、それは当然心地良く。
「どこで覚えてきたんだよ。こんなの」
聞けば、翠の瞳がちらりと上目遣いに見上げてきて、それからきゅうっと吸い付いてくるからたまらない。
「口、離せよ。出すぞ」
言って、唾液に濡れた顎を押しやってやろうとするのに、アスランはハイネの腰にしがみ付くようにしていっそう深く咥え込んだ。
濡れた赤い唇が淫靡で、そこから湧き上がる快感は、深い。
「いいのか？」
「・・・・ん」
了承が出たなら、遠慮することはない。ハイネは、やわらかな髪に指を挿し込み、淫らな動きを続けていた小さな頭を引き寄せた。
「ん、んんっ・・・」
それを受け止めるアスランの表情に、雄の本能を満足させながら。
特務だろうが隊長だろうが、人恋しい時はある。
もちろん、それを上手くコントロールすることも仕事のうちだが、問題のない相手がいれば、慰めてもらえるに越したことはない。
部下をひとり失って、隊が解散になって。それでちょっと弱ったところで酒に付き合ってくれたのが、キレイな顔したやさしい奴で、しかも同じ特務だった。
それに付け込んだと言われればそれまでだが、たぶん、今回のはお互い様だ。
その証拠に、大人しく部屋まで付いて来たアスランは、ベッドに上がるなり、服も脱がずにハイネの足の間に顔を埋めて、ご奉仕してくれた。
「んじゃ、こんどはそっちの番な」
軽く拭われただけの唇に、軽くついばむキスをして。
「いや、俺は・・・」
「遠慮するなって」
逃げを打った腰を抱き寄せて、軽く抱きしめてやれば、すぐに大人しくなる。
適度な抵抗に、雄の本能をくすぐられ、ハイネは機嫌よくアスランの赤いスラックスを下着ごと剥ぎ取ると、既に反応を示していたそれを、するりと手の中に包み込んだ。
「なんだ、久しぶりか？」
それは、たちまち張りつめて、ハイネの手のひらに心地良い熱と質感を伝えてきた。
早々に滲み出た白濁も、濃い。
「ああ、そういえば・・・シンの世話でそれどころじゃなかったからな」
「アイツも育てりゃいいセンいくんじゃないか？」
シン、というのは、ミネルバ配属のコーディネイタードッグの一匹だ。
まだ子犬のくせに、専用機を受領した、押しも押されぬエースパイロット。
その上あのキカンボーっぷりは、将来有望だとハイネは思う。
「豆柴だぞ？どうやって」
「マメシバ？」
「ああ。小型犬なんだよ」
「どうりでちいちゃいと思ったぜ・・・」
自分の膝丈にも満たないちいちゃな姿を思い出し、ハイネは思わず笑みをもらしてしまう。
「それでも、舐めてもらうくらいはできるだろ」
悪戯っぽくそう言ってみれば。
「俺は・・・こっちの方がいいな」
アスランの手が、巧みに前を弄っていたハイネの指に添えられ、そうして、それを奥に秘められた入り口へと誘った。
「なるほど。小型じゃあ、満足できないよな」
ぐっと指を押し込めば、濡らしてもいないをれを、そこはずるりと飲み込んでいく。
「あっ・・・ン」
「久しぶりにしては、素直だな、ココ」
「んっ・・・そう、か？」
「ああ。可愛いぜ」
「ば・・・か」
ゆるゆると中を撫でてやれば、感じ入ったように腰を揺らすから、それに誘われるように、指を増やし、絡みつく肉を押し広げて。
「気持ち良いか？」
「あっ・・・あ。イイ・・・でも、これじゃまだ、シンの前足の方が太いぞ・・・？」
濡れた緑の瞳が、艶やかにハイネを映して瞬いた。
思わず言葉を失って、いつのまにか余裕を失いかけていた自分に気づき、ハイネは緩く笑って自嘲する。
おいおい。俺が呑まれてどうするよ。
「じゃあ、ま、もちょっとイイモノやろうか」
「ああ。はや、く・・・」
するりと長い腕が伸びて、ハイネの首に絡みついた。
熱を帯びた指が、オレンジの髪をかき回し、引き寄せ。そうして、間近に迫った赤い唇が、濡れたため息とともに、ハイネのそれをふさぐ。
ああ、たまんないわ、コレは。
そのまましなやかな脚を押し開き、中心を穿つその一瞬。
上がった声も、また、たまらない。
「あっ、ああ・・・」
彼の中はずるずるとハイネを誘い込み、心地良く包み込んで。
奥まで含ませてやれば、淫らに腰を跳ねさせて悦ぶ。
「は・・・んっ、ああっ」
ハイネの動きに合わせ、揺れる腰のいやらしさ。
思わず、夢中になりかけて。
自分が、「いいように」動かされているのがわかって。
癪に障るのだが、思いがけないタイミングで揺り上げられ、締め付けられ。絞られる感覚は、悔しい以上に気持ちがいい。
「コラ、あんまオイタするなよ」
「なら・・・ちゃんと、しろよ」
「はいはいっと。お姫様のお気に召すままに」
「だれが・・・っ、あ、あぁ・・・」
繋がった場所がぐちゃぐちゃと音を立てて、アスランが体をうねらせる。
そのたびに、歯を食いしばってこらえてはみるのだけれど。
アスランの中は、どうしようもなく気持ちよくて。
「おい・・・いいか？」
「うんっ、あっ、ああっ・・・」
こくこくと頷いたアスランの腰を掴み上げ、互いに早すぎる絶頂へと向かいながら、ハイネの脳裏には、一瞬だけ、同僚の言葉がよみがえった。
『食われるなよ』
もちろん、それはすぐに快楽の波にさらわれて、消えてしまったのだけれど。
「いやー、参った参った。ほんとにあるんだな、食われるって」
ハイネ・ヴェステンフルスからの通信が入ったのは、彼と前に話をしてから、３日も経っていない朝方のことだった。
「だから警告してやっただろうが！」
食うだろうとは思っていたが、そのあまりの早さに頭を抱え、イザークは強くがなり返す。
「いや、ほんとすまない」
しかし、ハイネは悪びれもせずにそう言うと、カメラに身を乗り出して、イタズラっぽく笑ったのだ。
「しっかし、アレじゃ大変だろ、お前」
「何がだ」
ぎろりと睨むイザークの、薄青の瞳のその迫力。
しかし、それに気圧されるハイネではない。
「いや・・・まあいいか。ミネルバに乗ってるうちは、俺が面倒見てやるから、安心しろよ」
「いらんわ」
「はいはい」
いらんってアンタ、それ、アイツが自分の物だって言ってるようなもんだろ。
しかし、ハイネは年下の同僚の、以外に可愛い一面に免じて、これ以上突っ込むのはやめてやった。
まあ、俺だって人のことは言えないしな。
思わず洩れた笑みを噛み殺し、ハイネは軽く手を振って通信を切った。
「じゃあな」
「フン」
通信が切れる寸前まで、イザークは偉そうで。
それがおかしくて、また笑って。
それからハイネは、寝起きの悪さまで伝説にされている青年を起こしにかかった。
イザークとのやり取りを報告してやったら、一体どんな顔をするだろうと思うと、また、笑みがこぼれた。