翡翠の瞳 epilogue
この人は、なんで俺に抱かれてくれるんだろう。
「ふっ、くっ、ぅ・・・」
シンの腰に座り込んで、彼を奥まで飲み込んで。
上がっていく息を止められず、緩く首を振る綺麗な人に、シンは悪戯っぽく囁いた。
「アスランさん、気持ちいい？」
「あ、は・・・」
とたんにきつくなるそこに、深く突き込んで、喘がせる。
この人を、こんなふうに感じる体にしたのが自分だと思うと、気持ちイイのが倍になる。
「もっと、よくしてあげますから。イこう？」
自分を抱く少年にすがり付いて、涙を散らしながら頷く人に、思い切り腰を打ち付けて。
シンは、アスランの体内に、思いの丈を吐き出していた。
この人は、なんで俺に抱かれてくれるんだろう。
くたりとした体をいっぱいに抱きしめ、覚めやらぬ興奮のままにあちこちに口付けながら、少しづつ、冷えてきた頭の隅、ここしばらくシンを悩ませている疑問がまた、浮かび上がった。
聞いてしまったら、はっきりさせてしまったら。もうこうしてくれなくなるかもしれないと思うと、なかなか聞けない問い。
でも、乱れかかる髪をかき上げ、呆けたままの瞳を覗き込むと、なんだ？と優しい視線が問い返してくれるから、シンは思い切ってそれを口にした。
「あなたは、なんでまだ、俺に抱かれてくれるんですか？」
あいつらと違うのを、確かめる、とアスランは言った。
その目的はとうに果たした。
それにするときはいつも恥ずかしそうだし、体が慣れても、入れるときはやっぱり痛いみたいだし、そりゃ、最中は気持ちよくさせてあげてる・・・つもりだけど、終わった後はいつもぐったりしてるし。
俺は、アスランさんのこと好きだけど、アスランさんは俺のこと、好きなわけじゃ、ないんだし。
もちろん何があっても、この人守るって決意は変わらないけど。でも近くにいた方がいいに越したことはないし。
それより何より、やっぱり、好きなんだもんしたいじゃないか。
ぐるぐる考えるのに十分な時間、ぼんやりとシンの顔を見ていたアスランは、唐突にふい、と拳を振り上げた。
「うわっ、あ」
慌てて避けたシンを押し退けて、独り占めした毛布で濡れた下肢を隠したアスランは、そのまま膝を抱えてシンを見上げた。かわいい。
「じゃあ、なんでお前は俺なんか抱くんだよ。女の子の方が、絶対柔かくて気持ちいいぞ」
「経験あるんですかっ？」
思わず聞いたらまた拳が飛んできた。さっきよりも体勢が良かったせいか、今度は避けられずに当たってしまう。
「痛っ、て」
「一般論だっ」
あ、ないんだ。
思ったけれど、言ったらまた殴られるし、何だか嬉しかったから黙っておいた。
代わりに。
「なんでするかって、そんなの好きだからに決まってるじゃないですか。ヒトの話聞いてます？」
たくさん言った、何度も言った。辛くて思い出したくないような話に紛れて言ったのまで入れると、とにかくほんとにいっぱい言った。
「俺なんかの、どこがいいんだよ・・・・」
なんだかちょっと切ない声に、勢い込んで。
「アカデミーにいた頃から憧れてましたっ。伝説のエースっつって、綺麗で強くて格好良くって。ほんとに会ってみたら、量産型であんな動きするし、記録で見た写真よりずっと綺麗だし格好良いしあとすっごい気持ち良い声してるし密かに優しいし、なんか俺たちと覚悟違うし、でもいっつも捨て身でほっとけないっつーか、それから・・・」
「いい、もういいっ」
ほっぺたが赤い。
照れてるんだ、かわいい。
思わずその頬にキスをすると、すくめた肩がひくんと震えた。ほんとに、かわいい。
あんまりかわいいからぎゅうっと抱きしめた。
抱き返してくれる腕が優しい。嬉しい。大好き。
「じゃあ、俺の質問にも答えてくださいよ」
ひどく甘えた声が出て、少し恥ずかしい。
でも俺知ってるんだ。このヒト、甘えられるの好きなんだ。
案の定、ちらりとシンを見たアスランは、頬を赤くしたまま、うつむいて何かをもごもごと言った。
「聞こえませんよ」
知りたい。こうして、全身で甘えさせてくれる訳を。
青い髪をかき寄せて、意味不明に動く唇にキスをして。それから瞳を覗き込もうとすると、思い切り身をよじって嫌がられたけど。
「・・・・にきまってる」
「何言ってるかわかりませんてば」
動きが曖昧で、唇も読めないけれど。
なんかあの動き、すごく、気持ちいい。
「好きだからに、決まってるだろ。でなきゃ、あんな・・・」
それ以上言えなくて、毛布に顔を突っ込んだアスランを、シンはまるごと抱きしめた。
「すっげ、嬉しいっ」
嬉しくて嬉しくて死にそうだ。照れて丸くなる人が大好きだ。
「ねえ、俺のどこが好きですか？」
後ろからきゅーっと抱きつきながら、ねえねえ、と、揺すってみると、アスランはやっと顔を上げてくれた。
わずかに潤んだ翡翠の瞳が、シンを睨んでものすごく綺麗だ。
「やたらと手がかかるところだな」
「アスランさん・・・・」
情けなくなって、でもなんかそれも嬉しくて。へへ、と笑うと、綺麗な指が伸びて、シンの唇に触れた。
「それから、可愛いところ」
ちょっとむくれる。その頬を撫でて、アスランが笑った。
「まっすぐなところ」
本気で嬉しい。青い髪に頬擦りすると、ちいさく笑い声が聞こえた。
「あと、優しい、ところかな」
シンの髪に、アスランの指がすべり込んだ。
軽く引かれて、そのまま、キスをして。
シンは、いっそうきつくアスランを抱きしめた。
もう、絶対離さない。
終