heart 2
ぶ・・・・・っ、と、見た目の秀麗さも吹っ飛ばす勢いで吹き出した恋人の、目に涙まで浮かべて爆笑する様を見下ろして。
【すげえオトナになったかも自分！】と自画自賛していたシンも、さすがにブチ切れずにはいられなかった。
ってか、いられるか！
「コレくれたのアンタでしょうが！」
「ひうんっ・・・・あ・・・・」
どうも、笑い過ぎで息ができないらしく、ひーひーと喉を鳴らしたアスランは、胸を叩いてなんとか呼吸を取り戻し、こんな場合でなければドキドキしたはずの涙目で、シンを見上げた。
「うん、いや、まさか」
先に全部脱いでしまって、滑らかな肌を晒した恋人は。
その白いはずの肌を全身ピンクに染める勢いで笑いながら、自分がホワイトデーにプレゼントした、シンのパンツを指さした。
「そこまで似合うとは、思わなくて・・・っ」
アスランの指の先にあるのは、地の色もわからないほどに、赤やピンクのハートに埋め尽くされた派手なパンツ。
もちろん、シンに似合うだろうと思って買ったものだったが、だってこんなに似合うだなんて。
「凄い。嬉しい。可笑し・・・っ！」
「最後の一つが余計ですよ！」
があっと吠えたシンの前。
アスランは、伸ばしたままだった指をさらに伸ばして。
派手なパンツにそれを引っかけ、ついん、と、引きずり下ろしてしまった。
そうして。
「ちょっ」
シンが何か言う間もあればこそ。
「可愛・・・・・っ！」
もうその場に突っ伏して、爆笑に専念してしまったアスランを見下ろして、シンは拳を震わせた。
『その可愛いモンであんあん言ってんのアンタだろ！』
そう言いたいのだが、言う前に、もの凄く情けないセリフだと気がついて、なんとかそれを飲み込んだ。
「可愛い」って、それ認めちゃダメじゃん！！
アスランが何て言おうが、俺がそれ認めちゃダメじゃんー！
そう拳を握りしめて、シンのパンツに指を引っかけたまま、シーツに頬をつけて笑っている恋人を、決死の思いで見下ろした。
もう今日は、泣いてもうダメって言い出すまで許してやんないぞ、と心に決めて。
そうして。
そうしてシンは、気づいてしまった。
何だかんだと文句を言いつつも、ずっとアスランを見つめてきたシンは、気がついて、しまった。
この人が、こんなに大笑いしてるのって、俺、初めて見たのかも。
笑われてるのが自分だから、そっちが頭にきてわからなかったけど。
こんなふうに、何もかもを放り出して、手放しで爆笑してるアスランって、初めて見たと思うんだ。
放り出された長い脚が、悶えるように、じたじたと揺れた。
笑われてるのが自分だって。
しかも、よりによってネタがこれだなんて、もの凄い癪だけど。
でも、この人もこんなふうに笑えるんだな。
笑えるように、なったんだな。
そう思うと、嬉しくて。
嬉しいんだけど、やっぱりもの凄く、癪で。
シンは、アスランのくれたその凄いパンツを、ずるん、と脱ぎ捨てた。
なんだか惜しそうな視線がそれを追ったのは、もう、見ないことにする。
そんなのいちいち気にしていたら、アスラン・ザラとは付き合えない。
都合良くひっくり返ってくれていた体を敷き込むと、笑いすぎの涙で潤んだ緑の瞳が、まだ、たっぷりと笑みを含んで見上げてきた。
まったく、腹立つけどキレイなんだよなぁ、と、思いながら、キスをする。
震える舌に、まだ笑ってんのかよ！と噛みつくと、ひくひくと反応したそれが、今度はずるん、とシンの歯先をかいくぐって、口腔を舐めて、つい、と離れた。
「やっぱりお前は、赤だよな」
離れた赤い唇が、意味不明の言葉を紡ぐ。
「赤って何ですか。パンツの色ですか」
「ああ」
「こんの・・・・っ」
ああもう、どうしてくれようか。
とりあえず、ムカつくことに笑いすぎでほの赤く染まった体に手を這わせ、彼の意識を、笑いからそっちへ持っていこうと努力する。
快楽に弱いアスランは、すぐに体を震わせて、素直に感じていることを伝えてきた。
シーツを掴んでいた指が、つい、と延びて。
シンの髪に絡められ、何が欲しいのかを察したシンが、顔を近づけると、今度は強く握られて、キスの少し前で止められた。
「いててっ、何すんですか」
「ああ悪い」
なんでこの人の謝り方は、全然悪く思ってなさそうなんだろう。
そんなことを思いながら、恋人の顔をのぞき込むと。
「やっぱり、赤だ」
そう、うっとりと繰り返すから、からかわれている訳じゃないのかな、と思って。
「目の色、ですか？」
そう聞くと、アスランはちょっと考えてから否定した。
「・・・いや」
そうして瞳を潤ませて。
「パンツの色、だ・・・・っ」
このやろーっ！
思い出し笑いに恋人を取られ、ムカっ腹の立ったシンは、シーツの上を泳いでいた足を掴み上げ、そのまま大きく割り開いた。
さすがに少しい慌てたのか、揺れる腰を捕まえて。
ぺろりと舐めただけの指先で、強引に、アスランの体を開きにかかる。
「っ、こら、イタ・・・・っ」
「イタくないでしょ、キモチイイでしょ」
「気持ちいいけどイタいものはいた・・・っ、あん！」
痛い声じゃないだろそれ！
そう思いながら、急に挿れたぶん丁寧に、締め付ける肉をなだめていく。
その作業はもう、手慣れたものだ。
だって。このヒトの体、俺のだもの。
俺の、アスランさんだもの。
いやらしく絡みつく襞に生唾を飲み、感じると知っている場所を丁寧に擦り。
「ねえ、もういいですか？」
少し早いと思いつつも、また笑いを蒸し返される前にと、急いた声でシンが問う。
「仕方、ないな・・・」
それに、先ほどよりも柔らかな笑みで答えてくれたアスランにほっとして。
シンは、アスランの中に侵入っていく。
「っ、あ・・・・・っ」
やはり、少しきついのだろう。眉をひそめて喘ぐさまは、しかし壮絶に色っぽくて。
とにかく奥まで入れきって、額に張り付いた髪をかきあげると、ふわりと開いた緑の瞳が、緩やかに笑んで。
そうして、頑張って抱えていたはずの長い脚が、シンの手を外れて、そのまま腰へ絡みついてきた。
滑らかな内腿が、わき腹の薄い皮膚を擦って蠢くのがたまらない。
「アンタ、エロ過ぎ・・・っ」
言いながら、我慢できずに熱く締め付ける中を味わう。
何回シたって、キモチイイ。
このヒトの中はたまらない。
「人聞き、悪い・・・」
どこがだよ！と突っ込みたいのをぐっと堪えて、それよりも、と、一生懸命腰を動かす。
キモチイイ、し、キモチヨくなってもらいたいし。
ていうかすごくキモチイイし！
たっぷりとシンを包み込む、熱い襞が痙攣する。
見下ろしていた緑の瞳がきゅうっと閉じて、赤い唇が甘苦しい吐息をほろほろとこぼした。
あ、ヤバイ。
そう思ったとたんに、シンの腹に、熱く濡れた感触。
あ、アスランさんイってくれた。
それにほっとする間もなく、シンも、アスランの一番深いところをたっぷりと濡らしていたのだった。
アスランの長い腕が、ベッドの下に落っこちた、ハートのパンツを拾い上げる。
それを視界の端で捉え、散々絞り取られて伸びていたシンは、思わず声もなく突っ伏した。
しかし、予想していた笑い声は聞こえてこなくて。
恐る恐る目を上げると、アスランは、そんなものに向けられているとは思えない、なんだかやさしい目でそれを見ていたから。
まあ、いいやと思って。
シンはそのまま、くう、と眠ってしまった。
その寝顔を見下ろしたのは、パンツを見ているのと同じ、やっぱりやさしい緑の目だった。