はじめて！
ベッドの上で膝を揃え、早瀬はとりあえず正座をした。
「ええっと、俺、初めてなんで」
自分で言うのも何だけど、言わなくてもわかってると思うケド。
「なんかやらかしたらスイマセン」
スーツを脱いで、ネクタイを取って。
シャツ一枚になったそのヒトは、いつものかっちりとした印象が崩れただけで、ひどく淫らがましく見えた。
この状態ならやる。
絶対、なんかやらかす。
そう後ろ向きな自信たっぷりの早瀬に、森次はニヤリと口元を歪めて見せた。
「かまわんさ」
そうして、するりと眼鏡を外し、とさり、とベッドに腰を下ろした。
「初めから巧くやる奴なぞいない」
そう、レンズ越しでない黒い瞳に見下ろされ、早瀬はごくりと生唾を飲んだ。
誕生日だから、と夕食をおごってもらい、その後部屋に誘ってもらい。
もう相手にリードされっぱなしなのは、悔しいけれども仕方がない。
だって、相手は森次玲二。
なんかもういろいろと、経験豊富な年上のヒトなのだ。
サイドテーブルに眼鏡を置いた手が、戻ってきたところを見計らい、早瀬は少し慌てたように、そのヒトを引き寄せてキスをする。
触れるだけのキスじゃない。
もっと、オトナのキス。
あたたかく濡れた口腔は、素直に早瀬を迎え入れ、やんわりと舌を舐め返されて、それだけで早瀬の背筋が震える。
うわ、やっば。
もっとキスをしていたいけれど、いろいろやばいから名残惜しく離す。
そうしれば、森次もとろりと濡れた目をして、名残惜しそうに唇を舐めた。
「ええっと」
その赤さから目を離せず、結果、相手の顔をガン見している状態で、早瀬は聞いた。
「脱がせても、いいですか？」
「わざわざ聞くな」
答え方はアレだけど、べつに怒ってるわけでも呆れてるわけでもない。
それがわかっているから、早瀬は「はい」頷いて、とシャツのボタンを外しにかかった。
普段、人の匂いなんか気にしたことがなかったけれど、ひとつボタンを外すごとに、いい匂いが立ち上るような気がして。
早瀬は、思わずその胸のあたりに首を突っ込んだ。
「くふ」
意図せず漏れた声に、頭の上の方から、「くす・・・」と笑い声が聞こえる。
「笑うことないでしょう」
「そうか」
ああくそ。
もしかしてこのヒト、今日は俺が何しても許す気か？
「ええっと、こう？」
だから早瀬は、現れた胸に、とりあえず唇を押しつけてみた。
あ、気持ちいい。
てか、やっぱりいい匂い。
「ん・・・まあ、悪くはないな」
本当に、まんざらでもなさそうな声でそう言われ、早瀬は凄く嬉しくなった。
俺が気持ちよくて。
それで、森次さんが気持ちよくて。
それって一番イイコトじゃないいか。
しかし、相手は森次玲二。
そう簡単に、早瀬の思い通りになるわけがない。
「それよりお前」
さわり、と、腿のあたりに気持ちのいい感触があった。
あっと思った瞬間に、それは早瀬のかなり押し上げられているズボンの前に触れた。
「よく、我慢できるな」
「そ・・・そりゃガマンしますよ！」
てか触るな！
早瀬は慌てて腰を引こうとするが、森次はそれよりも早かった。
「ふむ」
「って、うわーっ！」
制服のベルトを素早く外し、ズボンの中に手を突っ込まれて、早瀬は思わず悲鳴を上げた。
うわやばい！
手ぇあったかい！
「これが最大、という訳でもないな」
「当たり前です！」
そんなに変わんないかもだけど！
「そうか」
「わぁっ！」
器用に片手でボタンやジッパーを外されて、ずり下ろされた下着の中からだいぶ大きくなった（最大じゃない！）ものを引っ張り出されて。
早瀬は思いきりうろたえた。
森次はそれを見てなんだか楽しそうに唇を歪め、そうしてその唇をふわりと開いて。
「ぅわ、あっ」
早瀬のものを、はくりとくわえた。
うわ。
うわーっ！
さっきキスをしたあの気持ちのいい唇が、今度は早瀬を咥えて淫らに動く。
初めてヒトの体内に触れたそれは、あまりの気持ちよさに、そう保つはずもなく。
自分のモノが、大好きなヒトの唇から出入りするという暴力的な視覚的刺激も相まって、早瀬はあっという間にイってしまう。
「ふむ」
何に対する感想なのか、小さく頷いた森次に、早瀬はその理由も怖くて聞けずにとりあえず大声を上げた。
「森次さん、あ、あのっ！」
『なんだ？』と問うて来る、黒く濡れた上目遣いに死にそうになりながら、なんとか声を絞り出す。
「あの、俺に、やらせてください」
してもらうのいいんだけど、すっごくすっごく嬉しいし、すっごくすっごく気持ちいいんだけど。
でも。
でも、俺にやらせてください。
「・・・・・」
森次は、早瀬の目を見たまま瞬いて、それから早瀬のモノをじいっと見た。
あんまりじっと見ないで欲しい。
てゆか、なんでソレ見るの？
早瀬がなんだかもじもじし出したところで、森次はやっと、ソレから手を離してくれた。
「・・・・・悪かった」
早瀬なりの必死の心意気を、どうやら理解してくれたらしい。
そう、ほっと息をつく間もなく。
「しかし、あのままでは保たなかったんじゃないのか」
あんまりに正確な状況把握に、早瀬はぐったりと頷いた。
「ハイ、その通りデス・・・」
森次は、そうだろうというように頷くと、軽く両手を開いた状態で動きを止めた。
「・・・？」
さてこれは何だろう？と首を傾げた年下の恋人に、森次はなんだか楽しそうに。
「お前が、するんだろう？」
そう言って、ほんのかすかに笑うから。
「は、はいっ！」
早瀬は慌てて、羽織ったままだったシャツから順に、脱がせていった。
胸に、喉に、唇に。
そうして戻ってしなやかな脚に。
つたなく丁寧な愛撫がくすぐったくて、森次はわずかに身もだえた。
「えっと、気持ちいい、ですか？」
「いや、くすぐったい」
即答されて、ちょっと落ち込む。
「そうですか・・・・」
俺は、触ってて凄く気持ちがいいのにな。
どうすればいいんだろう？
うーっ、っと唸って手を止めた早瀬に、仕方がないなと笑って、付け加える。
「くすぐったくて、気持ちがいいな」
「そう、ですか？」
そうすれば、がばりと顔を上げて嬉しそうに言うから、それには軽く頷いてやって。
「しかし」
手を伸ばし、のし掛かる体の腕から首、頬までを撫で上げると、少年の肌が粟立つのがわかった。
「そろそろ、欲しい」
そう囁いてやれば、ごくりと生唾を飲む気配。
「は、はい」
そう頷いて、気持ちのいい体が一時、離れる。
がたがたと、視界の外で何をやっているのかはだいたいわかる。
わかっていて、とりあえず、放置してやる。
自分でやりたいと言うのなら、手を出さないでいてやった方がいいだろう。
子供の向上心を潰すのは、大人が一番してはいけないことだ。
幸い、多少無茶をされても自分は大丈夫なのだし・・・
と思ったところで、それが来た。
投げ出された脚を、恐る恐るといった様子で捕まれて。
力を抜いて、開かせてやったところに、冷たい何かがとろりとかかって。
そこで、数秒間が開く躊躇いが、可愛らしくももどかしい。
焦らされる感覚に、思わず吐息が洩れて。
その瞬間、ずるり、と侵入ってくる感触があった。
「ん・・・・っ」
少年の指は、堅くて細い。
それでも、確かな存在感が、気持ちいい。
何の抵抗もなく、ぬるりと侵入ってしまった人差し指を、とっぷりと熱い襞に包まれて。
たまらなく、色っぽい吐息を聞かされて。
早瀬は、ちょっとしたパニックに陥っていた。
うわ！
うわーっ！
もともと、凄く色っぽいと思っていた人に、大きく脚を開いたもの凄くいやらしい格好させて。
凄く凄く、いやらしいそこに、自分の指を飲み込ませて。
それでたったそれだけで、こんなにも、気持ちが良くて。
正直、どうしたらいいのかわからない。
あわあわと、硬直してしまった早瀬に何を思ったのか。
森次は、ちらりと濡れた瞳を上げて言った。
「焦らすな、馬鹿」
「〜〜〜〜っ！」
パニックにパニックが重なると、むしろ冷静になるらしい。
それが本当に冷静な状態なのかわからないまま、早瀬はずいぶん前からシミュレート（妄想ともいう）していた通りに、ゆっくりと指を抜き出して。
そうしてまた、深々と埋め込んだ。
「ふ・・・っ」
洩れる吐息。
震える肌。
さざめくように、迎え入れる体内。
ローションを足して、指を足して。
ぐちゃぐちゃと、音がするまでたっぷりと、そこを緩めて。
「あ、あのっ、森次さん！」
それでも未経験の早瀬には、どこまでしたらいいのかわからない。
判断を仰ごうと顔を上げると、長い睫をうっすらと浮いた涙で濡らし、小さく喘いだ唇を、少し歪めて森次は言った。
「・・・いいから、来い」
「・・・っ、はいっ！」
まだかまだかと待っていたものを、濡れたそこに押しつけると、まるで吹いつくかのように、そこは早瀬の先端を押し包んだ。
後は、力を入れれば簡単に。
ぬうっとそこは、早瀬を飲んで。
うわ、わ。
口でしてもらったのも気持ちよかったけど。
けど、これ、全然違う・・・っ！
あまりの気持ちよさに耐えきれず、ずるりと引き出すとかえってもっと気持ちよかった。
見下ろせば、大好きなヒトの綺麗な顔が、何かを堪えるようにイヤラしく歪んで。
それから、真っ黒い瞳が。
とろん、としながら早瀬を映して。
「ぁ・・・・・」
と、自分の下から初めて聞くような声が上がって。
「森次さん、イヤラし・・・・」
思わずそう呟くと、黒い瞳が瞬いて、それから、赤い唇がにいっと笑んだ。
「誰の、せいだ？」
誰のって。
えっと。
俺の。
俺の、せいで。
このヒト、こんなに。
後はもう、夢中だった。
夢中で腰を揺すると、その人の体からは、ぐちゃぐちゃというイヤラしい音と、聞いたこともないような甘い喘ぎと。
それから、とんでもない快感が、どうしようもなく溢れ出た。
ほの赤く染まった肌から立ち上るのは、やっぱり、とってもいい匂い。
森次さんの、匂い。
その匂いに包まれて。
早瀬はもう、何回でも、イった。
「・・・そういえば」
ぐったりとベッドに突っ伏して、はぁはぁと息を整えていると、やはり少し乱れた息で、森次がほつりと呟いた。
「する前に、シャワーを浴るのを忘れたな」
「あ」
そういえば、と、思ってもそんなのはもう後の祭りだ。
そういや、コンドームつけるのも忘れてた。
ちゃんとカバンに入ってるのに！
「なんかいろいろスイマセン・・・・」
再びがっくりと倒れ伏す。
ああもうやっぱりやらかした！
「かまわんさ」
しかし、早瀬の大好きなヒトは、わずかに息の弾んでいる以外、まったくいつもの通りに言ってくれた。
「私も、がっついていたということだ」
「・・・・・・・」
ああもう。
だからこのヒト大好きなんだよ、と、言うとまためんどくさそうなのでとりあえず黙って。
早瀬はずるりと顔を上げ、倒れ込むようにキスをした。
応えてくるあったかい舌は、やっぱりとっても、いい匂いだった。