ぎっちょんちょん
ベッドの上にばっさりと放り出されて、アスランは目を白黒させた。
「さっさと脱げ」
言ったイザークは、もう、シャツを脱ぎ捨てている。
この年で、１歳の差は大きい。身長も体格も、明らかに彼のほうが大きいのだけれど、しょせん８歳の子供だ。その体に性を感じることは難しい。
「ほんとにするのか？」
思わず呟くと、薄水の瞳にぎろりと睨まれた。
「男が一度言ったことを違える気か？」
「いや・・・そういうわけじゃないけど」
「なら脱げ。するぞ」
ほんとに本気らしいイザークに、アスランはひとつ、ため息をついた。
月から父に呼び出されるたび、会うことの多かったこの少年を、アスランは、仲が良いとも思わなかったが、決して嫌いではなかった。
親友のキラとは全く違うタイプだ。アスランを見るとやたらとつんけんする。
しかしチェスをしても趣味の話をしても、白熱して面白いし、アスランは良く知らされていない父の仕事のことも、偉そうに言うのは気に食わないけれど詳しく教えてくれる。ありがたい存在だった。
アスランは仲良くできればいいのに、とは思っていたけれど、相手にそのつもりがないのなら仕方がない。
そんなイザークと何故こういうことになったかといえば、はじめは年相応の少年らしい好奇心と、ちょっとした意地の張り合いだった。
親の仕事の邪魔にならないようにと、自主的にふたりで出かけた公園で、たまたま見かけたそんなシーン。
見る間に真っ赤になって、行こうと促したアスランと、立ち去ることには同意したものの、アスランの初心さを馬鹿にしたイザークと。
ならお前は経験あるのかとか、この年であるわけないだろとか、でも俺は機能的にもうできるとか、ならやってみろとか・・・
そんなことを言い合って、滞在していたホテルに着いた頃には、何故か「じゃあやってみよう」になっていた。
しかも、アスランが下で。
なんだか凄く理不尽な気もするが、勢いと意地で同意してしまったことも確かで。
今更ぐだぐだ言うのは、確かに男らしくないと、アスランもやっと腹を括った。
とりあえず起き上がって服を脱いで、イザークよりも、なんだか貧相な自分の体にがっかりする。
なのにイザークは、アスランを見下ろしてニヤリと笑った。
「なかなかじゃないか」
「何が・・・」
からかわれているのだと思ったアスランが、むっとした声を上げると、イザークは心外だというように睨み返した。
「褒めてやったのに、なんだその言い草は」
「褒めてるのか？、それ」
「ちゃんとソソるって言ってるんだ」
「褒めてないぞそれ！」
ソソるとか言われて、嬉しいわけがない。
「ぐだぐだ言うな。やるぞ」
機嫌を損ねたらしいイザークに、がばりと圧し掛かられ、アスランはわたわたと慌ててしまう。
「うわ、イザ・・・」
イザークだって初めてだ。聞きかじりの知識はあるものの、アスランへの意地だけで、うっかりここまで来てしまった。
・・・・本当は、意地だけではないのだけれど。幼いイザークに自覚などあるわけもなく。
ここまで来たからには完璧にやり遂げてみせる。
イザークはそう意気込んで、とりあえずいい匂いのする胸元のあたりを舐めてみた。
「ちょっ、待っ・・・」
慌てた様子のアスランが、いつもと違って面白い。・・・ていうかその、可愛い。
絶対に言わないけど。
「暴れるな、馬鹿」
「誰が馬鹿だ・・・っ」
手のひらいっぱいに感じる肌が、すべすべのさらさらなのに、しっとりとして柔かくて気持ちいい。
指に吸い付くって、こういうんだ、きっと。
どこか感動しながら気持ちのいい肌の上に手を滑らせ、どきどきしながら下肢へと触れて。
それからイザークは、一転して不機嫌に眉をひそめた。
「キサマ、できるとか言っておきながらコレか？」
アスランのものはぐんにゃりとして、まったく何の反応も見せていない。
イザークは、今もうかなり・・・なのに。
「俺はできるなんて言ってない！やってみろって言っただけだ！」
あんまりにも、可愛くない言いよう。
「だいたい、お前にされてどうこうなるか！」
更に、そんなことを堂々と言ってくれるものだから。
「・・・・してやる」
もう意地でも感じさせてやると、イザークは何も考えず、それをはくんと咥えて見せた。
「うわっ、待っ、やんっ！」
思わず出た高い声に、ふたり、はじめは呆然とした。
「・・・・イイ声だな」
口を離し、ニヤリと笑ったイザークに。
「何がだ！」
真っ赤になったアスランは、思い切り怒鳴り返して。
「やっ、あ、ふぅ・・・っ」
文字通り、急所に逆襲されてしまい、あられもなく腰を跳ね上げさせた。
イザークの口の中のものも、なんだかどくどくいって固くなってきた。
それでも、妙に軟い舌触り。
思った以上に艶やかなアスランの様子に、イザークはソレを咥えたまま、ごくりと喉を鳴らす。
「ち・・・やっ・・・・」
それにまた感じてしまったのだろう、涙声になったアスランが、イザークの髪を掴んでぐいぐいと引っ張りだした。
「や、めろっ、おまえ・・・」
「痛った、キサマ、何をする！！」
「こっちのセリフだ！」
体を起こして顔を上げれば、アスランの濡れた瞳と目が合った。
緑の瞳を涙に潤ませ、白い肌を真っ赤に上気させて。
それでも、ぎんぎんにイザークを睨みつけている。ひとつ年下の少年。
その様子に、イザークの頭に血が上る。
頭にくるとか、いつものそういうんじゃなくて。
もっとこう、くらくらする感じ。
たまらずにイザークは、力に任せて妙に丸い印象の肩を押した。
見事にひっくり返ったアスランに、衝動のままに圧し掛かると、蹴ろうとして失敗したらしい、白い脚に乗りあがってしまって。
「あんっ・・・・ぅ」
滑らかでもの凄く気持ちいい内腿が下腹を滑り、挙句にそんな声を聞かせられれば。
「くっ・・・・」
まだ、精通を迎えたばかりの幼い少年に、堪えるとか、そういうことができるわけもなく。
「・・・・イザーク？」
唐突に固まってしまった友人に、アスランは不審げに声をかけ。
「・・・・」
そうして真っ赤になった彼の顔と、腰のあたりの濡れた感触に、つたないながらも何かを感じて・・・・しかしとりあえず安堵の息をついてしまった。
「何だキサマそれは！」
「いや、えーっと・・・」
何だと聞かれても困る。
たぶん、イザークも恥ずかしいだろうが、あんな声を出してしまった自分も、もの凄く恥ずかしい。
だからとりあえず。
「引き分け、だよな」
「何の勝負だ！？」
アスランだって知らない。
「・・・まあ、いいよもう」
本当にどうでも良くなって、ころんと寝転んだアスランは、いまだに顔を真っ赤にして拳を震わせる、ひとつ年上の少年を見上げ、何故だか可愛いなと思った。
なんだこいつ、こんな可愛いところもあるんじゃないか。
だから思わず。
ちゅ。
腹筋だけで上半身を持ち上げて、拳と同じくわなわなと奮える唇に、キスをしてみた。
実はキスなんて初めてなんだけど。
うん。悪くはない。
「このくらいは、ちゃんとできるだろう？」
「〜〜〜〜〜〜〜！！」
更に赤くなったイザークを見て、失敗したかな、と思ったけれど、すぐにイザークはいかにも無理やりな笑みを作り。
「フン、キサマで練習してやる」
そう言って、またアスランに圧し掛かってきた。
「いらない・・・んっ」
イザークのキスは、アスランの触れるだけのものとは違い、きっちりディープキスだった。
それが上手いか下手かなんて、二人とも、まったくわからなかったのだけれども。
「次はちゃんとしてやる」
偉そうなイザークをアスランはなんだか可愛くて格好いいなぁと思ったし。
「楽しみにしてるよ」
そう笑ったアスランに、イザークは見とれかけて「フン」と慌ててそっぽを向いた。
そうして、アスランはイザークに対する認識をほんのちょっとだけ改め。
イザークは、無自覚な恋に、この先も振り回されることになる。