Ghost 2
ああそうだ、俺、この人好きなんだ。
それこそ幽霊みたいな顔をして、歪んだ笑顔でシンを見上げているこの人を。
発見は突然で、しかし、驚いている暇はなかった。
「あんた幽霊なんかじゃないよ」
「だから、証拠がない」
アスランが存在したという、必要だったという、証拠が。
「あります」
「じゃあ、見せてみろよ」
できるわけがないと、嘲うその人の唇。
その、幽霊のような青さ。
「見せてやるよ！」
シンは、引きつれたような嘲いを貼り付けた唇に、自分のそれを、押し付けた。
死人のように、冷たい唇。それでも、舌を差し込んで割れば、その中は、ほのかにあたたかかった。
そのわずかな熱を、もっと引き出そうと、戸惑う舌を無理やり絡め、きつく吸い、離す。
呆けた瞳が、見上げていた。
「見せろって言ったの、あんただからな」
こぼれた唾液を乱暴に拭うと、赤い軍服を掴み、強引に剥ぎ取った。
「嫌だとか止めろとか、言うなよ」
答えはない。
されるがままのアスランの、揺れる瞳は戸惑いの表情を浮かべるだけだった。
冷たい指を、握って、噛んで。
冷たい肌を、なぞって、キスして。
冷たい体を、抱いて、抱きしめて。
「ここは、熱い」
体内に指を差し込むと、そこはちゃんと熱くて、なんだか安心した。
「・・・っ」
ほぼ無反応だったアスランが、ひくりと身を震わせたのも、嬉しい。
「あ、感じます？」
まとわりつくような襞をかきわけ、指を根元まで埋め込んで。
そう問えば、藍の髪を散らして、ふるふると首が振られた。
「じゃ、こっちは？」
うなだれたままの前に、もう片方の手で触れる。
ひく、と腰は動いたけれど、それは何の反応も示さなくて。
悔しくなったシンは、身を屈めてぱくりとそれを口に含んだ。
「や、め・・・・」
舌の上で、それがどくんと脈打つのがわかり、後ろに埋め込んだままの指が、きゅっと締め付けられる。
そんなことが嬉しい自分は、たぶんオカシイのだろうと思いながら、シンはそれを舌でなぞってみた。
「や・・・っ、ぁ・・・・・」
上がる、切れ切れの声。
ひくひくと震える肉の塊。
髪を掴んで、引かれる。
それに素直に従い、唇を離し。
大きく息を吐いたところに、二本目の指を突っ込んで。
「い・・・・っ」
「痛いですか？」
聞きながらも、ぐりぐりと好きなだけ中をかき回す。
引きつれた粘膜の途中、固いところに指が当たると腰がびくんと跳ねた。
「ここ、イイんだ。もっとしてあげる」
「やっ、やめ、シン・・・・」
「聞き分けないあんたが悪いんだからな」
その人の、体内の心地よさを、散々指で愉しんだ後。
シンは、アスランの体液で濡れた指で、自分の制服のベルトを外した。
取り出したものは、堪えきれない熱を持って。
アスランを、欲しがっていて。
「お前、何を・・・」
長い脚を抱え上げると、また、酷く困惑したような声が上がった。
バカじゃねぇのこの人、と思う。
「証拠見せろって言ったの、アンタだろ」
ホントに、バカだ。
さっきまで、シンの指を含んでいたところに、ソレを押し当てて。
まだ固いソコに、押し込んで。
「っ、痛・・・・っ！」
喉に引っかかったような悲鳴が上がる。
それでも無理やり、奥まで貫いた。
ふつ、と、入り口が切れて、血の匂いが、する。
熱い粘膜にきつく締め付けられ、すぐにでも、イきたい。
それでも、堪えて。
涙の浮いた、翠の瞳を覗き込んだ。
「あんたの中、すっごい熱い。なあ、感じてる？痛いのでもなんでもいいからさ。俺が中にいるの、わかるか？」
わからないわけ、ないだろう。
切れるほどに、押し開かれている、そこ。
シンに、体の中まで入られて。
わからないわけ、ないだろう。
「な、ぜ、こんな・・・・」
わからないアンタは、バカだ。
「だから、あんたが生きてる証拠だよ。俺あんた好きだ。俺、馬鹿かもしんないけど、幽霊に惚れるほどイカれてないからな！」
ひく、と、アスランの体が震えた。
戸惑う瞳、涙に濡れる。
もっと泣かせたくて腰を揺すると、望みどおりに、綺麗な雫がほろほろとこぼれた。
「イイ顔するね、アンタ。すっごいクる」
たまらなくなって、好き勝手に動き出す。
「ひ・・・あ・・・・」
シンが動くたびに上がる、小さな悲鳴。
見たことない、カオ。
「すげぇ、好き」
言って、キスして。
それでも、苛む動きは止めなくて。
アンタがいくらバカでも、これでわかれよ。
あんた生きてる。
生きて、ここにいる。
俺の前に、いる。
オレが、その証拠だ。
シーツに伏せられたままの顔。
ちいさく縮められた、細い体。
奇妙に骨ばったそれが、最近痩せたのだと、なんとなく、わかった。
「えっと、痛かった・・・ですよね」
背中に触れると、ひくりと強張る。それでもめげずに、そっと、撫でる。
「でも俺、謝りませんから」
こちらを向かない首筋に、キス。軽く、噛み付いて。
付いた歯形を、そっと舐める。滑らかな舌触りと、汗の辛さが心地良い。
「アンタのせいですからね。証拠見せろとか、言うから」
頭イイはずなのに、バカなことばっかり、言うから。
「しょう、こ」
かすれた声が聞こえて、それと共にかすかに震えた首から、唇を、離す。
「あんたが好きな、俺が証拠です。・・・これでわかんないとか言ったら、わかるまでヤりますよ」
覗き込むと、揺れる瞳。
すごいキレイだとか、普通に思う自分は、気づいたばっかりの恋にイカレてる。
「なんで、お前、俺なんか・・・」
アスランには、わからない。
彼の、自分への執着はわかったけれど。
体中に刻まれた痛みで、わかったけれど。
その、理由がわからない。
何故。
「理由なんか俺が知りたいですよ・・・なんであんたなんか」
ぼやいた少年は、しかし真剣な面持ちでアスランにキスをした。
「でも、俺あんた大好きなんですよ。それとか、全部否定しないでもらえますか」
それってすごく悲しいです。
言った少年の、わずかに歪められた頬に手を伸ばす。
そっと包むと、手首を取られて、そこにも口付けられて。
確かに、その唇はあたたかくて。
涙が出る。
「うわ、泣かないでくださいよ」
慌てたように涙を拭われて、首を振った。
「つっ！」
その動きが響いたのか、腰から背筋に痛みが走る。
「大丈夫ですか！？」
「・・・ああ」
ずきずきと、痛む体。
流れる血と、涙。
「・・・俺は、馬鹿だから」
本当に、わからずやの馬鹿だから。
「いつも、痛い思いをしないと、わからないんだ・・・・」
親友を討った痛み。
父に撃たれた痛み。
少年に、与えられた痛み。
一番強い感覚で、体に刻まれなければ。俺は。
「じゃあ、わかってくれたんですね」
「・・・・たぶん」
「なんですかそれ、頼りないな」
赤い瞳に覗き込まれ、その光が、痛い。
「もっと、しっかりしてくださいよ」
「うん」
「絶対ですからね！」
「うん」
「ほんとですね！？」
「うん。・・・・・シン」
俺が、呼ぶと
「はい」
ちゃんと、お前が答えるから。
答えて、抱きしめて、くれるから。
「うん・・・・」
すり寄せられた黒髪に、頬を埋める。
お前与えられた、ぬくもりと、痛み。
今は、たったこれだけしかないけれど。
それでも、確かに俺が生きている証拠があるのなら。
「大丈夫だ、よ」
きっとまだ、生きていける。
きっとまだ、何かできる。
俺は、幽霊じゃ、ない。
終