擦れ合う肉と粘膜の感触は、一騎と自分が、確かに分かたれている実感を伴い、総士の胸を熱くした。

「っ、総士・・・・」

一騎の声が、近い。

左側の見えない角度から、黒橡の髪と、意外と逞しい肩が時折見えるが、それだけだ。

「っあ・・・っ」

僕が、一騎に縋りついているから、当然か。

一騎の鼓動が皮膚と肉を通して伝わり、耳元でがんがんと鳴っている、自分のそれと揃わないことに安堵する。

一騎はここにいる。

ここで、総士を抱いている。

「・・・・っ！」

体の奥に、熱い何かが放たれる。

射精された、と思うと、自然と歓喜が沸き起こる。

僕の体が、一騎をイかせた。

そう思うとたまらなかった。

「あ・・・ぁ・・・・」

「総士・・・大丈夫か？」

欠けた視界から､一騎が覗き込んできた。

その瞳は、穏やかな茶色。

それに、指を伸ばして。

「・・・ああ。大丈夫だ」

本当は、イけなくてつらいけれど。

初めて『他人』を受け入れた場所が、血を流して痛むけれど。

それは、一騎と総士が。

二人が、ここにいる証だから。

だから、大丈夫だ。

指に触れた頬が熱くて、それが嬉しい。

身の内の痛みが、荒れ狂う熱が、重なった体が、深く繋がった場所が。

嬉しくて仕方がない。

「う・・・ぁ」

するり、と、一騎の指が､彼を感じて立ち上がっていたものに触れた。

再び、体内の一騎が動き出し、総士の中を、精神(こころ)ごとめちゃめちゃにする。

「・・・っ、放、せ､一騎」

「いいだろ、総士」

そんな顔で笑うなんて､卑怯だ。

「んっ・・・や、め・・・・」

一騎の指の触れた場所が熱い。

一騎を受け入れた場所が熱い。

一騎が､熱い。

「あっ、あ・・・・・」

背筋を駆け上がる、これが、快楽か。

一騎の背に回した腕に、力がこもった。

触れた胸が離れ､苦情を言う前に唇が下りてきた。

キスは､好きだ。

温度の違う唇。

熱い一騎の舌が､総士のそれをたっぷりと吸い上げ､稚拙ながらも口腔を愛撫しようと蠢く。

「ん、ん・・・・」

混じりあった唾液が口の端からこぼれ、徐々に温度を失って、総士の肌を濡らした。

しかし自分たちは、どうあっても混じりあわない。

同化、しない。

同じになってしまったら、こうして触れ合うこともできないから。

だから。

「ん、ぁ、一騎・・・・」

僕たちは、皮膚一枚、離れた場所で。

「総士・・・・」

愛し合う。

それが、僕たちの掴み取った、現在(いま)。

「え、と・・・総士、大丈夫か？」

「ああ。大丈夫、だ」

明らかな強がりに、一騎は毛布を引き上げながら、困ったように少し笑った。

「無理するなよ」

他の誰かに言われたなら､即座に反発しただろうが。

それでも、一騎ならばいいかと、そう思う。

傍らに投げ出していた腕を上げて、目の前に掲げてみる。

普通の、人間の、手。

蒼い結晶を綺麗だと思った日は遠く、そして、一騎も総士も、ここにいる。

「無理をしているように、見えるのか」

「見える」

「そうか」

どこからが無理なのか､もう総士にはわからないのだが。一騎が言うのなら、そうなのかもしれない。

上げた手に､一騎の指が触れた。

一本一本､互い違いに組んで。

そっと握られる圧力。

それは、総士にとって、左目に叩きつけられた力とそう変わらない。

「あの時、お前が、僕を拒絶してくれてよかった」

「本当に、そう思うのか？」

不安そうに問うのは、総士が知らぬ間につけた、一騎の傷。

それは､総士の傷と等価なのだと、どうしていまだにわからないのだろう。

「ああ。そうでなければ、僕は、こうして、お前に触れることさえできなくなっていたんだからな」

「・・・・ありがとう」

少し跳ねた、髪の先が見えて。

左の瞼に、唇が触れて。

左側に人がいるのは、本当は好きではないのだけれど。

一騎なら、いい。

総士の欠けた視界は、一騎の分。

一騎の傷つく痛みは、総士の分。

それで。

それが。

いい。

「一騎」

「なんだ」

「・・・・いや」

「なんだよ」

言いかけた言葉を、喉の奥でただの呼気に換えてから。

「やはり・・・こういうのは、気恥ずかしいものだな、と思って」

それだけなんだが。

そう呟くと、一騎はまた、瞼と、それから唇に、キスを落とした。

「総士」

「なんだ」

「愛してるよ」

「・・・・・・」

これが言えるようになるまで、きっとこいつにはかなわない。

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