feel
一騎を、初めて綺麗だと思ったのは何時のことだったろう。
それは、一騎が総士を総士にしてくれたあの日だったような気もするし、もっとずっと後、ファフナーに乗るようになってからだったような気もする。
どちらにしろ。
一騎は、綺麗だ。
電灯色に調整された小さなライトの下、総士にすべてを晒した一騎は、いたたまれなそうに身じろいでいる。
その白いからだをじいっと見下ろす総士の視線に耐えきれず、一騎は言っても無駄だとわかっていながら口を開いた。
「・・・見るな」
案の定、答えはすぐさま返される。
「見たいと、言っているだろう」
「だからって・・・」
そんな目で見るな、と。
言おうとして一騎は口を閉じた。
そんなこと、をしようとしているのだから、そんな目で見られるのは、当たり前なのだ。
一騎は、意を決して総士を見上げた。
自分の上に流れ落ちる長い髪。
自分とそう変わらない、もう、子供ではない、しかし、大人というにはまだ少し、成長が足りない体。
それを初めて、一騎は怖いと思った。
ふる、と、一騎の体が震える。
それを、総士が見止めた。
「寒いのか？一騎」
「・・・・いや」
見当外れな総士の言葉に、なんとなく、気が抜けてしまった。
どんな時でも、総士は総士、か。
そう思うと、少しだけ、気が楽になった。
「さっきから言ってるだろ。恥ずかしいんだよ」
「恥ずかしがることなど、何も無いだろう」
総士の手のひらが、一騎の頬に触れる。
それがするりと下に滑って、喉から胸へ。そうして腹部へと降りていく。
「一騎は、綺麗だ」
「・・・・」
総士の言葉にか、それとも触れられた皮膚の感触にか。
さっきから感じている、羞恥とは違う得体の知れない震えが酷くなって、一騎は言葉を詰まらせた。
「綺麗とか、言うな」
「何故だ」
しかし、総士は容赦がない。
その声音で、遠慮のない手のひらで、一騎の感覚を混乱させていく。
腹から降りた手のひらが、腿を滑って膝の上で落ち着く。
関節の形を確かめるようにゆっくりとそこを撫でた後、総士の上体が動いた。
「一騎は、綺麗だ」
「・・・・・っ！」
一騎の胸元に、総士の唇が落ちる。
手のひらは、くるぶしまでを撫で下ろし、そうしてまた膝に戻って、柔らかな力でそれを押し開いた。
「ずっと、こうしたかった」
ちゅ、ちゅっ、と、音を立てて皮膚を吸われる。
指先は内腿をくすぐるようにして、一騎の腕を捕まえていたもう片方の手は、手首を伝って一騎の指に絡められた。
総士に、愛撫されている。
その現実だけで、一騎を混乱させるには十分だった。
肌に感じる総士の指、手のひら。
唇が胸の先に当たった時に感じた衝撃。
そのまま吸われれば声が上がった。
自分のものではないような、高い声だった。
「あ・・・っ」
脚に触れていた指が、皮膚に食い込む。
反射的に、逆の脚が跳ね上がるのが不思議だった。
「感じるか？一騎」
胸から唇を離して総士が問う。
「そういうこと、言うなって・・・・」
一騎はもう、泣きそうだった。
総士に触れられる嬉しさと。
総士に触れられる、恥ずかしさ。
総士の指先ひとつ、視線ひとつに、翻弄されて、なんだか【自分】が溶けて消えてしまいそうな気がする。
それだというのに、総士は真顔で言うのだ。
「お前が感じてくれなければ、意味がない」
一騎に、総士を感じさせながら、言うのだ。
「僕を、感じてくれ。一騎」
一騎は、もう、総士の与える感覚で、いっぱいいっぱいだというのに、だ。
きゅう、と総士の手を握り、その硬さ柔さを感じながら、一騎はふと思いついて、総士の瞳を見返した。
一騎は、総士を感じている。
なら。
「お前は、俺を感じているのか」
「ああ」
答えは、すぐさま返ってきた。
「そうだ。一騎を感じている」
そう答えた唇が、また、戻って一騎のそれに触れた。
触れて、すぐに離れたのに。
一騎を、十分に、感じさせるキス。
そうして。
「お前に、ずっと、触れたかった・・・」
総士の声の、最後はひどくかすれていた。
それが、自分への欲のためだとわかって、一騎は胸がいっぱいになった。
総士が、こんなにも、自分を欲しがってくれている。
それは、一騎の羞恥を追いやるほどの感動だった。
「・・・総士」
一騎の右手は、総士に握られたままだった。
指の質感を感じるように、強弱をつけて握られたかと思うと、今度はそれぞれの指の腹で丁寧に、指や手の甲を撫でさすっていく。
その手を、きゅうと握り返し。
一騎はもう片方の手を、総士の髪に絡ませた。
皮膚が、敏感になっている。
たったそれだけで、指先からぞくぞくと快感が這い上がる。
「総士」
手は握り合ったまま。
脚には、手のひらが触れたまま。
それでも。
それ以上に。
「もっと、お前を感じたい」
「・・・・」
総士の瞳に、獰猛な何かが閃いた。
垣間見ただけの一騎を、一瞬どきりとさせたそれを、総士は無理矢理押さえつけた。
「・・・わかった」
答えた総士の体が、少し、一騎から離れる。
どうして、と、問う前にまた一騎の脚に触れた総士は、それを大きく押し開いた。
右脚など、膝を掴まれて持ち上げられて、一騎の恥ずかしい場所が、全部、総士の前にあらわになった。
「・・・・・・っ」
ひくん、と身をすくめた一騎をなだめるように、内腿の柔らかいところに、幾度か唇が落とされて。
それから。
ずるり、と、自分の中に、何かが入ってくるのがわかった。
総士の指、と思ったとたんに、今度は反応しかけていた前を熱く濡れた何かに包まれる。
「・・・っ！」
いやだ、と、漏れそうになった言葉を、一騎は必死に飲み込んだ。
その代わりにびくりと腰が跳ねて、弾みで一度、総士は一騎のものを唇から落として。
大きく見開かれた一騎の瞳と、下から見上げる総士の瞳がふと合った。
それでも構わす、総士はもう一度、一騎のものをくわえ込んだ。
「ーーーっ、そう、し」
くわえられただけでなく、中の指も深くされた。
異物感は辛くはなく、しかしどうしたらいいかわからない、焦燥のようなものが酷く残った。
何かで濡らしたのだろうか。そこから垂れ落ちた何かが、皮膚の上でひやりと冷えるのが、余計に中の感覚をかき立てる。
「総士、そう・・・っ」
ずるり、ずるりと、総士の指が、一騎の中で動く。
くち、くち、と一騎のものに、たどたどしい舌が触れる。
その度に体をびくつかせ、一騎はますます募る焦りともどかしさの塊のようなものに、体中を侵されていく。
「や・・・・っ！」
く、と、入り口を広げられたのがわかった。
それをしたのが、あの綺麗な指先だと思ったとたん、耐えられなくなった。
「つっ！・・・あ・・・・ぁ・・・・・」
自分でする時とは、比べものにならない快感。
しかも。
「総士っ！」
ごくん、と、総士の喉が動く音が異常に大きく聞こえて、一騎は慌てて身を起こした。
「な・・・お前・・・・飲んだのか？」
ちらり、とこちらを見た総士の唇が、白く濁ったもので汚れている。
「べつに、かまわないだろう」
総士は、それをすいと指で拭い、それからそれを、ぺろりと舐め取ってしまった。
「一騎が感じてくれた、証だ」
いたたまれなくてもう泣きたい。
こんな総士だと知って好きになったのだけれど。
好きに、なったのだけれど。
「いいか？一騎」
「あ・・・・」
くち、と、総士の指が、一騎の中から引き抜かれた。
いつの間にか、三本そろえられたそれは、しかし、抜かれる時にはそこを開くようにして。
一騎を、また、感じさせてしまった。
「・・・・・・・」
なんにも言えない一騎は。
ただ、こくりと頷いた。
脚を大きく開いて、頬を真っ赤に染めて。
こく、と頷いた一騎の顎を取ると、総士はちゅ、と口づけた。
たったそれだけで、ひくんと震える一騎がいとおしい。
いとおしくて。そうして。
欲しい、と、思ってしまう。
しなやかな脚を更に開かせて、その間、これから自分を受け入れてくれるところをのぞき込む。
視線を感じて身じろぐ仕草は、無意識だろうが、誘っているようにしか見えなかった。
今すぐにでも入れてしまいたいけれど、大事な一騎を傷つけてしまわないように、ローションを手に取ってそこに足す。
冷たくはないはずだけれど、それだけで、また、一騎の体がひくんと跳ねた。
「・・・一騎」
呼べば、閉じられてしまっていた瞳が開かれる。
恐る恐る、というように見返す茶色の瞳。
それを、じいっと見返して。
「入れるぞ」
総士は、そう、宣言した。
「ーーーーーっ！」
びく、と、一騎の体がひきつった。
総士の指を感じていたそこに、熱量も質量も、比べものにならないものを感じたのだ。
それが、ぐうっと押しつけられて。
そうして。
「あ・・・・っ！」
それが、入ってきて。
それが、総士で。
ぎゅう、と自分を支えようとする体にしがみつけば、それは、確かに抱き返してくれた。
ああ、総士だ、と思うと、確かに感じていたはずの、痛みも圧迫感もどうでもよくなった。
総士が今、自分の中にいる。
それを、確かに、感じる。
一騎は、もう、それだけになって。
それで、もう、十分だった。