Fast food Fast mind
その日、特務室室長は、いつもどおり仕事をしていた。
もちろん早瀬は、それを見越してやって来たのだが。
「今日、俺誕生日なんすケド！」
「そうか」
思った通りに、森次の態度は淡泊だった。
そんなこと、もちろん早瀬の想定範囲内だが、それでもやっぱりダメージは大きかった。
あのさ、えっとさ。
たぶん俺ら、一応付き合ってんじゃないのかナァ。
キスもしたし、セックスだってした。
まあ、それでつなぎ止められるようなヒトじゃないことくらい、わかってはいるのだけれど。
「なんかくれるとか、メシおごってくれるとか、それくらいあってもいいんじゃないですかぁ？」
早瀬軍団で誕生日パーティーだと、騒ぐ道明寺たちをぶっちぎってまで特務室に来たのだ。
何も無しには帰りたくないと、あしらわれるのを承知でだだをこねる。
案の定、森次は呆れたようにやっと顔を上げて。
「１６になったとは思えない言いぐさだな」
そう、冷たく言い捨てて、また、ディスプレイに視線を戻した。
「・・・・っ！」
すげえ、すっげームカつく！
なんで俺、こんなのが好きなんだよ！
なんだか無駄に自分に絶望しかけたところで、森次がかたんと立ち上がった。
見れば、ディスプレイは黒く沈黙している。
「丁度、食事にしようと思っていたところだ。近場でいいなら、おごってやる」
「・・・・」
「どうした、早瀬」
１０センチ以上の高さから、眼鏡越しに見下ろされ、早瀬はやっと我に返った。
「ハ・・・ハナシわかるじゃないですか」
ちょっとびっくりしたなんて、悔しくって言えなかった。
「・・・なんでよりによってコレですか」
「一番早いからだ」
連れて行かれたのは、社内のハンバーガーショップだった。
好きなものを頼めと言われて、一番高いセットを２つ頼む。
そうすると、森次も同じものを同じだけ、頼んだ。
なんだかとっても腹が立つ。
「アンタ、金持ってんじゃないの？」
「ああ」
「じゃあなんでこれ！？」
「時間がないからだ」
早く食え、と言われて、ひとつめにかぶりつく。
意地で、一気食いをする。
「・・・消化に悪いぞ」
「アンタが言うな」
自分のハンバーガーに一生懸命になっているうちに、向こうのＬサイズポテトが半分以上消えていた。
いつの間に食ったんだよ。
「もっといいもん食べられると思ったのに・・・」
コーラをすする。
しまった、オレンジジュースにすればよかった。炭酸で腹がいっぱいになる。
「仕方がないだろう。私は忙しいんだ」
同じくコーヒーをひとくちすすり、長い指でハンバーガーの包みを開きながら、森次が言う。
「お前が壊した公園の報告書、お前が壊した埠頭の被害明細、お前が壊した・・・・」
「えっと・・・ドウモスイマセンデシタ」
分の悪さを認めて、とりあえず謝る。
謝ってから思う。
「てゆかソレ全部アンタがやってんの？人材の無駄じゃないですか凄く！」
このヒトが、無駄に有能だということは、早瀬だって知っている。
「仕方がないだろう、その場にいた人間でないと作れない書類だけだ」
他は事務方にやってもらっている、と、言った声が、憮然としていて。
そのセリフを吐いた口が、ばくりと大きなハンバーガーにかぶりついた。
それを、あっと言う間に飲み込んで。
「月末にはだいたい終わるから、その後だったら付き合ってやる。それまでは我慢していろ」
それはたぶん、誕生日云々じゃなくてただのデートなんじゃないかなぁと、早瀬は思って。
それでも。
がつがつとファーストフードを平らげる室長という、珍しいものを見ることができたので、誕生日プレゼントは、これで満足することにした。
「あの」
「何だ」
「消化に悪いですよ」
「お前が言うな」
これからこんなカオ、もっといっぱい、いろいろ見られるのかなと思うと。
なんだかとても、わくわくした。