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「なあ、ヤろうぜ」
閉めたばかりの車のドアを、こじ開けるなり圧し掛かってきた男を、劉鳳は邪険に押しのけた。
「何だ、藪から棒に」
「ああ、なんつか」
カズマは悪びれずに、自分を押し返す腕を捕まえて。
「お前の手ェ見てたら、なんかすげえグッとキた」
そう言って、なぁなぁいいだろ、と猫のように懐く。
劉鳳はしばし思案した。
襲撃は小規模で、しかもカズマとかち合ってしまったのですぐに片付いた。
アルター発動後の辛さは多少残るが、懐いてくる体温が、丁度欲しい頃合いでもあったので。
「後ろに行け」
ここは狭い、と、相変わらずぶっきらぼうに言う劉鳳の指先を、カズマは笑って、ぺろりと舐めた。
正直、カズマは元々、セックスに積極的な方ではなかった。
実はそれなりにモテるのだが、興味本位の時期が過ぎ、こんなもんかと思ってからは、女に興味もなくなっていた。
目の色変えて女を追い掛け回す、野郎共の気が知れない。
そんなことよりも、強い奴とケンカをしていた方が、よっぽど楽しかったのだ。
そう、思っていたのに。
リアシートに押し倒した体が、居場所を定めるようにわずかに身じろぐ。
その仕草だけで、たまらなく欲情した。
さっきだってそうだ。
じゃあなと軽く上げられた指の、きれいに伸びたその先が、ゆっくりと下ろされて、軽くこぶしに握られる。
今さっきまで、肩を並べて戦っていた男の、たったそれだけの動きに、思わず後を追って閉じられたばかりのドアをこじ開けていた。
俺ってホモだったんかな。
でも、コイツの他にはこんなんならねえんだよなぁ。
シャツの下に手を突っ込み、柔らかさとは無縁の肌を撫で回す。
汗や埃を落としていないそれは、それでもしっとりと指に吸い付いて気持ちが良かった。
「は・・・っ」
上ずった息が漏らされる。
ああ、コイツもキモチイイんだな。
そう思うと、嬉しくなった。
顔を覗き込めば、キレイな眉がひそめられ、たぶんほとんど反射だろう。濡れた瞳で睨まれた。
薄く開かれた唇も濡れていて、甘い吐息をこぼしている。
誘われるように口付ければ、舌が絡んで、もっと気持ちよくなって。
胸を撫で回していた手を下肢に持っていくと、協力するように腰が動く。
カズマのやり方に慣れた体。
そう思うとたまらなかった。
劉鳳の体に触れるとき、カズマの手はらしくないほど丁寧に動く。
アルター化の後遺症で、ひどくささくれ立った指に中を押し開かれても、苦しいと感じたのは、ごくごく最初のうちだけだった。
奥まで入り込んだかと思えば、襞をなぞりながらゆっくりと戻り、そうして入り口をなだめるようにゆるゆると抜き差しされる。
「・・・・ふっ」
それを、快感と捉える自分の体を、劉鳳は、厭わしいとは思わない。
この行為は、互いに互いを刻むものだ。
それはたとえば、拳を交わすことと同じ。
互いの命を、刻むものだ。
だから。
こんなことは、こいつとしか、できない。
見上げれば、熱のこもった隻眼が自分を見下ろしている。
閉じられたその片眼を、自分がやったと思えば誇らしく、そうして同時に、何故だかほんの少しだけ、惜しくもあった。
「なあ」
とろとろと、緩やかな快楽に身を浸していた劉鳳に、カズマが唐突に声をかける。
口を開けばケンカになるので、行為の最中はたいてい黙っているというのに、だ。
「俺の、触ってくれねぇ？」
そんなことを、言ってくる。
「何を・・・」
劉鳳は選択を迫られた。
このままコイツをぶん殴り、ここまでにしてやめるか、文句だけ言って続けるか。
体は快楽に浸りたがっているが、プライドが殴れと言っている。
よし、殴ろう。
そう思って拳を握ったところで、カズマの声が、続けた。
「お前のココまだ硬ぇしよ、今入れたら痛ぇだろ？でも俺、もうガマンできねえ」
一回イかせろよ、と、聞き慣れない情けなさを伴ったそれに、劉鳳はまじまじと相手を見上げた。
「何だよ」
「・・・いや」
自然と、口元に笑みが浮かぶ。
拳に入った力が、抜けた。
「貴様に気遣われると、気持ちが悪いな」
「なんだと、コノ」
今度はカズマがいきり立ったが、劉鳳は意に介さず、カズマの下肢に手を伸ばす。
「やってやる、大人しくしていろ」
偉そうな言い様とは裏腹に、恐る恐る、ソレに触れる。
行為はいつも一方的で、こうやって、劉鳳からカズマに触れたことはなかった。
初めて触れたソレは酷く熱く、どくどくと響く鼓動が指先を震わせる。
これ、が。
俺の中に、入ってくるのか。
そう思うと、ゾクリと背筋に甘い痺れが走った。
カズマを欲情させた劉鳳の指が、カズマの一番キモチイイところをなぞっていく。
はじめは先から根本までを、恐る恐るといったふうに指先で撫でていただけだったのだが、やがてその動きは大胆になり、カズマをイかせようとひどく的確に動き出す。
そうそう。
テメェはそうでなくっちゃな。
「やっぱ、お前の指キモチイイわ」
言えば、絶妙な力できゅう、と握られて。
カズマは遠慮なく、そのままイった。
「サンキュー」
言って、カズマは劉鳳の目元の傷をぺろりと舐めた。
体に刻まれた裂傷は、アルター使いの生き様だ。
取り澄ましやがったツラが、これでちったーマシになったぜ、とカズマは思う。
舌先に触れる、硬質化した皮膚がキモチイイ。
ナカにたっぷりと埋め込んだ、二本の指がキモチイイ。
とろりと潤んで睨んでくる、赤い瞳がキモチイイ。
ったくよ。
こんなムカつく野郎のカラダが、なんでこんなキモチイイんだろな。
「おい、擦り付けるな」
ぼんやりとそんなことを思っていると、そのムカつくキモチイイ体から抗議が上がった。
気が付けば、一回イったはずのそれを、開かせた脚の内側に擦り付けていた。
カズマのものでべったりと濡れた手のひらが、ぐいと腕を掴んでくる。
コノヤロウ。
本当に嫌だってんなら、とうに手が出てるハズだから、それほどでもねぇんだろ。
「ああ、悪ィ」
ぜんぜん全く悪いなどとは思っていないことがありありの返事を軽く返し、つり上がった眦をまた、ぺろりと舐めて。
「も、イイか？」
ずるりと指を抜き出せば、赤い瞳が一瞬揺れる。
正直、突っ込んでいる時よりも、コイツを「オンナ」にしていると実感できる瞬間だ。
ホンット、たまんねえぜ。
「・・・ああ」
そうして頷いた劉鳳の、妙に白い脚をぐいぐいと押し開き、たっぷり慣らしたその場所へ、再びいきり立った自分を押し当てる。
これから得られる快楽を、思えば自然と胸が震えて。
あー、ちくしょう。
すっげームカつく。
思いながら、気持ちのいいそこへ押し込めば、びくりと一瞬ひきつった襞が、たちまちカズマを包み込んだ。
「あー、キモチいー」
キモチイイのがムカつく、と、呟くと、ならやめろと返された。
「なんだよ、テメェだってイイだろ？」
特に触ってもいないのに、すっかち立ち上がった劉鳳のものを半分壊れた右手で掴み、カズマはまた、ぐいと腰を押しつけた。
びくん、と劉鳳の腰が震える。
気持ちのいい襞にきつく締め付けられて、カズマは片方だけの目を細めた。
「・・・っ！黙って、しろこのバカ」
乾きかけた粘液のまとわりつく手のひらで、がっきと首の後ろを捕まれて、ぐいぐいと、力任せに引き寄せられる。
「上等」
そう呟いた唇は、すぐにぶつけるようなキスに塞がれたけれど。
即座に反撃に出たカズマの舌に、劉鳳はすぐに泣かされることになった。
ぷは、と、色気なくキスを解きながら、深く深く突き込んでやれば。
「ん、や・・・・っ」
イイ声があがって、カズマを愉しませた。
へっ。
コレに関しちゃ、経験値が違うぜ。
ニヤリと笑ったカズマは、そのまま震える腰を掴み、リズムをつけて抉りだす。
「ァ、ァ、ァ・・・・」
ひと突きごとに上がる、小さな喘ぎ。
きゅうきゅうと、すがりつくように締め付けるナカ。
まったく。
たまんねぇぜ。
とろりととろけた赤い瞳を見下ろして、まるで甘いアメ玉のようなその縁に、また、唇を落としながら。
カズマはその体に、深々と自分を刻んでいった。
きつく縋られ、背に刻まれる爪の痛みが。
更に、欲情を誘っていった。
体を離したとたんに、ごつ、と頭を天井にぶつけ、カズマは頭を抱えてその場にうずくまった。
脱力してシートに転がったままの劉鳳が、まさにバカを見る目でそれを見ている。
もっかい犯ってやろーかコイツ、とムカつきつつも、カズマはふと、今ぶつかったばかりの車の天井を見上げた。
「おい、車新しくしたか？」
新しい、と言っても古びたジープだが、前に乗っていたのは、確か屋根がなかったような、と、怪しい記憶をたどる。
そうだ、確か後部座席もなくて、そのまま荷台になってたっけ。
「お前とやり合った時に、分解したのを覚えていないのか」
シート下にに放り出された服を、劉鳳の生白い腕が拾い上げた。
それを羽織って起きあがろうとする体を、カズマは呆れて見下ろした。
「・・・バカだろ、テメェ」
運転のできないカズマだが、君島の苦労を見ていれば、車が貴重なものだということくらいはわかる。
それをあっさりアルター化するなど、それこそバカのすることだ。
「うるさい」
いつも自分が言っているセリフを、コイツだけには言われたくない相手に返されて。
劉鳳は憮然として明後日の方を向いた。
「貴様のが移ったんだ」
その横顔をぽかんと見つめ。
それから、カズマはげらげらと笑った。
「バ・・・バカが移るかよ」
「貴様のは移るんだ！」
くしゃくしゃに乱れた髪を乱暴に梳かし、劉鳳は長い脚を一瞬たわませて、そのままカズマを車から蹴り出した。
シートから転げ落ちたカズマは、腹を抱えて笑いながら、自分を蹴り出したその脚を、引っ掴んでやろうと右手を伸ばす。
開きっぱなしのドアの向こう、炯々と輝く赤い瞳。
カズマがその脚を掴むのが先か。
それとも、また、蹴られるのが先か。
先の見えない、この一瞬が愉快だった。
とても。
とても、愉快だった。