独占欲
自分の下で白い体がのたうつのは、とてもとても気分の良いものだった。
いつもならば憎まれ口しか吐き出さない唇が、皆本が動くたび、感極まった声を上げるのもたまらない。
「あぁ・・・っ」
深く突き込めば、熱い襞がたっぷりと迎え入れ。
引き抜けば、まるで縋るかのように絡み付いてくる様子は、これがあのクソジジイだとわかっていても、男の本能が『可愛い』と認識してしまう。
「あ・・あ・・・あ・・・」
どろりと濁った瞳からは、快楽の涙がとめどなくこぼれ落ちて。
皆本を飲んだその場所は、限界を訴えてちいさく痙攣を繰り返している。
その様子が、ダイレクトに自身の快楽に響いて。
皆本は、ひくひくと震える白い脚を抱え直した。
「ーーーっ！」
根本まで押し込んでやれば、そこは、きゅうと締まるから。
すぐさま容赦なく引きずり出してやれば、それはもう、心地よく絞られて。
「あ、あーーーー！」
このまま引き抜いてしまった方が、こいつも、後始末をする自分も楽なことを、よくよく知ってはいるのだが。
皆本は、思うさま吐き出しながら、その奥まで勢い良く突き込んだ。
「ふぁ・・・ぅ」
中を濡らされるのが大好きな兵部は、そうすれば可愛らしいとしか言いようのない声を上げてむせび泣き。
そうして、たっぷりと種付けされながらひんひんと喘ぐその様子は、皆本の所有欲を、十分に満たすものだった。
「んだよ」
「いや」
頭を撫でたらガンをつけられた。
その様子は、まるで反抗期の中学生のようだ。
皆本は苦く笑って、その首筋に指を滑らせた。
汗に張り付いた髪を払い、官能に響き過ぎない程度に肩や背までを撫でてやると、今度は仕方なさそうな振りをして、気持ちよさそうにシーツに身を預ける。
訂正。
むしろこれは、触り方の難しい猫に似ている。
「今日は、随分きつかったな」
今日はというか、ここ最近ずっとなのだが。
兵部が自分で慣れていると言うそこは、確か、初めてした頃には、軽く濡らせば簡単に入ってしまった気がするのだけれど。
今日は、随分手間をかけて慣らしてやっても、入れる時には痛がって『へたくそ』と騒いでいたような。
「手間くらいかけろ、ボケ」
思考を透視んだのか、それともたまたまか。
正確に意図を読んで、嫌そうに後ろ蹴りしてくる脚を軽くいなし・・・ていうか捕まえた足首の触り心地が良かったので、そのまま脹ら脛までを撫で上げる。
「そうじゃなくて」
引き始めたばかりの汗のせいもあって、指に吸い付くその感触は、ひどく離し難いものだった。
「最近、他の奴とはしてないのか？」
『他の奴』が誰なのか、皆本は知らない。
もしかしたらそれはあの強面に見えて苦労性の右腕かも知れないし、皆本の知らない誰かなのかも知れない。
でも、なんていうか、こう。
最近、兵部から『他の男』の気配がしないのだ。
それは、そこの具合だとか、のぞき込んだ膝裏や脚の間に何の痕も付いていないことだとか、そういう具体的なことだけでなく。
「だったら何なんだよ」
ころりと身を返した兵部の体は、酷い傷跡さえなまめかしい。
白くて、エロくて、可愛いくて。
気持ちいい体。
これが。
「・・・そうか」
思わず、ふにゃ、と口元が緩んだ。
慌てて引き締めたそれを、しかし見逃す兵部ではなかったので。
「何だよ、嬉しいのかよ、皆本クン」
目を眇めて睨み上げる様子は、殺気がこもっていないので、怖いというよりむしろ色っぽい。
「いや、そりゃ、まあな」
なんだか慌てた皆本は、思わず手を引っ込めた。
一瞬、指先に念動力のかけらを引っかけて、もしかして無意識に引き留めようとしたのだろうかと思ったけれど。
言ったら、それこそ殺されそうなので、やめておいて。
その代わり、また、口元が緩んだ。
「えー、何だそれ、お前は俺のもの的な？うわー、気持ち悪ぃー」
その兵部は調子に乗って、子供のように騒ぎ立てている。
ていうか、ホントにこういうとこガキだな。
「うるさい。男なんだから仕方ないだろう」
自分に余裕のある時には、わりと許せる子供っぽさだが、そろそろ釘を刺さないと面倒なことになりそうだ。
長い付き合いからそう判断して水を差せば、子供の顔をしたジジイは、したり顔で嗤った。
「べつにそういうの、男に限ったもんじゃないだろ」
そんなことわかってる。
そろそろ本気でムカついてきたが、兵部の表情がふと変わり、そのムカつきは立ち消えた。
「そうかー」
ノーマルをあざ笑う、年古りた犯罪者の顔から。
撫でられて、気持ちよくなっている猫の顔。
もしくは。
褒められて喜んでいる、子供のような、顔へ。
「皆本クンは、僕が自分のものだと嬉しいのかぁ」
「・・・・・」
それを聞いてそんな顔をする、お前は一体何なんだ、と。
ちいさくつり上がった口元に見とれた皆本は、一瞬声に出しそうになって、慌てて口を閉じた。
言ったら、絶対怒らせる。
それがわかっているから皆本は、黙って白い胸に手のひらを置いた。
慣れた男の手に、ふる、と震えた肌は、しかしすぐに、傷跡ごと指に馴染むから。
そのまま、頸から耳の後ろへと撫で上げて。
銀色の髪に指を差し込み、緩く掻く。
「ん・・・」
気持ちの良さそうな声に、どうしても笑ってしまう口元を押さえられないまま。
皆本はその口を、赤く染まったままの耳元へ寄せた。
「もっかい、いいか？」
「・・・フン、しょうがないな」
仕方なさそうに装った兵部の、微笑った唇に口付ける。
背に絡み付く長い腕。
皆本のつたないキスだけで、官能に震える白い体。
これが、今、自分のもの。
そう思いながらするセックスは。
さっきよりも、ずっと、気持ちの良いものだった。