だだっ子爺の宥め方
「やだー！離せー！」
子供じみた声を上げる【養い親】に、それに慣れたはずの【子供たち】も呆れ顔だった。
女王が風邪だと聞いて、まるで鉄砲玉のように飛び出して行った兵部をなんとかバベルから引っ張りだしてみたものの。
ばったばったと暴れる兵部は、まるで子供そのものだ。
しかし。
「はーなーせー！」
「はいはい」
騒ぐ兵部を拘束した炭素単結晶繊維の先を、真木は兵部の学ランの下に滑り込ませる。
「ーーーーっ！」
とたん、びくりと体を竦ませた兵部の様子を、紅葉は綺麗にスルーした。
むしろ、真木ちゃんグッジョブくらいには思っているだろう。
ちなみに、葉はまったく気づいていない。
そのお子様っぷりは、そろそろ高校生組にも心配されるレベルだった。
真木はそのまま、腰の後ろから下着の下へと、その先端を滑り込ませる。
勝手知ったる兵部の体だ。
どうすれば力が抜けるかなど、よぅく知っている。
「ーーーーー」
上がりかけた声をかみ殺した兵部が、赤く染まった目元で真木を睨む。
しかし、その炭素繊維に感覚を持たない真木は、涼しい顔をしたまま。
大人しくなった兵部ごと、紅葉がテレポートするに任せた。
「何、しやがる！」
カタストロフィ号に戻って、ぎゃあぎゃあと口だけは喚きはじめた兵部を、そんなものにはすっかり慣れた三幹部は雑に宥める。
「はいはい」
「ジジイほんとに大人げねえな」
それでも兵部はこう見えて、世界最高レベルの複合能力者なのだ。
本気になれば、真木の拘束くらい楽に解けるし、このくらいの距離なら簡単に跳んで戻れるのだが。
「離っ、ーーーーっ！！」
上がりかけた声を、真木の炭素単結晶繊維の束が、口まで巻き付いて押し留めた。
じたじたと暴れる兵部は、もうすっかり涙目だ。
「すまんな、とりあえず寝かしつけて来る」
むーむー唸る兵部をひょいと持ち上げ、真木はさっさときびすを返した。
ちなみに、炭素繊維の先は、まだ兵部の下着の中だ。
時折先端を動かせば、ぐるぐる巻きの兵部が水揚げされた海老のように跳ねるのが、なんだかもういっそ面白い。
「お願いねー」
のんびりと手を振る紅葉と、なんだか羨ましそうな葉とに背を向けて、真木は兵部が本気で抜け出さないうちにと、とっとと兵部の部屋に向かった。
「お、ま、卑怯だぞ！」
ぐるぐる巻きのままベッドに放り出され、兵部は切れ切れに声を上げた。
その声はすっかり上擦って、彼を知る者なら何事だと思うだろう。
「このくらいしないと、アンタ大人しくしてくれないでしょう」
「誰が、するか！」
怒鳴った兵部は、しかしすぐに体をくの字に折って。
つまみ上げられた芋虫のように、じたじたと暴れた。
「っ、だから！」
ぐるぐると兵部の巻き付いた炭素繊維の先は、学ランの腰から下着の下にまで入り込んで。
更に、双丘の狭間にまで入り込んで。
更に、更に。
「てめ、っとに」
際どい場所を探られて、呼吸をするように力を使う兵部でも、全く集中できずにただただ暴れるだけだ。
しかも、暴れるものだから、真木の意図しない状態で、その先端が中に入り込んでしまい。
「〜〜〜〜っ！」
それに気づいた真木が、やっと拘束を解いた。
さすがの兵部も、もう逃げ出す元気がないのだろう。
ばったりとベッドに倒れ込む。
「馬鹿みたいに暴れるからですよ」
自業自得です、となるべく平坦に言い、畳んであったパジャマを取って、兵部に押しつけた。
「シャワーは一人で浴びられますね？」
そのまま寝ないでくださいよ、と、今度はタオルを取ろうと背中を向けると、その背に渡したばかりのパジャマが投げつけられた。
「待てこのバカ」
振り返れば、ベッドの上にぺしょりと座り込んだ兵部が、全く迫力のない瞳で睨んでいる。
「これで放置とか、ありえねえだろ」
「・・・・」
正直、真木もやりすぎたとは思ったのだ。
しかし、こうでもしないと兵部は大人しく連れ帰られてはくれなかったのだし。
「シャワーが嫌なら、着替えてさっさと寝てください。下着を持って来ますから・・・」
真木の目的は、恐らく一晩寝ていないのだろうこの人を、連れて帰って休ませることだ。
余計に疲れさせることではない。
「うるせえ」
しかし、兵部は強情だった。
「お前がこうしたんだから、お前が責任取れ」
睨む瞳に鋭さはないが、その代わり、えも言われぬ艶があった。
しかも兵部は、真木にならどんなわがままを言ってもいいと思っている節がある。
そうして。
真木も、そう思われていることを、無上の歓びと思ってしまっているのだから、始末が悪かった。
はあ、と、ひとつ大きなため息をつく。
とたん、飛んできた枕を受け止める。
結局、真木はこの人に逆らえないのだ。
兵部の座り込んだベッドの側に膝まづけば、彼は当然という顔をして、細い顎先をくいと反らした。
望みのままに白い靴下を抜き取ると、桜色の爪先に口付ける。
手の中にすっぽりと収まった滑らかな踵は、既に熱を持っていた。
当たり前だ。
徒に刺激され続けた体は、もうずっかり熱を持って疼いている。
バベルというのもまずかった。
あんなところで。
あんなところを触られて。
思い出してしまった兵部の頬に、朱が上る。
・・・感じて、しまわない訳がないのだ。
もっと、と爪先を伸ばすのに、真木はそのまま親指の先を口に含み、爪と皮膚の間をしつこく嘗めしゃぶり始めた。
ゆっくりと愉しむ夜ならば、こういうゆったりとした愛撫も好ましいのだけれど、今の兵部はそれを愉しめない程度には焦れていた。
ぐいと踵を上げたとたんに、それを支える指先を残して、ついと逃げやがった髭面が恨めしい。
このやろう。
蹴り飛ばしてやろうと思ったのに。
「嘗めろといって来たのはあなたですよ」
爪先から唇まで、糸を引いた唾液を指で拭って真木が言う。
「嘗めろじゃねえよ、脱がせろだ」
わかっててやってんだろ、とばたばた足をばたつかせれば、はいはいとそれを捕まえられて、もう片方の靴下も脱がされた。
そうしてそのまま、節の立った指が、脹ら脛から腰までを、すうるりと撫で上げて。
ベッドに乗り上げた男の体が覆い被さって来て、兵部の心臓を跳ね上げさせた。
二人の間のわすかな空間に溜まる体温に、質のいい生地越しに感じる肌の匂い。
自分を見下ろす、精悍な雄の貌。
この男が、欲しかった。
思わず笑ったところで、まるでさっきまで彼の能力でされていたように、肉の厚い手のひらが、腰の下の際どいところに触れてくる。
しかし、今は厚い学ランの生地越しだ。
もどかしいったらない。
しかも真木は、そのままその手をゆるゆると動かしながら。
もうすっかり熱くなった兵部の耳元で、低い声で囁くのだ。
「人前で、ここを触られて、感じていたんですか？」
「っあ！」
感じたに、決まっている。
決まっている、けれど。
「そうじゃ、ねえだろ」
黒々と濡れた瞳が、真木を睨む。
「そうですか」
もちろん怖くとも何ともないので、そのまま手のひらで、学ランの生地ごと、薄い肉を撫でさすった。
「んっ・・・」
そのささやかなな刺激にさえ、たまらなく感じて。
腰を揺すって見せるのに、真木はただ、愛おしげに撫でる手を止めない。
この、やろう。
兵部は真木の余裕ぶった瞳を睨み上げると、それでもフン、と高慢に笑って自分のベルトに手をかけた。
自分から欲しがって、その場所を隠すものを取り払おうとしているのに、あくまで優位ぶった様子がたまらない。
これから、自分の雄に犯されて。
泣いて喘いで種付けされる、雌になり果てるというのに。
かちゃり、と、ベルトが外れる音さえも淫美に響き、続く衣擦れに、思わず喉が鳴りそうになる。
現れた白い脚は、黒い生地から引き抜かれる様がいっそう映えて。
しかも彼は、その脚の狭間を容赦なく晒し、艶然と笑って見せるのだ。
「ほら」
これ見よがしに片膝を上げれば、真木が刺激し続けたせいで、ほんのりと赤く染まった秘所まで見える。
「おいで」
ほんの少し傾げられた首の動きまで完璧に。
兵部は、真木を誘惑する。
「いやらしい人ですね」
そんなわずかな抵抗も、彼はフフンと笑っていなしてしまう。
「やらしい僕が、好きだろ？」
「はい」
「フン」
そこで、得意げに笑ってしまう子供っぽさも含めて。
真木は、この人が大好きだ。
だから、この人の望むままに。
上げられた脚を捕まえて、よりいっそう開かせる。
とたん、ひくりと震えた兵部のものは、もう、頭を持ち上げ始めていた。
「もう、こんなに感じているんですね」
その先端にキスをすると、体ぜんぶが大きく跳ねて。
真木はそのまま、可愛らしいそれをくわえ込む。
「うる、さい」
じたじたと暴れる脚には、もうあまり力は入っていなかった。
少しのイタズラで力の抜けてしまう、感じやすい体なのだ。
こんなところをくわえられてしまえば、あっけないほどの陥落する。
「そっちじゃ、ねえだろ」
上がった声は、涙声だった。
これ以上焦らして、また癇癪を起こされても困る。
真木は、口をすぼめてずるうり、と、兵部のものを吐き出した。
とたん、ふるると震えた体に、イくだろうかと思ったが、兵部はきゅうっと歯を食いしばり、なんとかそれを堪えたらしい。
その表情にも、煽られる。
口腔に溜まった唾液を指に絡め、少し刺激しただけで、ふっくらと綻びかけている場所に塗り付けた。
とたんに開いた闇色の瞳が、ゆるりと細められるのを愉しみながら、ゆっくりと、そこへと指を差し込んでいく。
「ん・・・・っ」
鼻にかかった声が、可愛らしい。
その声をこぼす唇にかぶりつきたかったが、今は、彼を満たしてやる方が先だろう。
ゆっくりと指を抜き差しすれば、熱を持った襞が絡みついて、とてもとても気持ちよかった。
それは、兵部も同じなのだろう。
「あ、あ・・・・」
緩く息をつきながら感じ入る様子は、それだけで男を煽るものだった。
「ぅん・・・っ」
指を増やしてかき混ぜれば、もっと、と欲しがるように腰を揺らして。
それからふっと気づいたように、おぼつかない指で学ランのボタンを外し始めた。
彼の体は美しいし、その仕草は可愛らしいけれど。
上はきっちりと着込んだまま、下肢だけを晒したその姿も酷くそそるので。
「着たままでもいいですよ」
三本に増やした指を、ぐっと押し込みながら言うと。
「うんっ・・・や、だ」
先ほどのだだっ子に戻ったように、兵部はふるふると首を振った。
広がって散る、銀色の髪が綺麗だ。
「ていうか、おまえも脱げ」
シャツを半分はだけたところで、真木の服にも手を伸ばし、力の入らない指でスーツのボタンに触れる。
「・・・わかりました」
「ーーーっ！」
ぐるり、と広げた指を回しながら抜いて、その人の体を跳ねさせてから。
真木は、手早く服を脱いだ。
それから、とろん、とした目で逞しい体を見上げていた兵部の肩に、引っかかったままだった学ランと、脱げかけのシャツも脱がせてしまう。
そうして胸の傷跡に口付けると、兵部はごくごく当たり前のように、真木の首にすがりついて。
真木も、そのあたたかな体を抱き留めた。
「ん」
胸を合わせると、満足げな吐息が漏れて。
そのまま、十分に準備した場所に、いきり立ったものをあてがえば、兵部は少し体を離して真木を見上げ。
赤い唇を半分開けて、真木の唇に吸い付いてきた。
「ん、ん・・・・・っ！」
わずかに濡れた入り口は、拒むきつさでそこを突き破る男の欲を誘い。
一度入ってしまいさえすれば、きゅうきゅうと締め付けて、喜んだ。
互いの唾液に濡れた唇を、ちゅく、と離してはぁと息をつく。
その色づいた唇を欲しがって、また、顔を近づければ、兵部はふるると首を振って嫌がった。
キスの大好きなこの人にしては、珍しい。
何故？と見上げて来る瞳をのぞき込めば、彼はゆるりと唇を歪め、真木を飲んだ腰を揺らした。
「こっち、集中しないなら、おあずけだ」
本来受け入れる機能のない場所を、外から無理矢理開かれて。
そこはすっかり真木の形に広がって、真木を食んで、喜んでいる。
喜んで、もっと、酷くして欲しいと、濡れた襞でしゃぶりついて。
「・・・わかりました」
子供のように人肌を欲しがるさまも、だだをこねる様も。
こうして、ろうたけた笑みを浮かべ、体の奥から男を誘ういやらしさも。
この人のすべてが愛しくて、真木の胸を熱くさせた。
「こう、ですね」
「ひぁ！」
ずくり、と深く押し込めば、高く鳴くような悲鳴が上がった。
痛々しさを装って、男を誘い込む、声だ。
その声をもっと聞くために。
その体を、もっと喜ばせるために。
真木は、いとしい体を抱きしめた。
そうして。
兵部も、熱く熟れた体で、それに応えた。
すっかり満足した体で、すやすやと眠るその人の顔色は、それでもあまり、良くはない。
結局、兵部に請われるまま、彼がイき過ぎて失神してしまうまでシてしまったのだから、当然だった。
それでも。
まるで正真正銘子供のような、あどけない寝顔を眺めながら、真木は思う。
そのくらいしないと、宥められてくれない強情さも含めて、この人を愛しているのだと。
この人を大人しくさせる方法なら、いくらでも考え出してみせる。
それでも、どこへでも好きなように行ってしまうのが、この人だとも知っているので。
真木は、どこへだって彼を迎えに行くし。
その宥め方だって、日々進化していくのだ。
でも。
「この方法は、後があまり良くないな・・・」
だだっ子爺のお守り役の悩みは、いつまでも、尽きないのだった。