ボクノモノ
「やらかいね」
そう言われて、玲二は与えられる刺激にではなく、きつく眉根を寄せた。
お互いに、もう纏うものもなく、すべてを曝して。
玲二などはもう、ナカに英治の指まで受け入れて。
たっぷりと注がれたジェルの助けを借りて、奥の奥まで暴かれて、もういい加減喘いで強請ってしまおうかと、そんなことを考えていた頃合いだった。
「スゴく、最近・・・ここでシたよね、玲二」
ぐ、と。
玲二に痛覚がないことを理解った上で、英治は痛めつける意図で差し込んだ指を酷く動かした。
「っ、あ」
そうして、それは成功している。
痛みはなくとも、そこを嬲られる苦しさはある。
そこで受け入れることに、慣らされている者ならばなおさらだ。
最後にしたのは十年以上前だというのに、英治は玲二の弱いところを、すべて覚えて忘れていない。
「誰？玲二。キミの・・・僕のココに触ったの」
人前では性で呼ぶようになっていた英治は、それでも二人きりになると、やはりこう、玲二を呼ぶ。
今、玲二を名で呼ぶのは英治だけだ。
文字通り、我が物顔で玲二のそこをかき回す英治の指に逆らわず、緩く、腰を揺らめかせ。
わずかに口元に笑みをはき、森次玲二は完璧な勝負中の顔（ポーカーフェイス）で囁いた。
「俺の体をこんなにしたのは、お前だろう、英治」
そう。
幼い玲二の、重要な感覚器を欠損した体に、他の感覚で覚え得る、すべてを教えたのは英治なのだから。
「そうか、そうだよなァ」
とたん、満面の笑みに変わった英治の表情。
その、異常さに。
玲二の背筋に、つめたいものが駆け上がる。
しかしそれは、下肢から沸き上がる熱に、浸され、侵されて。
やさしく、玲二を感じさせるための動きに変わった指に、打ち消され。
もどかしさに喘いだ玲二は、彼の首に腕を回してすがりついた。
それでも。
「悪かったよ、玲二」
猫なで声の英治の誤解。それを増長させるために、低く、声を振り絞る。
「・・・・まったくだ」
とたん、くくくっと英治の喉が鳴った。
内から指が引き抜かれ、熱いものがあてがわれる。
玲二と英治は体格がほとんど変わらない。
ずるりと侵入ってきた英治自身は、いつも受け入れているものよりも格段に大きく、それでも潤滑剤の滑りを借りて、玲二の体を傷つけるには至らなかった。
「は・・・・・っ」
痛みを感じない体に、それはきつい圧迫感と大きな違和感。
それから、たまらない充足感を醸し出す。
「イイ顔するなァ・・・玲二」
今、自分がどんな顔をしているのか、玲二にはわからない。
「スゴく、色っぽいよ」
それでも、生理的な涙にかすんだ視界の中で、英治の顔は見て取れた。
それは。
昔見た、大好きな幼なじみの。
世界の中で、たったひとり、玲二の味方だった少年のものと、何ら変わりはなく。
「っ、ア・・・・・・っ」
ずるり、ずるりと身の内を抉るものを締め付けながら、玲二は英治の首に腕を掛け、力任せに引き寄せた。
くすくすと、耳元に流し込まれる呼気に、感じる。
「変わらないなァ、玲二・・・・」
ジェルの乾かないままの指が、無様に開かれた脚を這い、そうして突き上げられる度に、びくりびくりと痙攣を繰り返す腰を、強く掴んで引き寄せて。
奥の奥まで含まされた玲二が、大きく首を振り、たまらないといった風情で閉じられない脚を擦り寄せてくるのを楽しみながら。
「ウン、僕のつけた癖、全部残ってる。・・・決まった相手は、いなかったみたいだね」
強い猜疑心と独占欲を隠そうともせずに、英治は玲二のナカに、己の存在を刻み込む。
そんなことをしなくても。
とうに、消えない傷は刻み込まれているというのに。
「ア、ふ・・・・っ、えい、じ」
鼻にかかったような、自分の声が煩わしい。
演技ではない、甘えた声が。
勝手に漏れて、続きをねだる。
ねだって、しまう。
「も、・・・ぅ」
「うん。・・・玲二」
そうして返された声は、背筋がとろけそうに甘いものだった。
見上げた彼の瞳は、あの、恐ろしいものでは決してなく。
それが余計に、玲二を切なくさせ、追いつめた。
「ク、あ、は・・・・ぁっ」
イくときに、まるで抵抗するようにのたうつところも変わらない。
その様子に目を細め、英治も玲二のナカに、熱いものを吐き出していた。
ようやく訪れた解放に、荒く息をつく玲二の髪を、そっと払いながら英治が言った。
「やっぱり、玲二はキレイだなァ」
生理的にこぼれ落ちる涙にかすんで、英治が見えない。
眼鏡、かけないと。
いや、そうじゃなく。
正常な機能を失った思考の端は、それでもどこかに繋がっている。
『やっぱり、森次さんはキレイッス』
同じことを言うんだな、と。
繋がった何かが呟いて。
そうして、そのまま思考が落ちた。
髪を撫で続けている手のひらが、誰のものかは。
もう、よくわからなかった。